著者
日高 佑紀 森 大樹 中道 隆弘 石橋 康弘 篠原 亮太 有薗 幸司
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.35-39, 2014-03-31 (Released:2014-05-16)
参考文献数
13

増大する有機廃棄物を資源としてリサイクルし、農地などへ還元・活用するシステムとして堆肥化(コンポスト)が注目されている。そのなかで下水汚泥のコンポスト化は今後、ますます増加すると考えられる。 一方で、パーソナルケア製品に頻用されている合成香料が下水汚泥に高濃度で検出されることが報告されている。そのため、下水汚泥由来のコンポスト肥料中の合成香料の残留性が懸念される。今回、合成香料である6-acetyl-1,1,2,4,4,7-hexamethyl tetraline(AHTN)、1,3,4,6,7,8-hexahydoro-4,6,6,7,8-hexamethyl cyclopenta-γ2-benzopyran(HHCB)、HHCB の代謝物HHCB-lactone並びに[1,2,3,4,5,6,7,8-octahydro-2,3,8,8,- tetramethyl naphtalen-2yl]ethan-1-one (OTNE) の下水汚泥由来コンポスト肥料における残留性を調査した。その結果、 コンポスト肥料から、N.D.~5.3 mg AHTN /kg、N.D.~4.2mg HHCB /kg、N.D.~14.2 mg HHCB-lactone /kg、 N.D.~2.1 mg OTNE /kgで検出された。このことから、下水汚泥に高濃度で蓄積した合成香料は下水汚泥を原料としたコンポスト肥料に高濃度で残留することが示された。この結果よりコンポストの製造過程においてもこれらの合成香料等が除去されず、下水汚泥の再利用による土壌環境汚染が憂慮された。

28 0 0 0 OA 秋田の油田

著者
中田 真一
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1_53-1_58, 2013 (Released:2013-04-23)
参考文献数
16

秋田県の油田の歴史や現在の秋田県内の油ガス田、秋田県の原油・天然ガスの生産の現況、さらに最近国内で初めて採油に成功したシェールオイルの採油の話題などについて紹介する。
著者
日高 佑紀 森 大樹 吉 赫哲 川上 茂樹 一川 暢宏 有薗 幸司
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.27-34, 2014-03-31 (Released:2014-05-16)
参考文献数
23

パーソナルケア製品に頻用されている合成香料は、脂溶性が高く、生体内に高濃度で濃縮されることが憂慮される。しかし、これらの環境汚染状況や生体影響への情報は少ない。今回、合成香料のうち、多環ムスク化合物である6-acetyl-1,1,2,4,4,7-hexamethyltetraline (AHTN) 及び1,3,4,6,7,8-hexahydoro-4,6,6,7,8-hexam ethylcyclopenta-γ-2-benzopyran (HHCB) 並びにHHCB の代謝物HHCB-lactone、さらに[1,2,3,4,5,6,7,8- octahydro-2,3,8,8,-tetramethylnaphtalen-2yl]ethan-1-one (OTNE) の下水処理場における挙動とその動態につ いて調査した。その結果、下水処理施設の流入水においてAHTN 2.3 µg/L、HHCB 4.8 µg/L、HHCB-lactone 1.2 µg/L、OTNE 5.4 µg/Lが検出され、放流水では、AHTN 0.7 µg/L、HHCB 0.9 µg/L、HHCB-lactone 0.9 µg/L、 OTNE 0.7 µg/Lの濃度で検出された。下水汚泥においてはAHTN 2.1~9.3 mg/kg、HHCB 3.9~11.7 mg/kg、HHCB-lactone 1.8~3.4 mg/kg、OTNE 2.0~9.3 mg/kgの範囲で検出された。下水汚泥の各処理過程においては、AHTN、HHCB及びOTNEが活性汚泥中で濃度が低下するのに対し、HHCB-lactoneは下水処理過程を通して濃 度の大きな変動は見られなかった。さらに、下水処理場からの多環ムスク化合物の環境への排出量は、流入量の約60 %が放流水及び下水汚泥として環境中へ放出されること、下水処理過程での分解消失率は流入量の除去率は40 %弱であることが判明した。
著者
富田 賢吾 林 瑠美子 錦見 端 三品 太志 村田 静昭
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.91-100, 2017 (Released:2017-11-23)
参考文献数
10

