著者
寺町 晋哉
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.27, no.10, pp.10_76-10_83, 2022-10-01 (Released:2023-02-23)
参考文献数
25

2021年度現在、高校卒業後に4年制大学へ進学する者の数は男子57.4%、女子51.3%であり、二人に一人以上が進学しているが、実は二つの「足枷」が存在している。一つは非大都市圏、いわゆる「地方」であり、どの地域に在住しているかによって大学進学のハードルは異なっている。もう一つは「性別」であり、全国の大学進学率において女子が男子を上回ったことはこれまで一度もなく、特に「地方の女子」は「地方と性別」双方が大学進学の「足枷」になる。 大学進学には社会的諸条件が影響するため、「大学進学はやる気さえあれば誰でも可能」といった個人の努力や意志の問題へ矮小化してはならない。大学という進路選択が開かれた社会を目指すためにも、「足枷」をなくしていく政策や支援制度が必要である。その一方で、大学進学を選択しなくとも安心して暮らせる社会を基盤に据えることも重要である。
著者
寺町 晋哉 Shinya TERAMACHI 宮崎公立大学人文学部 Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.103-119, 2020-03-06

本稿は、女子の友人関係トラブルに対する教師の介入を検討することで、友人関係というインフォーマルな関係性が教師の介入に影響を受けること、そうした介入にジェンダー・バイアスが存在し、結果的に女子の関係性が劣位に置かれることを明らかにする。 先行研究は、ジェンダーの視点、インフォーマルな関係性、教師と児童生徒の再帰的関係のうち、いずれか一つが欠けている。これらの課題を克服するために、本稿では、女子の友人関係トラブルに対する教師の介入に着目する。分析に際して、Francis・Paechter(2015)が提示する三つの視点を用いている。 分析の結果、以下の三点が明らかになった。第一に、児童の関係性にかかわる教室秩序の形成にとって教師たちの理念や介入が重要であることである。第二に、児童間関係に対する教師たちの認識や介入に、ジェンダー・バイアスが歴然と存在し、女子たちは「関係性を重視する」という認識が、教師たちの介入を方向づけていたことである。また、教師たちは女子たちの関係を「ドロドロしたもの」と認識し、解決すべき課題にしているからこそ、何らかのトラブルが発生した場合、「トラブルの発端である関係性」そのものに焦点を当て、トラブルだけでなく女子たちの関係性にも介入していく。第三に、教師たちはケアの倫理が立ち現われやすい関係性に焦点化した介入を行いながら、その解決には自律的な主体であるという捻れた責任を女子に負わせていたことである。
著者
寺町 晋哉 Shinya TERAMACHI 宮崎公立大学人文学部 Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.105-122, 2018-03-09

2017 年3 月に小・中学校の学習指導要領が改訂される告示が公示された。新しい学習指導要領は、小学校が2020 年度より、中学校が2021 年度より施行される。そこで本稿では、新しい学習指導要領をジェンダーの視点及びセクシュアリティの視点から整理することを通して、ジェンダー公正な社会を目指す上での課題について明らかにすることを目的とする。本稿で明らかになったのは、ジェンダー平等やジェンダー公正な社会の構築へ向けて、新たな学習指導要領が果たす役割は極めて小さいということである。むしろ、性別特性や性別役割分業を暗に前提とした記述も見られることから、ジェンダー不平等な社会の形成へ学習指導要領が貢献しているとも言えよう。また、文部科学省によって対応が示されたLGBTIの人々の存在についても、新学習指導要領では一切触れられていない。
著者
寺町 晋哉 Shinya TERAMACHI 宮崎公立大学人文学部 Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.49-64, 2023-03-09

本稿では「できないこと」を共有しやすい小学校初任者教師が責任の分有を果たせるのか を分析することで、小学校初任者の困難を生み出す要因を明らかにした。 本稿では、初任者教師へ行ったインタビュー調査のデータをもとに分析を行った。分析の視点として、「責任の分有」を目指すヴァルネラビリティ・モデルを用い、初任者の業務や児童に対する責任が「誰にどのように担われているのか」を分析した。 初任者は入職直後から学級担任・授業者として質量ともに膨大である業務をこなしており、日々の仕事をこなすことで精一杯であった。また、初めて教師として働くため、「できない」ことも多く、それゆえの困難や悩みを抱えていた。そして、困難や悩みを周囲に共有できても、他の教師と責任の分有が行われることは少なく、担任として責任が紐づけられていた結 果(「責任の個別化」)、最終的には初任者が対応せねばならない状況になっていた(個業性)。 初任者であっても担任として「責任の個別化」から抜け出せないことは二つの問題がある。第一に、児童が「危害」に晒され続けるということである。学級担任業務と授業を初任者一人で遂行する、非常に無理のある現在の制度設計の皺寄せが全て、児童たちへ向かうことになる。第二に、初任者自身も「危害」へ晒される。長時間労働でなければ業務を遂行できないだけでなく、「できない」ことへ直面し、苦悩も含めてそれを周囲へ共有しても、助言や研修を通して「できるようになる(成長)」責任を初任者は求められており、そのことが更なる多忙・重労働という「危害」へ晒すことになる。
著者
寺町 晋哉 Shinya TERAMACHI 宮崎公立大学人文学部 Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.103-119, 2020-03-06

