著者
富田 賢吾 林 瑠美子 錦見 端 三品 太志 村田 静昭
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.91-100, 2017 (Released:2017-11-23)
参考文献数
10

実験研究を行う大学において、火災事故が多数発生しており、防火教育の必要性が高まっている。本研究では、より効果的な防火教育のための教材、手法を開発することを目的として、学内の解体予定の建物を活用し、実験室で起こる火災事故を模擬した火災実験を実施した。火災発生からわずか3分程度で、煙は通常の人間の呼吸域に達し、視界も煙によって遮られることや、室内で発生した煙は廊下、階段室、上階にまで拡散すること、煙の流動に伴って温度の上昇が起きること、入口扉や防火扉によって煙の拡散が遮断されること、防火扉が火災感知器のセンサーと連動して閉鎖すること等を建物内各所に配置したビデオカメラや温度センサーによって確認した。これらの得られた教訓を元に、撮影した映像を編集し、防火・防災教育のためのビデオ教材を作成した。学内で行われている化学物質や火災対応向けの講習、講義等に活用しており、高い教育効果が期待できる。
著者
富田 賢吾
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は分子雲スケールから原始星・原始惑星系円盤スケールに至る星形成過程を多数の物理過程を含む現実的なマルチスケールシミュレーションで明らかにすることを目指している。数値シミュレーションには米国プリンストン大学と共同で開発している公開時期流体シミュレーションコードAthena++を利用している。今年度は主にコードの開発を行った。まずオーム散逸と双極性拡散という二つの非理想MHD効果をAthena++に実装した。星形成を起こす分子雲は高密度かつ低温のため電離度が低く、これらの非理想MHD効果が重要であることが知られている。コードのテストを兼ねて星間ガスの熱構造を行った。乱流状態にある星間ガスでは衝撃波による加熱と輻射による冷却で温度構造が決まるが。双極性拡散を考慮すると衝撃波の構造が変化するため熱構造に影響すると期待されるが、実際には輻射冷却の効果が強いため温度分布は大きくは変化しないことがわかった。また、自己重力のポアソン方程式を解くポアソンソルバの開発を行った。大規模並列計算機上で正確かつ効率よく計算を行うために手法の検討を行い、Full MultiGrid Cycleに基づくMultigrid法の実装を開始した。まだ実装途中であるが、来年度前半には開発を完了できると見込んでいる。更に星・円盤形成過程を調べるため分子雲の収縮から星周円盤が形成される過程の長時間シミュレーションを行った。星周円盤の形成と進化においては角運動量輸送が重要であるが、シミュレーションにより初期には磁場による角運動量輸送が支配的であるが、後期に進むにつれて円盤質量が増加するために重力不安定により渦状腕が形成され、これによる重力トルクが支配的となることが分かった。この結果を観測と比較し、最近ALMAによって発見された渦状腕を持つ天体Elias2-27の性質を整合的に説明できることを示した。
著者
富田 賢吾
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

1. 磁気流体計算コードAthena++の高速化を目的として、並列プログラミング言語Unified Parallel CとXcalableMPによる並列化の難易度や性能を従来のMPIに基づく並列化と比較した。どちら言語でも適切に記述すればMPIと同等程度の通信性能が得られるが、解適合細分化格子のような複雑な通信パターンが必要な場合には結局MPIと同レベルに通信を意識する必要があること、平易な記述が可能な一方通信の柔軟性には制約があることが分かった。どちらの言語でも現時点で最も高性能な実装はコードをMPIまたは通信ライブラリを含むC言語のコードに変換するトランスレータ形式のものであった。生成されるC言語の中間コードを解析した結果、自身で同等以上の並列化を実装することは可能であり、現時点ではAthena++コードを並列プログラミング言語に移行するメリットは十分ではないと判断した。一方、これらの言語内で利用されているRDMAによる通信は高速化に有望であり、今後の開発に取り入れることを検討する。2. Athena++コードのためにFull-Multigrid法に基づく一様格子上の自己重力ソルバを開発し性能評価を行った。その結果数千並列以上でも磁気流体部よりも数倍程度高速であり、大規模な自己重力流体計算が可能な高い性能と良好なスケーラビリティを達成した。今後これを解適合細分化格子に拡張する。3. 超大規模並列計算を行うためXeon Phiを搭載した大型計算機に向けたAthena++の最適化と性能評価を行った。Xeon Phiは通常のCPUと良く似た最適化が適用可能であり、最小限の調整で高い実行性能が得られた。最先端共同HPC基盤施設のスーパーコンピュータOakforest-PACSを用い、2048ノード・524288スレッドの大規模並列計算でも83%以上という高い並列性能を実現した。