実験研究を行う大学において、火災事故が多数発生しており、防火教育の必要性が高まっている。本研究では、より効果的な防火教育のための教材、手法を開発することを目的として、学内の解体予定の建物を活用し、実験室で起こる火災事故を模擬した火災実験を実施した。火災発生からわずか3分程度で、煙は通常の人間の呼吸域に達し、視界も煙によって遮られることや、室内で発生した煙は廊下、階段室、上階にまで拡散すること、煙の流動に伴って温度の上昇が起きること、入口扉や防火扉によって煙の拡散が遮断されること、防火扉が火災感知器のセンサーと連動して閉鎖すること等を建物内各所に配置したビデオカメラや温度センサーによって確認した。これらの得られた教訓を元に、撮影した映像を編集し、防火・防災教育のためのビデオ教材を作成した。学内で行われている化学物質や火災対応向けの講習、講義等に活用しており、高い教育効果が期待できる。
著者
長友 重紀 藤井 邦彦 佐藤 智生
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.135-140, 2017 (Released:2017-11-23)
参考文献数
7

大学等の化学実験におけるリスク低減は長年の課題である。その中でも、多人数が同時に実験を行う学生実験室において揮発性の高い化学物質を使用する場合、実験を行う学生数に対して十分な数の囲い式フード型の局所排気装置を設置できていない状況がある。さらに、囲い式フード型の局所排気装置については、予算とスペースの問題から必要数を導入できない場合も多い。そこで、我々は低費用でリスクの低減化を図るために、通常の化学実験室に備えられている既設の設備を活用して外付け式フード型の局所排気装置を導入した。本報告では、その費用対効果と実際に使用した学生の意見を示し、化学実験における安全性の向上および教育効果を紹介する。
著者
鈴木 一成 村中 祥悟 宮澤 雄一 神谷 あゆみ 藤本 忠蔵 太田 勲 伊藤 聖孝 坂田 訓章
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.3-8, 2014-03-31 (Released:2014-05-16)
参考文献数
9
被引用文献数
1

電子顕微鏡の試料作製に使用されたオスミウム酸化物の溶液(以下、廃液という)からオゾン酸化によって酸化オスミウム(Ⅷ)を再生する方法を開発した。酸素の無声放電によって発生したオゾンを廃液に吹き込んで酸化オスミウム(Ⅷ)を生成させた後、0.1 mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に吸収させ、濃度2.0%(w/v)以上の酸化オスミウム(Ⅷ)溶液を得ることができた。この再生した酸化オスミウム(Ⅷ)溶液を電子顕微鏡の試料作製に使用して、市販の新品の酸化オスミウム(Ⅷ)溶液と同等の電子顕微鏡イメージを得ることができた。
著者
百瀬 英毅
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.159-167, 2014-09-30 (Released:2014-10-10)
参考文献数
2

日本で高圧ガスを使用する際には高圧ガス保安法の規制を受けるが、これは大学の教育研究活動でも同じである。この法律は大正時代に制定されてから骨格部分の構造が変わっておらず、主に産業ガス分野の事例を中心に法令等の改正等が繰り返されてきた。事故を教訓とした改正も行われており、高圧ガスの製造販売業などの安全に対しては極めて効果を発揮している。しかし、当初は取締法であったために、法律が想定していないことは基本的に禁止とするため、最先端の教育研究や技術開発では不合理な影響を与える。このため、教育研究を進めるに当たっては、教育研究に携わる者が自ら考えて安全対策を行い、設備や器具について正しく理解して適切に使用していく必要がある。それと同時に、欧米諸国と同水準の教育研究環境を実現するためには、高圧ガス保安法令等の適切な合理化も必須である。
著者
山田 悦 清水 光 布施 泰朗
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.191-198, 2014-09-30 (Released:2014-10-10)
参考文献数
23

フッ化物イオンとホウフッ化物イオンの混合溶液の分析は、フッ化物イオン電極を用いたグランプロット標準添加法により、ホウフッ化物イオンの分解に用いるアルミニウムイオンの妨害を受けずにフッ化物イオンを定量することができ、その値からホウフッ化物イオンの分解率を求めることができた。難分解性であるホウフッ化物イオンは、常温においてアルカリ性や中性条件下ではほとんど分解せず、pH 3という酸性条件下でも2カ月後に20 %残存していたが、pH 3~4でアルミニウムイオンを添加すると約48時間で定量的に分解できることがわかった。アルミニウムイオンを添加するとフッ化アルミニウムを生成するためホウフッ化物イオンの分解が促進されると考えられる。 ホウフッ化物分解後のフッ化物イオンの処理は、カルシウム添加法とフッ素吸着樹脂を用いるカラム吸着法を組み合わせた二段階処理法を用いると、洗煙廃水のような複雑組成中のフッ化物イオンでも排水基準の 8 ppmをクリアして処理することができる。
著者
浅利 美鈴 西本 早希 安藤 悠太 奥野 真木保 矢野 順也 酒井 伸一
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.1-10, 2021 (Released:2021-06-13)
参考文献数
28

