著者
宮園 貞治
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

幼少期に虐待やネグレクト(育児放棄)などの大きなストレスを経験すると、脳内に異常が生じ、将来うつ病や心的外傷後ストレス症候群(PTSD)などの不安障害の発症率が高くなることが知られている。また、心臓病や肺がんの発症率も上昇すると言われている。このように、幼少期ストレスは、脳内神経回路の正常な成熟を妨げることで、精神だけでなく身体にも将来的に深刻な異常をもたらす危険性がある。本研究では、幼少期に母仔分離ストレスを経験したマウスを用いて、幼少期ストレスによって精神と身体の両方に異常を引き起こす脳内神経回路の変容機序の解明を目的とした。前年度に、幼少期ストレスが高所ストレス耐性機構に対して雌雄で異なる影響を与えることを見出した。平成30年度は次のような成果を得た。1.異なる性質の匂い物質を用いて匂い認知試験を行った。嫌悪臭である酪酸に対する行動には、幼少期ストレスは雌雄で異なる影響を与えた。すなわち、オスでは嫌悪行動が全く見られなくなったのに対して、メスでは嫌悪行動がわずかに低下しただけであった。2.先天的恐怖を誘起するピラジン化合物に対する行動には、幼少期ストレスの影響は雌雄いずれにおいても見られなかった。3.脳内神経活性の網羅的解析を行った。幼少期ストレスは、情動やストレスに関する脳部位である扁桃体における神経活性に大きな影響を与えた。以上のことから、幼少期ストレスが嗅覚を介するストレスを制御する脳内神経回路にも影響を及ぼし、その影響にも性差があることが明らかになった。嗅覚と高所という異なるストレスに対する耐性に、幼少期ストレスが異なる影響を与えることは興味深い。今後、この新たに派生した研究課題についても取り組んでいく予定である。
著者
柏柳 誠 長田 和実 宮園 貞治
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.112-118, 2016-03-25 (Released:2020-09-01)
参考文献数
21

ニホンオオカミが絶滅してから,100年以上が経過している.最後にニホンオオカミが目撃された場所は,紀伊半島であった.その後,福岡で目撃情報があったが,群れをつくるオオカミが単独で行動することが考えられないために野犬ではないかと結論づけられた.本小論は,絶滅以来100年を経過しているためにオオカミに対する怖さを体験していないエゾシカがオオカミ尿由来物質(P-mix)を忌避するとともに恐怖関連行動を示した研究成果を中心に紹介する.