著者
土井 健司 宍戸 栄徳 柴田 久
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、成果論文「都市基盤整備におけるコンフリクト予防のための計画プロセスの手続的信頼性に関する研究」において、先ほど最高裁判決の出された小田急線高架化事業取消請求事件を事例検証している。さらに都市基盤整備を巡る訴訟判例の経年的整理よりコンフリクトを巡る問題の構図が明らかにされている。特に小田急線問題に象徴される環境アセス手続主体間の独立性を巡る課題やコンフリクトの象徴を明らかにし、長い計画期間を有する都市基盤整備が留意すべき公益性とリスク評価の捉え方を提示している。結論として、実体関係に基づく手続審査とソーシャルキャピタル論からの手続的信頼性の意義を再考し、アセスメント手法などの改善の必要性を示している。これに基づき成果論文「イギリスの政策評価におけるQoLインディケータの役割と我が国への示唆」において、コンフリクト予防のための政策アセスの取り組みについて先進事例を紹介している。またコンフリクト予防に対する実践的研究として、成果論文「QoL概念に基づく都市インフラ整備の多元的評価手法の開発」を行い、生活の質(QoL)の向上という長期的な目標設定と、市民の価値観の多元性を組み込んだQoL評価(総合アセスメント)の仕組みについて、その重要性が示唆されている。ここでのQoL評価は、総合アセスの骨格に過ぎないものの、相互の価値観の違いをQoL要素の重みの違いと理解したうえで、共通利益としての公益を探ることこそが市民相互の互酬性を育み、ソーシャルキャピタルの醸成、さらに結果として都市基盤整備をめぐるコンフリクト予防に繋がるという論証結果が一連の研究成果として示されている。なおこれらの研究活動は、土木計画学研究委員会 政策重点課題プロジェクトの研究成果として位置づけられるものである。