- 著者
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宮腰 将史
星山 彩子
鴨井 久司
金子 兼三
- 出版者
- 新潟大学
- 雑誌
- 新潟医学会雑誌 (ISSN:00290440)
- 巻号頁・発行日
- vol.122, no.5, pp.233-239, 2008-05
メタボリックシンドロームは,平安時代から存在し,1980年代から指摘されていた病態である.近年,脂肪摂取量の増加や運動不足の増加により,内臓脂肪型肥満が増加している.このために,分かりやすい診断基準が必要となり,この度メタボリックシンドロームという新たな診断基準が設けられた.診断基準はウエスト周囲径を必須項目とし,脂質,血圧,血糖のうち2項目以上を満たすものと定められた.ウエスト周囲径の基準については,女性が甘めに設定されているため,まだまだ議論の余地があり,不十分な基準である.内臓脂肪型肥満によって惹起される高血圧,高脂血症,高血糖の病態はたとえそれぞれの症状が軽微であっても心血管系疾患の発症リスクが増加する.そのため,ハイリスクでありながら見過ごされていた症例の早期介入が必要になる.耐糖能異常のある男性の7割以上がメタボリックシンドロームとなっており,糖尿病と関連が深いと考えられている.よって,メタボリックシンドロームの症例では糖負荷試験を施行することが推奨されている.メタボリックシンドロームの病態の主体は,脂肪細胞の分泌臓器としての役割である.脂肪細胞はアディポサイトカインと呼ばれる多彩な生理活性物質を分泌しており,過栄養により分泌異常を引き起こす。脂肪細胞の肥大化により,善玉アディポサイトカインが減少し,悪玉アディポサイトカインが上昇をする.その結果,動脈硬化のリスクが高まる.治療は,食事療法と運動療法が柱である.内臓脂肪を減少させる薬物療法はないが,メタボリックシンドロームに有効と報告されている薬剤はあり,今後も開発が期待される.内臓脂肪蓄積が主病態の糖尿病患者が増加している.メタボリックシンドロームの治療は,糖尿病の新規発症予防だけでなく,有効な治療と成り得る.メタボリックシンドロームの適切な診断と治療法の確立,更なる病態解明,十分なPRと理解,有効な治療薬の開発が大いに期待される.