著者
將積 日出夫
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.1243-1249, 2018-10-20 (Released:2018-11-21)
参考文献数
20

遅発性内リンパ水腫は先行する高度感音難聴にメニエール病様のめまい発作あるいは対側の聴力変動を来す疾患群である. 先行する高度難聴耳と内リンパ水腫症状の原因耳の関係から同側型, 対側型に分けられる. 平成26年5月に「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法) が制定され, 遅発性内リンパ水腫は第2次指定難病 (平成27年7月1日施行) に選定された.「難病法」による医療費助成の対象となるのは, 原則として「指定難病」と診断され,「重症度分類等」に照らして病状の程度が一定度以上の場合である. 遅発性内リンパ水腫の診断基準は, A. 症状 (4項目), B. 検査所見 (5項目), C. 鑑別診断からなる. 指定難病には症状の4項目および検査所見の4項目に該当する確実例のみである. 遅発性内リンパ水腫の重症度分類は A. 平衡障害・日常生活の障害, B. 聴覚障害, C. 病態の進行度の3項目がある. 医療費助成の対象となるのは, 平衡障害では両側の半規管麻痺, 聴覚障害では両側 40dB 以上, 病態の進行度では不可逆性病変が高度に進行して後遺症を認めるものと定義されている. 遅発性内リンパ水腫の治療としては, 保存的治療として有酸素運動等の生活指導, 心理的アプローチ, 浸透圧利尿剤等の薬物治療, 機能保存的手術治療として内リンパ嚢開放術, 選択的前庭機能破壊術として内耳中毒物質鼓室内注入, 前庭神経切断術が行われている. 近年, その治療選択として低侵襲の治療から開始し, 有効性が確認されない場合に, 次の段階へ進む段階的治療選択法が提唱された. 中耳加圧療法は, 保存的治療に抵抗した難治例に対して手術治療の前に考慮される新しい治療法である. 新型鼓膜マッサージ機は経済産業省平成24年度課題解決型医療機器等開発事業「難治性メニエール病のめまい発作を無侵襲的に軽減する医療器機の開発」により作成され, 平成29年9月に中耳加圧装置として一般的名称がつけられた.
著者
將積 日出夫
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.1, pp.6-13, 2016-01-20 (Released:2016-02-06)
参考文献数
45
被引用文献数
2

日常診療で最も経験する末梢性めまいである良性発作性頭位めまい症 (BPPV) では, 特定の頭位をとると若干の潜時のあとで回転性のめまいが数十秒間起こる. BPPV に対する理学療法の有効性から, 本症の原因は卵形嚢の平衡斑より脱落して半規管内に迷入した浮遊耳石またはクプラに付着した耳石によるものと推定されている. 前者は半規管結石症, 後者はクプラ結石症と呼ばれる. 耳石の存在する半規管により後半規管型, 水平 (外側) 半規管型, 前半規管型の3つの病型に区別される. 頻度としては後半規管型 BPPV が最多であり, 水平半規管型 BPPV は10~30%, 前半規管 BPPV は2%と少ない. 診断には頭位眼振検査と頭位変換眼振検査を用いる. 頭位変化により誘発される半規管内に生ずる内リンパ流動 (もしくはクプラの偏位) に依存した眼振から病型と患側を診断する. 治療は半規管内の耳石を卵形嚢へ排出させることを目的として頭位治療が行われる. エビデンスのある頭位治療として後半規管型 BPPV の Epley 法, Semont 法が挙げられる.
著者
將積 日出夫 渡辺 行雄 丸山 元祥 本島 ひとみ 十二町 真樹子 安村 佐都紀
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.106, no.9, pp.880-883, 2003-09-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

(目的)Meniett20Rはメニエール病の携帯型中耳加圧治療器具である,本論文では,本邦で初めてMeniett20Rを薬物療法に抵抗する難治性めまいを反復し,人退院を繰り返す高齢メニエール病患者に対して用い,めまいに対する治療効果を報告した.(方法)対象は,高齢重症メニエール病患者2例であった.Meniett20Rによる治療開始から1年間の経過を評価した.(結果)治療開始からめまい発作消失までは約3カ月であり,めまい係数からいずれも改善と評価された.(結論)Meniett20Rは,鼓室換気チユーブ留置術を必要とするが,めまい制御に対する有効性が期待でき,簡便で安全性が高い.したがって,薬物療法に抵抗する重症メニエール病に対する治療方法の選択肢の一つとなる可能性がある.
著者
藤坂 実千郎 西島 由美 浅井 正嗣 舘野 宏彦 將積 日出夫
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 補冊 (ISSN:09121870)
巻号頁・発行日
vol.162, pp.37-43, 2023 (Released:2023-07-01)
参考文献数
12

A 93-year-old man with bilateral mild hearing loss since childhood due to chronic middle ear infections could hear and speak as an adult, but his hearing level had gradually become worse. He started to wear hearing aids when he was 70 years old, but he still found it difficult to hear. Finally, he could not understand the contents of any conversations by 87 years old, even with hearing aids. He accepted to undergo cochlear implantation on the right side at the age of 93 years. The results of the speech recognition test improved after surgery for monosyllables (from 28% to 38%) and single words (from 18% to 38%), but no improvement of sentence recognition was observed. Oldest-old patients have little occasion to speak, and could benefit from special tools, such as an audiobook or DVD, which they can learn by themselves.
著者
大井 祐太朗 舘野 宏彦 髙倉 大匡 將積 日出夫
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.333-336, 2020 (Released:2020-03-31)
参考文献数
8

症例は66歳男性。右前額部から眼窩周囲の違和感を主訴に近医総合病院内科を受診し頭部MRI所見で右上顎洞の液体貯留を指摘され慢性副鼻腔炎と診断された。マクロライド療法施行されたが改善なく精査加療目的に当科紹介受診。CTで右篩骨洞内に歯科インプラント体と思われる異物あり,内視鏡下鼻副鼻腔手術で異物を摘出した。 近年QOL向上や高齢者の増加等により歯科インプラント体埋込は増加傾向にある。歯科インプラントの副鼻腔への迷入は増えており,副鼻腔炎の精査の際には詳しい病歴や治療歴なども聴取し,異物も鑑別に精査する必要性があると考えられた。