著者
土井 健司
出版者
宗教哲学会
雑誌
宗教哲学研究 (ISSN:02897105)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.44-56, 2019-03-30 (Released:2019-05-22)

In this paper I would like to pursue two questions regarding the Passio Sanctarum Perpetuae et Felicitatis. The first is why Perpetua, a noble and educated young woman in Carthago, in 203 CE chose martyrdom, being fully aware of her death. The second question concerns the relation between the historical figure of Perpetua and the Passio as a literary product. It is often said that recounts of martyrdom intend to instrumentalize saintly people for the church. In this paper an alternative view with regard to the role of such books is considered. For Perpetua to be a Christian meant freedom (libertas) from Roman society and its gods (Passio, 18, 5). In the Roman Empire and cities many places were filled with statues of gods assigned to those places. Perpetua wanted to be free from these traditional places of symbolic “divine” presence. To her father she said (3, 1f) that, just as a vase could not be called by another name than ‘vase’, she could not be called by another name than ‘Christian’ (Christiana). To be called a Christian indicated her true identity and essence as a person which could not be given up without loosing herself. This is why she could not accept her father’s attempt at persuasion although she had been moved many times by his words. Recounts of martyrdom are commemorated in Christian churches for the purpose of community building and spiritual advancement. The saints of such recounts often become models for the believers, but sometimes seem to be mere products of the church. As to the Passio, the author indicates in 1, 6 the reason for writing his account, namely to enable believers to communicate with Perpetua. Perhaps the Passio was recited in the liturgy of her Memorial Day on May 7th. When it was read, believers could communicate with her through the Holy Spirit, because the church was to be the church of the dead and the living. I propose this to be the purpose of the Passio.
著者
土井 健司
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.427-447, 2008-09-30

本稿では、「フィランスロピア」を手がかりに、最初の四世紀に見られるキリスト教批判について考察する。キリスト教を「人類憎悪」(ミサンスロピア)としたローマ社会の批判、中傷、迫害のなかで二世紀の弁証家ユスティノスはフィランスロピアの神ならびにその模倣としてキリスト者の道徳性を弁明する。また神の受肉を善から悪への変化と捉えて批判するケルソスに対して、三世紀のオリゲネスは神の善性をフィランスロピアと捉え、神は神(=フィランスロピア)であるから受肉したと反論する。さらに四世紀ユリアヌス帝は、キリスト教の興隆は貧者への愛(フィロプトキア=フィンラスロピア)の実践の故であるとキリスト教批判を展開した。そこでこのフィロプトキアについて大バシレイオスが建てた救貧施設に関するナジアンゾスのグレゴリオスの著作をもとに考察し、救貧の実践が「キリストの模倣」と捉えられることを確認する。キリスト教批判を通して、神のフィランスロピアとその模倣としてのキリスト者のフィランスロピアというものが迫害、受肉、救貧において展開し、これらが神学的にも実践的にもキリスト教形成の一翼を担っていたのである。
著者
土井 健司
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.1-26, 2012-06-30

本稿では最古の病院のひとつに数えられるカイサレアのバシレイオスの建てた病院施設「バシレイアス」について残存する資料を用いて再構成し、さらにバシレイオスがこれを建てた理由、背景を探り、最後に彼の病貧者観について考察する。残存する資料から次のことが分かる。バシレイオスはウァレンス帝から賜ったカイサレア近郊の土地に病院施設を建てたが、そこには看護者、医者、牛馬、さらに案内人として聖職者たちもいた。これはバシレイオス自身によって「カタゴギア」、「クセノドケイオン」、また「プトコトロフェイオン」とも呼ばれている。バシレイオスは寄付によってこの施設を運営し、おそらく患者や旅人などは無料であった。また彼は定期的にこの施設を訪れ、なかでもレプラの病貧者の治療を行っていた。それは修道士たちによっても実践され、それはバシレイオスの定める修道的生活のプログラムに含まれていた。この病院はバシレイオス自身のフィランスロピア思想と受肉論に支えられていて、蔑まれていたレプラの病貧者を同じ人間として、またキリストとしてその看護・治療を行って行く場所となっていった。
著者
小松 美彦 大谷 いづみ 香川 知晶 竹田 扇 田中 智彦 土井 健司 廣野 喜幸 爪田 一寿 森本 直子 天野 陽子 田中 丹史 花岡 龍毅 的射場 瑞樹 皆吉 淳平
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

米国で誕生し日本に導入されたバイオエシックスの特性を検討した。すなわち、文明論、歴史、メタ科学、経済批判、生権力の視点が稀薄ないしは欠落していることを剔抉し、日本の生命倫理の改革の方向性を検討した。成果は共著『メタバイオエシックスの構築へ--生命倫理を問いなおす』(NTT出版、2010)にまとめた。また、バイオエシックスが導入された1970~80年代の日本の科学・思想・宗教・政治状況を、文献輪読やオーラルヒストリー調査などを通じて考察した。以上は、国内外の研究にあって初の試みであり、書評やシンポジウムなどで高く評価された。
著者
中西 仁美 土井 健司 柴田 久 杉山 郁夫 寺部 慎太郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 = Proceedings of JSCE (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
no.793, pp.73-83, 2005-07-20
被引用文献数
5 3

