著者
徳田 浩一 五十嵐 正巳 山本 久美 多屋 馨子 中島 一敏 中西 好子 島 史子 寺西 新 谷口 清州 岡部 信彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.714-720, 2010-11-20
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

2007 年3 月初旬,練馬区内の公立高校(生徒数792 人)で麻疹発生が探知された.同校は,練馬区保健所及び東京都教育庁と連携し,ワクチン接種勧奨や学校行事中止,臨時休業を実施したが発病者が増加した.対応方針決定に詳細な疫学調査が必要となったため,同保健所の依頼で国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(Field Epidemiology Training Program : FETP)チームが調査支援を実施した.全校生徒と教職員を対象として症状や医療機関受診歴などを調査し,28 人の症例が探知された.麻疹未罹患かつ麻疹含有ワクチン(以下,ワクチン)未接種者に対する電話でのワクチン接種勧奨や保護者説明会,緊急ワクチン接種等の対策を導入し,以後新たな発病者はなかった.症例のうちワクチン接種群(n=12)は,最高体温,発熱期間,カタル症状(咳,鼻汁,眼充血)の発現率が,未接種群(n=13)より有意に軽症であった(p<0.05).過去における1 回接種の効果を評価したところ,93.9%(95%CI : 87~97)(麻疹単抗原93.5%,MMR 94.3%)であり,製造会社別ワクチン効果にも有意差はなかった.1 回接種群(n=838)に発病者があり,2 回接種群(n=21)に発病者がないことから,1 回接種による発病阻止及び集団発生防止効果の限界が示唆された.集団発生時の対策として,文書配布のみによる注意喚起や接種勧奨では生徒や保護者の接種行動をはじめとした実際の感染対策には繋がり難く,母子健康手帳など記録による入学時の感受性者把握やワクチン接種勧奨,麻疹発病者の早期探知など,平時からの対策が必要であり,発病者が1 人でも発生した場合,学校・行政・医療機関の連携による緊急ワクチン接種や有症者の早期探知と休校措置を含めた積極的な対応策を早急に開始すべきと考えられた.
著者
小和田 暁子 浜田 有希江 青木 眞里子 郡山 洋一郎 坂野 晶司 寺西 新 黒岩 京子 森 亨
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.434-439, 2007 (Released:2014-07-03)
参考文献数
10

目的 QuantiFERON® TB 検査(以下,QFT 検査)は,ツベルクリン反応検査とは違って,過去の BCG 接種の影響を受けずに結核感染を診断できる新しい検査方法である。この QFT 検査を,2005年 6 月より足立保健所衛生試験所に直営導入し,保健所結核接触者健診における行政検査として実施している。本報告は,その後2006年 3 月までの実施状況を分析し,検討するものである。方法 QFT 検査対象者は,2005年 6 月から2006年 3 月にかけて,肺結核症患者と接触して接触者健診の対象者となった足立保健所管内に住む区民のうち,QFT 検査を受けることについて同意した者67人である。QFT 検査実施時期は,接触者が感染源である肺結核患者との最終接触後 2 か月以降である。すべての QFT 検査は足立保健所衛生試験所細菌検査部門で実施した。また,ツベルクリン反応検査もできる限り同時に実施した。結果 QFT 検査を実施できた接触者総数は67人であった。QFT 検査結果は,陽性が 9 人,判定保留が 5 人,陰性が53人であった。このうち,QFT 検査と同時にツベルクリン反応検査を実施できた接触者は48人,そのうち発赤長径が30 mm 以上の者は22人であった。ツベルクリン反応で発赤長径が30 mm 以上の者で QFT 検査が陽性となった者は 4 人,発赤長径が30 mm 未満であった26人の中で QFT 検査が陽性となった者は 5 人であった。QFT 検査が陽性となった 9 人については化学予防を指示した。このように QFT 検査の導入によって,従来のツベルクリン反応検査に比してより精度の高い潜在結核感染の診断が可能になった。結論 足立保健所では,既存の設備・検査技術を生かして衛生試験所細菌検査部門に QFT 検査を直営導入した。このことにより,QFT 検査の持つ「採血後12時間以内でできるだけすみやかに培養を開始する」という検査制限事項を容易に克服できた。さらに接触者健診の成果としてより精度の高い化学予防対象者の選別が可能になり,保健所の対人保健サービス部門と検査部門の密な連携による保健所機能強化につながった。