プラスチック製品や廃棄物、マイクロプラスチックが世界的に大きな課題となり、様々な対策が検討されている。日本においても、2019年5月に「プラスチック資源循環戦略」が策定され、3R+Renewableを基本原則とし、意欲的な数値目標を含むマイルストーンを設定した上で、重点戦略に基づく様々な取組が始まっている。しかし、様々な製品への使用に対する消費者の認識は十分とは言えず、意識・行動の把握も緒に就いたところである。 そこで、幅広く、かつ具体的なプラスチック製品を対象に、消費者や企業、行政等が情報共有を進め、今後の対話や議論につなげることのできる消費者意識・行動の可視化・コミュニケーションツールとして「プラ・イド チャート」を考案した。そのチャートの活用可能性を考察することを目的に、必要なデータをアンケート調査等から得て、プロットした。 「いる/いらない」「避けられる/避けられない」という2軸からなるチャートについて消費者アンケート調査結果を元に階層的クラスター分析を行ったところ、6群に分類され、チャートにおいて、それぞれ現在の消費者意識・傾向が分かり、特に短期的な対策に向けた検討に資する知見が得られた。
著者
ジンチェンコ アナトーリ 竹田 裕哉 三品 太志 村田 静昭 陳 寧
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.17-23, 2016

大学の教育研究活動に伴って生じる廃棄物の削減と再利用・資源化を進めるために、2009年度から2012年度の4年間に、名古屋大学から不要試薬として排出処分された化学物質廃棄物中に含まれていた貴金属またはレアメタルからなる未使用化学物質の実体について、排出記録と回収現場の調査に基づき研究した。明らかになった名古屋大学の現状を基に、有害物質の分別、リユースを基本とした化学物質廃棄物の削減と有効利用、研究費の無駄使いにつながる試薬購入の問題点について考察した。さらに、改善方法の例として化学物質ストック情報の共有、希少元素ライブラリーの創設、有価物としての売却について提案した。
著者
Toshinori Tanaka Nobukazu Tanaka Yukio Nagano Hirotaka Kanuka Daisuke S. Yamamoto Natsuko Yamamoto Eiji Nanba Takumi Nishiuchi
出版者
Academic Consociation of Environmental Safety and Waste Management, Japan
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
pp.E19SC0801, (Released:2019-10-07)
参考文献数
12

Gene drive is a powerful system that can spread a desirable genetic trait into an entire species and/or population of a certain region,bypassing Mendelian rules of inheritance. Recently, one of the genome editing technologies, CRISPR/Cas, has been developed, making it easier to use gene drive in many different organisms. However, gene drive has potential risks that impact genetic diversity when organisms produced by CRISPR/Cas-based Gene Drive Technology (CCGDT) are accidentally released; therefore, a high degree of prudence is required when CCGDT is used.In Japan, a Working Group on Gene Drive has been established in the Academic Association for Promotion of Genetic Studies (AAPGS), and a Statement on the Handling of Gene Drive was issued to the public including research institute across Japan, after comprehensive and extensive discussions by the working group in order to reduce risks posed by CCGDT. A national-wide survey on CCGDT was implemented. The survey revealed that those in managerial positions including members and secretariats of institutional review boards on recombinant DNA, and biosafety officers are conscious of CCGDT, and efforts to grasp experimental plans involving CCGDT are made by utilizing an application form for recombinant DNA experiment. In contrast, potential risks of CCGDT are not understood by many researchers. All stakeholders need to disseminate potential risks and preventive measures regarding CCGDT to all researchers who may wish to use this technology. Researchers should use CCGDT upon understanding its potential risks and taking necessary measures. This report refers to how safety measures for CRISPR/Cas-based gene drive technology which has potential risks to ecological system has been discussed and results of national-wide questionnaire survey on gene drive in Japan based on the poster presentation at the Asian Conference on Safety & Education in Laboratory 2018.
著者
川上 貴教
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.2_25-2_31, 2010