本稿は、女子の友人関係トラブルに対する教師の介入を検討することで、友人関係というインフォーマルな関係性が教師の介入に影響を受けること、そうした介入にジェンダー・バイアスが存在し、結果的に女子の関係性が劣位に置かれることを明らかにする。 先行研究は、ジェンダーの視点、インフォーマルな関係性、教師と児童生徒の再帰的関係のうち、いずれか一つが欠けている。これらの課題を克服するために、本稿では、女子の友人関係トラブルに対する教師の介入に着目する。分析に際して、Francis・Paechter(2015)が提示する三つの視点を用いている。 分析の結果、以下の三点が明らかになった。第一に、児童の関係性にかかわる教室秩序の形成にとって教師たちの理念や介入が重要であることである。第二に、児童間関係に対する教師たちの認識や介入に、ジェンダー・バイアスが歴然と存在し、女子たちは「関係性を重視する」という認識が、教師たちの介入を方向づけていたことである。また、教師たちは女子たちの関係を「ドロドロしたもの」と認識し、解決すべき課題にしているからこそ、何らかのトラブルが発生した場合、「トラブルの発端である関係性」そのものに焦点を当て、トラブルだけでなく女子たちの関係性にも介入していく。第三に、教師たちはケアの倫理が立ち現われやすい関係性に焦点化した介入を行いながら、その解決には自律的な主体であるという捻れた責任を女子に負わせていたことである。
著者
寺町 晋哉 Shinya TERAMACHI 宮崎公立大学人文学部 Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.77-101, 2020-03-06

本稿では、教職に就く予定の学生がもつ友人関係の経験に着目し、それらの経験が彼(女)らの教職観をいかに規定するのかを明らかにする。そのことで、彼(女)らが教師となり教育実践を続けていきながら、彼(女)らの固有の経験が職業的社会化といかなる関係を築いていくのかを明らかにしていくための出発点として本稿を位置づける。 分析の結果、以下のことが明らかとなった。第一に、彼(女)らの友人関係の経験や学級経験は、彼(女)らの生徒指導観や学級経営観を支える重要なものとなる可能性が示唆された。職業的社会化と教師個人の側面との関係性を考える上で、こうした友人関係の経験を重要な変数として考えていく必要がある。教師として生徒指導や学級経営の実践を行なっていく中で、関係性の経験が再解釈されたり、その経験に強く規定されることで、職業的社会化と教師個人との関係を明らかにすることができるだろう。 第二に、彼(女)らの関係性への認識はジェンダー化されているという点である。しかし、協力者たちがジェンダー・ステレオタイプを有していると批判することが目的ではない。従来の「ジェンダーと教育」研究が明らかにしたように、学校教育経験はありとあらゆる場面で、ジェンダー化されたているため、彼(女)らもまた、ジェンダー化された存在であり、関係性に対するジェンダー化された認識というのは、現状の学校教育を考えると当然の帰結だと考えられる。ジェンダー化された関係性への認識と学校現場との相互作用を描いていくために、教職課程学生がジェンダー化された関係性への認識をもっていることと、それをもつに至った経験を本稿では明らかにした。
著者
寺町 晋哉
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.310-321, 2014 (Released:2015-06-18)
被引用文献数
1

本稿では、「ジェンダー教育実践」に対する教師の認識を通時的に把握し、教師のライフヒストリーから「ジェンダー教育実践」と教師個人との関係を考察することで、「ジェンダー教育実践」を通じた教師個人の変容過程を明らかにした。教師個人と「ジェンダー教育実践」との関係は単純なものでなく、自己変容過程も決して平坦なものではない。教師個人が長い人生で培ってきた「本質的自己」とそれに規定される「教師としての自己」「個人としての自己」は、学校における他者や「ジェンダー教育実践」と複雑に関連しながら構築されていく。