- 著者
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時野 隆至
古畑 智久
- 出版者
- 札幌医科大学
- 雑誌
- 萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2005
癌遺伝子の増幅や癌抑制遺伝子の欠失を伴う染色体変化はがん細胞の特徴である.本研究では短いゲノム断片を解析しゲノム上のDNAコピー数以上を示す領域を検出する方法としてデジタルゲノムスキャニング(DGS: Digital Genome Scanning)法を開発し,胃癌細胞株におけるゲノムコピー数異常の検出を試みた.胃癌細胞株ゲノムDNAを制限酵素処理した断片を回収し,連結したクローニングしたDNA断片の塩基配列を決定した.取得した塩基配列をヒトゲノム上にマップし,ゲノム上での断片の分布密度をもとにコピー数異常を示す領域を推定した.DGSで予測されたゲノム増幅領域に存在する癌遺伝子の候補については,次に,Southern blot, FISH, real-time RT-PCR, Western blot法などの分子生物学的手法で検証を行った.このDGS解析により,胃癌細胞株の第12番染色体短腕約0.5Mbのゲノム増幅が同定され,同領域に存在する癌遺伝子K-rasのゲノム増幅を確認した.K-ras領域のゲノム増幅は胃癌細胞株18種中4種で,また臨床胃悪性腫瘍50例中4例で検出された.また,K-rasの遺伝子増幅を示した胃癌細胞株ではMAP kinase(ERK1/2)の恒常的活性化が観察された.以上より,DGS法はがんを代表とするゲノムコピー数異常を呈する疾患の原因遺伝子探索において有効な手法となりうることを実証した.