&nbsp;&nbsp;&nbsp;2005~2009年度の富山大学五福地区での不要試薬取引について、リレーショナルデータベース型化学薬品管理システムによるデータ収集結果を元に調査を行った。<br>&nbsp;&nbsp;&nbsp;5年間で635件の不要試薬公開があり、そのうち30.7%の195件の取引が成立した。それにより&yen;1,044,814の費用節約効果が得られた。約4割の研究室は不要試薬取引所を利用しており、退官する教員の試薬が大量出品されたり、有機合成化学系の研究室が積極的に引き取る傾向がみられた。なお、85%の取引は部局内ではなく異部局間で行われた。引取りを待つ期間としては約2ヶ月が適当であり、それ以上は廃棄手続をするのが望ましい。使用している研究室の数と、取引成立率には一定の相関がみられた。特に洗浄や中和に使われる有機溶媒や酸アルカリはよく引き取られた。また、未開封であることは有利な条件であった。
著者
山田 悦
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.141-149, 2015 (Released:2015-10-10)
参考文献数
14
被引用文献数
2

検知管法による京都工芸繊維大学の実験室におけるクロロホルム、ジクロロメタンなど揮発性有機化合物(VOCs)11物質とフッ化水素濃度の経年変化(2005~2014年)について、外部業者による作業環境測定の結果と比較して解析した。本学ではドラフトチャンバー使用や代替溶媒の使用によりベンゼンなどのリスクは低下したが、2008年以降、使用量の増加やGPC(Gel Permeation Chromatography)の装置をドラフト内で使用することなどの困難さによりクロロホルムやジクロロメタンなどのVOCsによるリスクが増加している。大学において特に管理濃度を超える可能性が高いVOCsはクロロホルムであったが、検知管法によるクロロホルムの平均濃度が1 ppm 前後(管理濃度3 ppm)と高く、さらにメタノール、酢酸エチルなど他のVOCsが複合的に検出されている実験室は、外部測定でも改善が必要な管理区分として評価されている。本学での実験室における長期の検知管法を用いるVOCs濃度測定とその経年変化の解析から、検知管法は大学の実験室のリスク評価やリスク管理に有用であることが明らかとなった。
著者
山田 悦 浅野 広樹 布施 泰朗
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_97-2_104, 2012 (Released:2012-10-26)
参考文献数
21

環境試料中の微量過塩素酸イオンの測定法として開発したサプレッサー型イオンクロマトグラフ装置を用い、大気環境及び水環境中における過塩素酸塩の動態解析を行い、土壌や農作物への影響についても検討した。2007年から2009年の京都市における雨水中過塩素酸イオンの濃度範囲はN.D.~3.53 μg/L、平均濃度は0.72±0.70 μg/L(n = 41)であった。大気エアロゾル中過塩素酸塩の濃度範囲は0.02~9.64 ng/m3、平均濃度は0.62±1.32 ng/m3(n = 132)で、2~4月に高いという季節変化を示し、バックトラジェクトリ解析より中国大陸からの汚染物質の長距離輸送の影響が推測できた。近畿における淀川水系河川水、水道水及び地下水中過塩素酸イオンの濃度は、いずれもアメリカマサチューセッツ州の飲料水基準(2μgg/L)より低く、人間の健康に安全なレベルであった。野菜中の過塩素酸イオン濃度は、レタス、キャベツなど可食部が葉菜の野菜中に比較的高く検出された。2009年測定の京都産牛乳中過塩素酸イオン濃度の平均値は22.6±7.61 μg/Lと2005年の値より高かった。雨や大気エアロゾルにより負荷された過塩素酸塩が農作物の葉などに濃縮し、間接的に牛乳の濃度に影響したと考えられる。
著者
長友 重紀 藤井 邦彦 佐藤 智生
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
pp.17H0301, (Released:2017-07-01)
参考文献数
7

大学等の化学実験におけるリスク低減は長年の課題である。その中でも、多人数が同時に実験を行う学生実験室において揮発性の高い化学物質を使用する場合、実験を行う学生数に対して十分な数の囲い式フード型の局所排気装置を設置できていない状況がある。さらに、囲い式フード型の局所排気装置については、予算とスペースの問題から必要数を導入できない場合も多い。そこで、我々は低費用でリスクの低減化を図るために、通常の化学実験室に備えられている既設の設備を活用して外付け式フード型の局所排気装置を導入した。本報告では、その費用対効果と実際に使用した学生の意見を示し、化学実験における安全性の向上および教育効果を紹介する。
著者
大平 麻由佳 中川 元斗 大田 政史 石橋 康弘 有薗 幸司 横山 誠二 甲斐 穂高 山口 雅裕
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.31-42, 2015-03-31 (Released:2015-04-10)
参考文献数
58