イギリスでは市民生活の質の向上を国家レベルでのサステイナビリティ実現の前提条件と位置づけ, 政策レビューにQoLインディケータ (QoLIs) を用いている. 本稿は, イギリスにおけるQoLIsシステムの導入経緯とわが国の政策運営への示唆を明らかにしている. イギリスでは, エンドアウトカムに着目して市民生活の改善度を測るQoLIsは, 政策への市民の関心を高め, 行政と市民との対話や自治体間の連携を容易にしたと評価され, QoLIsを政策インプットにフィードバックする方法も考案されている. しかし, 現状のシステムは政策レビューには有効ではあるものの, 事前のアセスメントへの適用には課題を抱える. 本稿ではこのようなQoLIsシステムの限界を捉えた上で, わが国におけるQoLの改善を全体目標とした総合アセスメントの考え方と, QoL最大化のための政策設計の必要性を示唆している.
著者
土井 健司
出版者
宗教哲学会
雑誌
宗教哲学研究 (ISSN:02897105)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.18-34, 2007 (Released:2019-09-18)

In this paper I examine Gregory of Nyssaʼs thought of salvation of the pauper by considering his Homilies on the Beatitudes (Oration V) and his three sermons, i. e. “Against Usury”, “On Good Works”, and “On the Saying, ʼWhoever Has Done It to One of These Has Done It to Me’ ”. His thought of salvation of the pauper is founded upon his thought of philanthropy (philanthropia) and the eschatology. His thought of the philanthropia is based upon the ideal unity of the human nature. We should show the mercy for the pauper who has same nature. If one does not show it, he opposes his own nature. By drawing an eschatological scene Gregory proclaims that he who does not show the mercy for the pauper is accountable for the pauper’s death, because it is by his own free choice that he does not show the mercy. So we should make ourselves watch the pauper and show the mercy for them who have the same nature of humanity. God is also merciful, so we imitate him by the mercy for the pauper. Our deification will be achieved through this mercy.
著者
田坂 さつき 島薗 進 一ノ瀬 正樹 石井 哲也 香川 知晶 土井 健司 安藤 泰至 松原 洋子 柳原 良江 鈴木 晶子 横山 広美
出版者
立正大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、日本学術会議第24期連携会員哲学委員会「いのちと心を考える」分科会委員のうち9名が参画し、同分科会委員長田坂さつきを研究代表者とする。本研究には、政府が主催する会議などの委員を歴任した宗教学者島薗進、倫理学者香川知晶に加えて、医学・医療領域の提言のまとめ役でもあり、ゲノム編集による生物医学研究の黎明期から先導的に発言してきた石井哲也も参画している。医学・医療領域におけるゲノム編集に関する提言に対して、哲学・倫理の観点からゲノム編集の倫理規範の構築を目指す提言を作成し、ゲノム編集の法規制の根拠となる倫理的論拠を構築することを目指す。
著者
林 良嗣 土井 健司 杉山 郁夫
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.2004, no.751, pp.55-70, 2004-01-20 (Released:2010-08-24)
参考文献数
24
被引用文献数
11 3

近年, 社会資本整備に際しては費用便益分析法などの評価手法が定着しつつあるが, 一方で市民が持つ多様な価値観を反映できる総合的な評価指標が必要とされている. 費用や便益の最終帰着先である市民生活の状態を測るための指標である Quality Of Life (QOL) は, 広範囲な分野をカバーする性質上, 要素毎の評価を総合する段階で相互の重み付けを避けて通れない性質を持つ. 本論文ではQOLを5つの評価要素から説明し, これを市民の充足度に基づき計測する方法を提案している. その際, 要素の重みと代替弾力性の推定により充足度の総合化を可能とし, 加えて充足度の変化に伴う重みの補正機能を内包させている点に特徴がある, 本研究ではこの方法を広域交通社会資本の評価に適用し, QOLの with/without 比較に基づく整備効果の計測を試みている.
著者
土井 健司 中西 仁美 杉山 郁夫 柴田 久
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.288-303, 2006 (Released:2006-07-20)
参考文献数
29

都市インフラ整備においては,適切なスコーピングの下で,様々な価値観に照らした総合的な公益性の判断が必要とされる.本研究では,多様な利害グループの共同利益の同時性という視点から,インフラ整備を評価する手法を開発している.これは個人・社会に跨る多元的な共同利益を表わすQoL概念に基づき,主体の価値観の違いに起因した整備効果の違いを可視化することにより,意思決定の透明性と当事者間の公平性の確保を支援するものである.本稿では,2004年に甚大な高潮被害を受けた高松港海岸の整備シナリオの評価に本手法を適用し,グループごとのQoL改善効果の違いを明らかにした上で,安心安全性,経済活動機会,生活文化機会,空間快適性および環境持続性という5つの要素に基づく総合的な公益性に関する分析を行っている.
著者
林 良嗣 谷口 守 土井 健司 佐々木 葉 杉原 健一 冨田 安夫
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

