著者
岩崎 衣津 時岡 宏明 福島 臣啓 實金 健 奥 格 小林 浩之 石井 瑞恵
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.92-100, 2012-03-15 (Released:2012-05-18)
参考文献数
32
被引用文献数
1

【目的】わが国では敗血症性ショック患者に対してエンドトキシン吸着療法(以下PMX-DHP)が保険適応になって以来,敗血症治療の第一選択として行われることが多い。しかし,国際的には臨床的有用性は議論されており,治療法としては確立されていない。当院では,敗血症性ショック患者に対して,速やかな感染源の除去,適切な血行動態の維持,抗菌薬の早期投与等の集学的治療を行っている。PMX-DHPを用いない当院において,緊急手術を施行した下部消化管疾患による敗血症性ショック患者の治療成績について後ろ向きに検討した。【対象と方法】下部消化管疾患に対し緊急手術を施行され,周術期に敗血症性ショックとなり昇圧剤を必要とした成人症例を対象とした。血行動態の維持には,頻回の心臓超音波検査による前負荷と心機能の評価を行い,輸液を投与した。昇圧剤にはドパミン,ノルアドレナリン,少量バソプレシン等を用いた。【結果】緊急手術を施行した下部消化管疾患による敗血症性ショック患者28例の院内死亡率は17.9%でAPACHE IIから算出した予測死亡率63.3%に比較して良好であった。とくに大腸穿孔患者15例では,予測死亡率57.7%に対して院内死亡率は0%であった。【結論】下部消化管疾患による敗血症性ショック患者の治療は,心臓超音波検査による適切な前負荷の維持とノルアドレナリンとバソプレシンの使用により,PMX-DHPを用いなくても良好な成績を示した。
著者
菅 弘之 入部 玄太郎 毛利 聡 荒木 淳一 實金 健
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

我々は丸ごと心臓における総Caハンドリング量を推定する方法を考案し、正常心のCa動態を明らかにしてきた。不全心においては、筋小胞体から漏れ出たCaが収縮に関与せずに興奮収縮連関に用いられる酸素消費量だけを増加させる(無駄サイクル)ため、従来我々が用いていた方法では、総Caハンドリング量を推定することはできなかった。そこで、我々はこのような無駄サイクルをもつ不全心の総Caハンドリング量を推定する方法を考案し、三種類の不全心に適応して、その方法の是非を検討した。1.ナノモル単位のリアノジンを冠血流に投与すると、左心室のCaハンドリング消費量は減少せずに収縮性が低下する。リアノジン投与後の無駄サイクルは、筋小胞体を介して収縮に関与するCa量の約1.4倍と推定された。2.我々はCa過負荷不全心を作成した。左心室収縮性は40%に減少し、Caハンドリングに費やされる酸素消費量は30%に減少した。しかし、収縮性の酸素コストに変化はなかった。このCa過負荷不全心では筋小胞体を介するCaハンドリング量が増加していることが明らかとなった。そして、無駄サイクルが増加しているか、正常時に比べてトロポニン結合Ca量が左心室収縮性に反映されなくなっている(Caリアクティビティの低下)か、その両方であるかの可能性が示唆された。3.虚血後再灌流心(スタンド心)では収縮性が低下し、収縮性の酸素コストは2倍であった。筋小胞体を介するCaハンドリング量は減少しており、無駄サイクルとCaリアクティビティ関係から、Caハンドリングに費やされる酸素消費量は収縮性の増加を伴わず浪費される方向にシフトしていることが明らかとなった。これらの結果から、我々が考案した新しい方法は無駄サイクルをもつ不全心にも適応可能であることが示唆された。