亜鉛は、メッキや真鍮の原料などに広く用いられる工業的に重要な金属であり、人体の必須ミネラルでもある。一方、大量摂取は他の重金属と同様、ヒトを含めた生物にとって有害であり、日本においても環境基準が設定されている。本研究では、亜鉛暴露がメダカ仔魚に与える影響を検討した。塩化亜鉛溶液を用い、亜鉛イオンのメダカ仔魚に対する96時間後の半数致死濃度を求めたところ、5.4(5.2-5.7 95% CL)mg/Lであった。また、塩化ナトリウムやリン酸二水素ナトリウム共存下では、塩化亜鉛の毒性が大きく軽減され、特にリン酸二水素ナトリウムの毒性軽減効果が顕著だった。また、塩化亜鉛溶液に曝露した仔魚において、組織学的に重篤な異常は認められず、培養細胞で報告されている細胞増殖の抑制も認められなかった。以上の結果から、ナトリウム塩の種類によって亜鉛の急性毒性に対する軽減効果に違いがあることが確認された。また、培養系における細胞の傷害は個体レベルで生じる傷害を必ずしも反映していないことが示された。
著者
鶴田 俊
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.151-156, 2015 (Released:2015-10-10)
参考文献数
20

技術の高度化に伴い、労働者の多くが高等教育を受けた者によって占められるようになっている。労働者が自身の利用する技術を理解し、故障や事故による災害の拡大を防止できる社会の実現が望まれている。ところが、発生事故を見ると基礎的知識が不足していたと思われるものがある。教育によって安全な社会を築くことは明治維新以来の日本国の目標である。日本では、伝統的に事故が起きると個人の責任追及に関心が集まる。現代社会では、個人は多くの人と制度や習慣を介して社会システムの要素として生きている。よって事故が起きたとき、社会システムとの関与が存在する。隔絶した地域で生活する場合と都市で生活する場合を比べると社会システムとの関与に軽重が存在する。同様に事故が起きたとき、個人の要素と社会システムの要素の関与に軽重が存在する。もし事故の背景に社会システムに要因の関与がある場合、その要因の関与を減少させ、事故再発防止を行うのが一般的である。最近発生した中等教育の実験中の事故について上記の視点から考えてみる。社会的に注目される研究成果を追い求めることよりも安全な社会の営みを支える基礎学力を修得させることの重要さを教員自ら認識し、生徒、学生を教育することが必要である。この機能を達成できるよう必要な公的枠組みを整備する必要がある。教育機関は、好奇心追求を安全に実現する知恵を身に着け、頭の中をおそれで充満させない教養を身に着けさせることが必要である。「灰燼に帰する」ことを防ぐ知恵を身に着けさせることが教育の目的である。
著者
三浦 苑子 内田 雅也 平野 将司 山内 良子 吉津 伶美 草野 輝彦 古賀 実 有薗 幸司
出版者
大学等環境安全協議会
雑誌
環境と安全 (ISSN:18844375)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.195-201, 2013-09-30 (Released:2013-10-25)
参考文献数
26

トリクロサン(TCS)およびトリクロカルバン(TCC)は、薬用石鹸やシャンプー等様々な製品に幅広く使用され、産業廃水や生活排水を通じて環境中に広がり、水圏の野生生物に影響をおよぼすことが示唆されている。これらの研究は、水域生態系の生物を対象としたものが多く、化学物質の最終到達地点と考えられる海域に棲息する生物を対象とした研究は少ない。そこで本研究では、海産甲殻類アミを用いたTCSおよびTCCの生態影響評価を目的とした。急性毒性試験は、USEPAの試験法(EPA/600/4-90/027F)に準拠し、96時間曝露の半数致死濃度を算出した。成長・成熟試験は、USEPAの試験法(EPA method 1007)に準拠し、14日間半止水式曝露を行った。曝露期間中、生死と脱皮数の観察を行い、曝露終了後、体長、体重及び頭胸甲長を測定し、二次性徴の形態観察から雌雄比を算出した。それぞれの半数致死濃度はTCSで70 µg/L、TCCで12 µg/Lであり、現在報告されているTCSとTCCの水環境中濃度よりも高かった。成長・成熟試験の結果、TCSは0.5 µg/L、TCCが0.05 µg/Lで、各測定項目に有意な減少が認められ、半数致死濃度よりも極めて低濃度であった。本研究の結果、環境中濃度が低濃度であっても、長期的な曝露でアミに対する成長・成熟への影響をおぼすことが示唆され、水域環境への影響が懸念された。