著者
宮川 渉
出版者
日本音楽学会
雑誌
音楽学 (ISSN:00302597)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.90-105, 2020 (Released:2021-03-15)

本稿の目的は,カイヤ・サーリアホが,《光の弧》において,フランス国立音響音楽研究所(IRCAM)で開発されたコンピュータ技術を用いていかにスペクトル音楽の作曲技法を実践したかを検証することである。そのため,まずスペクトル音楽の作曲技法の中核をなすものが「モデル」と「変形プロセス」という2つの考えに基づいていることを確認し,次にこれらの2点が《光の弧》においていかに現れているかを検証した。具体的には,サーリアホが残したコンピュータ・プログラムのデータ,スケッチなどの分析を中心に調査を進めた。 その結果,「モデル」という考えは,IANAというコンピュータ・プログラムを用いてチェロの音をスペクトル解析した結果を和音として使用するサーリアホの手法の中に見出すことができ,また「変形プロセス」に関しては,Formesというコンピュータ・プログラムが算出した「補間法」を用いてリズムを構築する方法において見られた。しかし,サーリアホはコンピュータが算出するデータをそのままの形で使用したのではなく,それらを変形させたり,一部のみを取り上げたりすることによって,作曲に必要な音素材に変えていった。このように《光の弧》の作曲過程において,彼女はスペクトル音楽の作曲技法を厳格にではなく,より自由な形で扱っていることが判明した。
著者
宮川 渉
出版者
日本音楽表現学会
雑誌
音楽表現学 (ISSN:13489038)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.1-20, 2018-11-30 (Released:2020-05-25)
参考文献数
42

武満徹の《秋庭歌一具》は雅楽の重要な作品として知られているが、この作品を書く上で下地となった作品が二 曲存在すると考えられる。それは《ランドスケープ》と《地平線のドーリア》である。本稿はこれらの三作品において、どのようなかたちで雅楽の要素が現れているかを検証することにより、これら三作品の共通性を明らかにすることを目的とする。そのためにこれらの作品における音組織と反復性の二点に焦点を当てて分析に取り組んだ。また《地平線のドーリア》には、 ジャズ・ミュージシャンのジョージ・ラッセルが提唱した理論であるリディアン・クロマティック・コンセプトからの強い影響もあると武満自身が語っており、武満は、この理論を用いてジャズよりも雅楽の響きに近いものを追求したと考えられる。 その点も合わせて検証した。