人口減少・少子高齢化が早く進む地方都市において,郊外からの計画的撤退と中心市街地の再構築が必要であることを示し,さらにその具体的な方法論を明らかにするために,愛知県豊田市をスタディエリアとして,以下の検討を行った.1.将来状況予測:人口予測に基づき,市内各地点の居住環境質,インフラ維持コスト,環境負荷を計測し,郊外部での悪化傾向を示し,人口減少・少子高齢化が進行する地方都市では双対型都市戦略(郊外からの撤退・中心市街地の再構築)の必要性を示した.さらに,今後の都市域縮小策による社会基盤整備コスト削減効果を世代会計の手法を用いて評価した.2.政策目標運成度指標:QoLインディケータを適用した欧米の事例調査に基づき,わが国の都市構造検討に適用可能なQoL・市街地維持コスト・環境負荷の面からなる多元的評価手法を開発した.さらに,QoL向上を可能とする都市構造として分散集中型構造の提案を行った.3.市街地デザイン:街区デザイン検討のための3次元都市モデル自動生成システムの開発を行った.,これを用いて,複数のシナリオにもとづく将来の建物の更新結果の景観を予測評価し,現状の容積率の引き下げ(ダウンゾーニング)の案などを提示した.一方,中心市街地再構築に必要不可欠な自動車依存脱却策の1つとして,自動車共同利用に着目し,国内の事業化事例を対象とした分析を行った結果,自動車保有台数削減等の環境改善効果が観測された.4.事業化検討:日本の密集市街地整備事業の現状と課題を整理し,民間非営利組織による密集市街地整備事業の先進的な事例分析に基づいて,民間非営利組織の役割および特徴について明らかにした.また,TDR制度導入による郊外田園の開発抑制と,都市空間の広域的管理手法としての開発権取引の導入効果について検討した.
著者
土井 健司
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.1-26, 2012-06-30 (Released:2017-07-14)

本稿では最古の病院のひとつに数えられるカイサレアのバシレイオスの建てた病院施設「バシレイアス」について残存する資料を用いて再構成し、さらにバシレイオスがこれを建てた理由、背景を探り、最後に彼の病貧者観について考察する。残存する資料から次のことが分かる。バシレイオスはウァレンス帝から賜ったカイサレア近郊の土地に病院施設を建てたが、そこには看護者、医者、牛馬、さらに案内人として聖職者たちもいた。これはバシレイオス自身によって「カタゴギア」、「クセノドケイオン」、また「プトコトロフェイオン」とも呼ばれている。バシレイオスは寄付によってこの施設を運営し、おそらく患者や旅人などは無料であった。また彼は定期的にこの施設を訪れ、なかでもレプラの病貧者の治療を行っていた。それは修道士たちによっても実践され、それはバシレイオスの定める修道的生活のプログラムに含まれていた。この病院はバシレイオス自身のフィランスロピア思想と受肉論に支えられていて、蔑まれていたレプラの病貧者を同じ人間として、またキリストとしてその看護・治療を行って行く場所となっていった。
著者
中野 裕介 豊嶋 克行 垂水 浩幸 土井 健司 高橋 恵一 林 敏浩
出版者
情報処理学会
雑誌
研究報告グループウェアとネットワークサービス(GN) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.14, pp.1-7, 2010-05-13

商店街は,それぞれの店と顧客とのソーシャルグラフ上に形成されたリアルなネットワークである.しかし近年郊外型の大型店舗の出店や人口の空洞化により,全国的に商店街のネットワークが縮小している.本研究では都市におけるアフォーダンスに着目し,twitter や IC カードを用いた地域ネットワークの形成を促進する取組を行っている.The shopping district is a real network on the Social Graph which shows the relation between the shops and the customers. However, increasing of shopping mall in suburb and becoming hollow of population have created worry about reducing the network of any shopping districts. In this research, we have concentrated on "affordance" in urban development, and improved to build up the network of local as using "twitter" and IC cards.
著者
土井 健司
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究を通してカッパドキア三教父の救貧に関わる思想と実践について総合的に明らかにすることができた。大バシレイオスは369年の食糧危機に際して富裕者に食糧の供出を求めて実現し、さらに72年には世界最古の病院の一つ「バシレイアス」を建て、主にレプラの病貧者のケアを実践する。ナジアンゾスのグレゴリオスはこれをサポートする説教を行い、ニュッサのグレゴリオスも同様の説教ならびに他の救貧説教を残している。彼らの思想では、貧者はキリストであり、貧者へのケアはキリストへの奉仕になる。これを支えるのが受肉論である。逆に言えば、受肉論によってはじめて、社会のなかで人間扱いされない貧者(特にレプラの病貧者)が「人間」としてクローズアップされるのである。