著者
藤永 太一郎 竹中 亨 室賀 照子
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌
巻号頁・発行日
vol.1974, no.9, pp.1653-1657, 1974
被引用文献数
1

號珀(コハク)は古代から装身具として用いられ,わが国においても遣跡や古墳から発掘されている。本研究においてはこれら発掘品の原産地の同定法の検討を行なった。資料は地質学的標準資料として,原産地の明らかな久慈,銚子,瑞浪,神戸のわが国主要産地0ものと比較のため撫順,バルティック,ニュージランド産出のものを,考古学的資料は京都府長池古填のもの2種と奈良県東大寺出古墳群のもの7種を用いた。融点測定を行なったが,発掘品をますべて3QO℃以上であり,完全に化石化していた。元素分析の結果はlC:耳:Oは久慈;33二52:4,銚子;91:142:4,瑞浪;184:3O<sup>2-</sup>:4,神戸;60:39:4とばらつきがあるが,東大寺山;22:32:4,長池;22:34:4とほぼ同様の比を示した。赤外吸収スペクトルは全波長領域にわたって産地特有のパターンを示した。とくに久慈産の褐色のものと黄色のもの,および撫順産の2種は同-のパターンが得られた竃これらの事実から,日本産號珀についても赤外吸収スペクトルによって産地の同定を行ないうることが判明した。東大寺幽12号古墳の6種および長池古墳の2種はいずれも同-の産地であり,久慈産のものと同定された。このことから古墳時代においてすでに東北地方と近畿地方の間で交易のあったことが推論される。
著者
藤永 太一郎 竹中 亨 室賀 照子
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.25, no.11, pp.795-799, 1976-11-10
被引用文献数
1

日本産のコハクについて赤外吸収スペクトルにより産地同定が可能であることを報告したが,本報では更に新たに得た外国産の資料についても検討し,これらも同様に産地同定できることを明らかにした.又,本邦産のコハクについても新しく資料を入手し詳しく検討した.資料は地質学的標準資料として久慈I,久慈IIの久慈産と,海鹿島,波止山No.1-1,波止山No.1-2,長崎海岸No.5,犬吠崎No.6-1,酉明浦No.7,酉明浦No.8の銚子産,竹折の宿の岐阜産,外国産として撫順III,Palmnicken, Dominica,及びDalmatiaのRetiniteを用いた.又,考古資料としては千葉県銚子市の粟島台遺跡のもの2種,奈良県富雄丸山古墳,於古墳,慈恩寺脇本古墳より出土したものを用いた.元素分析の結果は地質学的資料はC:H:0=43〜208:70〜350:4,考古学的資料はC:H:O=19〜56:29〜91:4で,考古学的資料のほうがばらつきは少ない.赤外吸収スペクトルは全波長領域にわたって産地特有のパターンを示し,同一産地は同一パターンであった.考古出土品の原産地については富雄丸山古墳,於古墳,脇本古墳の2資料はいずれも久慈産のスペクトルの特徴をそなえており,粟島台遺跡の2資料は銚子産のものと同定した.これは古墳時代に東北久慈のコハクが,近畿地方にまでゆきわたっていたことを示している.