著者
富田 昌平 近藤 彩乃 TOMITA Shohei KONDO Ayano
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 = BULLETIN OF THE FACULTY OF EDUCATION MIE UNIVERSITY. Natural Science,Humanities,Social Science,Education,Educational Practice (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.235-244, 2018-01-04

本研究では、魔術的結果の実現可能性が示唆されるような状況下における、幼児の想像と現実との揺らぎについて検討した。具体的には、従来行われてきた空箱課題(Harris, Brown, Marriott, Whittall, & Harmer, 1991)、または、恐竜の卵課題を幼児(4-5 歳児26 名)に実施し、想像した事柄(箱の中に想像した赤ちゃん恐竜/恐竜の卵)に対する幼児の現実性判断を言語面と行動面から探った。実験の結果、事前の段階では大部分の幼児が恐竜について何らかの知識を持ち、それを少なくとも身近な場所にはいないものとして位置づけていたにもかかわらず、恐竜誕生という魔術的結果の実現可能性を示唆するような状況に置かれると、少なからぬ幼児が信じない方向から信じる方向へと自らの立場を変化させた。そのことは空箱条件よりも恐竜の卵条件において顕著であった。恐竜の卵条件では7割以上の幼児が「本物」と判断し、部屋に1人で残されると半数の幼児が複数の実践のバリエーションで魔術的結果の実現を試みた。これらの結果は、物語と実在物との結び付き及び想像を支える実在物という2つの観点から考察された。
著者
富田 昌平
出版者
中国学園大学
雑誌
中国学園紀要 (ISSN:13479350)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.127-138, 2007-06

本研究では,乳幼児期における移行対象(毛布やタオル,ぬいぐるみなどへの愛着)とその先駆物としての指しゃぶりの出現の実態について,3歳から6歳の子どもを持つ保護者261名への質問紙調査をもとに検討した。調査の結果,(1)移行対象の出現率は31%,指しゃぶりの出現率は24%であり,そのうち両者が同時に現れたケースは9%であった。(2)移行対象と指しゃぶりは一人っ子,長子,末っ子において同程度に出現し,中間子において少なかった。(3)指しゃぶりは生後6ヶ月以前に出現し,生後6ヶ月から36ヶ月でピークを迎えるのに対し,移行対象はより遅れて生後24ヶ月から60ヶ月がピークであった。また,ぬいぐるみや人形などの二次性移行対象は,毛布やタオルなどの一次性移行対象よりも出現が遅かった。(4)移行対象と指しゃぶりは入出眠時に多く必要とされ,その他テレビ視聴時や退屈な時に必要とされた。それらは子どもを落ち着かせ,安心感を与えると保護者に解釈されていた。(5)対応については無理にやめさせようとした者は少なく,多くはいつか子ども自身で手放すだろうという予測の元に,自然ななりゆきに任せていた。
著者
富田 昌平 TOMITA Shohei
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要, 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.265-272, 2015-03-31

本研究では、サンタクロースとクリスマス行事に対する大人の態度と支援について、2つの質問紙調査によって検討した。研究1では、大学生110名を対象に調査を行った結果、サンタクロースの実在性に対する信念は児童期中頃に肯定から否定へと大きく変化し、その発達変化は子どもに対する期待年齢でもほぼ同様であることが示された。また、サンタクロースの実在性について5歳児と12歳児に質問された場合の回答では、基本的にいずれの年齢の子どもに対しても肯定的回答をするものの、12歳児では5歳児と比較して逆質問(「あなたはどう思う?」)や信念重視(「信じる子どものもとに現れる」)の回答がわずかであるが増加した。研究2では、公立幼稚園・保育園104園を対象に調査を行った結果、クリスマス行事は一部「お楽しみ会」などに名称を変えながらもほとんどの園で実施されており、扮装サンタが子どもの目の前に登場する演出を行っていることが示された。また、扮装サンタ登場の是非については、子どもの夢を壊す可能性や恐怖誘発の可能性、宗教色の強さ、商業主義的傾向などのリスク要因が挙げられたものの、多くは肯定的意見であり、その理由として、サンタクロースやクリスマス行事が持つ象徴的意味合いや、想像世界への没入、経験の多様性、リアリティ感覚、幸福感情や驚異の念、異文化や地域社会との交流機会などを子どもに提供し得ることが指摘された。大人の多くはサンタクロースやクリスマス行事の積極的な意味を認め、肯定的な態度を示し、子どもの体験がより豊かになるように支援していることが示唆された。
著者
富田 昌平
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.230-240, 2004-08-20

本研究の目的は,空想と現実に対する区別認識の違いによって,箱の中に想像した生き物に対する幼児の現実性判断はどのように異なるのかについて検討することであった。幼稚園年中児48名に対して空想/現実の区別課題と空箱課題を行った。まず,空想/現実の区別課題の成績をもとに,幼児を統合型,混同型,否定型,肯定型の4つに分類し,次に,空箱課題における行動や主張を類型ごとに比較した。統合型は空想と現実を適切に区別できた者,混同型は空想と現実を正反対に区別した者,否定型は空想と現実の両方を否定した者,肯定型は空想と現実の両方を肯定した者である。主な結果は次の通りである。第1に,否定型の幼児は他の類型の幼児よりも,空箱課題において箱への探索行動を示すことが多く,加えて,彼らの多くは後の質問において「空っぽだ」と主張することが多かった。第2に,肯定型の幼児は,箱への探索行動をほとんど示さなかったが,その一方で「いるかもしれない」と主張することが他の類型の幼児よりも多かった。第3に,統合型の幼児は他の類型の幼児よりも,願いごとや魔法によって想像が現実になる可能性について判断するときに,単純に"可能か不可能か"で答えるのではなく,条件つきで回答したり,判断を保留したりすることが多かった。以上の結果は,幼児における主張面と行動面での心の揺らぎやすさという点から議論された。