著者
寒河江 悟 杉村 政樹 工藤 隆一
出版者
日本保険医学会
雑誌
日本保険医学会誌 (ISSN:0301262X)
巻号頁・発行日
vol.101, no.4, pp.364-372, 2003-12-17
被引用文献数
2 2

婦人科がんの最近の動向は,子宮頸がんでは検診の普及により初期がんが増加しているものの,進行がんも依然多く死亡者数は横ばいである。頸がんの治療はその組織型の違いにより放射線感受性が異なるので,扁平上皮がんには放射線照射を中心にし,腺がんには化学療法後に手術を行う。また子宮体がんは明らかに増加しており,早期がんは予後良好であるが,進行がんの予後はここ10年改善されていない。治療方針は拡大手術か縮小手術か議論が分かれているが,術後療法に放射線療法のみでなく化学療法も取り入れられてきた。更に卵巣がんはI期とIIIc・IV期に二極化しつつあり,依然進行がんの5年生存率は30%台で変わっていない。卵巣がんの治療方法の基本は手術であるが,化学療法の併用による縮小手術が行われている。さらには,化学療法の間に腫瘍減量手術を行う工夫もされている。一方絨毛がんは激減し,完全制圧まであと1歩である。これは,有効な抗がん剤の発見のみならず,経腟超音波による胞状奇胎の早期発見やbeta-HCG検査による管理法の進歩による。これら婦人科がんの危険因子は,子宮頸がんでは性感染症によるヒト乳頭腫ウイルス,子宮体がんでは薬剤や動物性脂肪摂取によるエストロゲン優位状態,卵巣がんでは女性の社会的環境の変化による間接的に排卵の無い時期が少なくなったことが挙げられている。婦人科検診では,頸部・体部細胞診,経腟超音波,CA125が実施されるべきである。
著者
藤井 美穂 寒河江 悟 豊田 実 時野 隆至
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

MCA法による新しい遺伝子の同定:卵巣癌細胞株を用いMCA(methylated CpG island amplification)法により、正常細胞とでサブトラクションを行うことにより、卵巣癌での異常メチル化している多数の遺伝子を同定した。これは卵巣癌に抑制的に働く新たな遺伝子の発見につながるもので、現在遺伝子データベースを利用し各遺伝子について検討している。同時に各遺伝子のエピジェネティクな異常と卵巣癌での分子生物学的特徴について検討中である。TCF2遺伝子についての解析:上記のMCA法により、メチル化によりサイレンシングしている遺伝子の一つとしてTCF2遺伝子を同定した。TCF2は細胞の分化に関与する転写因子であり、各種腫瘍において発現異常が報告されている。実際卵巣癌ではTCF2遺伝子のメチル化は、卵巣癌細胞株16例中8例(50%)、卵巣癌症例68例中16例(23.5%)に認めた。メチル化を認める細胞株においては、発現の低下あるいは消失を認め、DNAメチル化阻害剤により遺伝子の再発現を認めた。また、プロモーター領域のヒストン脱アセチル化を認め、メチル化による遺伝子発現抑制にヒストン修飾が関与することが示唆された。さらに組織型別では明細胞性腺癌ではメチル化による抑制は少なく高頻度な発現が認められた。これは卵巣癌の中でも予後不良な明細胞性腺癌の生物学的解明につながる可能性がある。(投稿中)癌での細胞周期M期の制御の解析:これまで細胞周期M期に関わる遺伝子の異常と微小管阻害剤の感受性を検討してきた。ドセタキセルを暴露させたMitotic Indexの高い細胞株は抗癌剤に高い感受性を示し、CyclinBの核への集積が認められた。発現を調節している分子としてBUB1,MAD, Auroraなどの分子について検討中である。さらにCHFR遺伝子を細胞株に導入することによって、M期での分子制御機構の解明や抗癌剤の感受性の変化についても検討中である。