著者
鈴木 真輔 辻 正博 椎名 和弘 小谷野博正 小泉 洸 川嵜 洋平 佐藤 輝幸 山田 武千代
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.183-190, 2018 (Released:2018-11-13)
参考文献数
12

クマ外傷は顔面を含む頭頸部に多いとされ,しばしば複雑で重篤な損傷を伴う。今回われわれが経験したクマ外傷13例について報告し,クマ外傷の特徴と治療における注意点を考察する。対象となる13症例はいずれも顔面に外傷を伴っていたが,10例では顔面骨の骨折が認められ,うち1例では頭蓋底骨折を伴っていた。頭頸部以外では上肢に損傷が多く,3例では上肢や体幹の骨折が認められた。また3例では出血性ショックを合併していた。顔面の皮膚欠損を伴った4例では皮弁や植皮による欠損部の再建術を要した。クマ外傷への対応ではその特徴を理解するとともに,それぞれの損傷部位に応じた適切で迅速な治療が重要である。
著者
阿久津 誠 後藤 一貴 柏木 隆志 今野 渉 中島 逸男 深美 悟 平林 秀樹 春名 眞一
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.41-46, 2019 (Released:2019-09-28)
参考文献数
10

食道異物は摘出が容易な症例や自然排泄が期待できる症例が多いが,時として消化管穿孔や皮下・縦隔気腫などの合併症を引き起こす事がある。今回われわれは過去11年間で経験した,食道異物の症例を若干の文献的考察を加え報告する。症例は全98例,10代と60〜70代の二峰性分布を認めた。種類別ではPTPが最多であった。30例が入院加療を要したが軽快退院していた。一般的な耳鼻咽喉科診察では食道内の異物を見落としてしまう恐れがあり,上部消化管内視鏡検査や頸部CT検査は重要である。また鋭的異物の誤飲を積極的に疑う場合,後に下部消化管穿孔や穿通をきたす恐れがあるため他科との連携を図り,下部消化管精査も検討すべきである。
著者
高橋 久昭 河西 信勝 鎌田 信悦
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.49-57, 1992-10-09 (Released:2010-09-27)
参考文献数
14
被引用文献数
2 1

1977-90年に当料で手術を行った甲状腺乳頭癌症例,新鮮例504例・2次例64例を対象に,リンパ節転移の部位・頻度・原発巣との関係などについて分析し,治療上の問題点および予後との関係について検討した。 気管前・傍郭清は新鮮症例454例に施行し,287例(63%)に転移が認められた。 内深頸リンパ節転移は新鮮症例164例(33%)に認められ,特に甲状腺内転移の多発している症例および低分化癌で転移の頻度が高かった。両側の深頸部に転移した症例では,高率に甲状腺の両葉に癌腫を認めた。 予後との関係をみると,深頸部リンパ節転移を認めた症例に遠隔転移あるいは頸部再発病巣の悪性転化による死亡が確認された。
著者
高林 宏輔
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.111-115, 2022 (Released:2022-10-31)
参考文献数
19

眼窩吹き抜け骨折の治療は,初療医から治療医への紹介,受傷から手術までの期間,手術アプローチ法と複数の最適化すべき段階が存在する。初療医は実際に手術を行わないが,治療医への紹介の段階,さらには受傷から手術までの期間に関わることとなり,治療医は手術の時期や手術アプローチ法を決定する。特に緊急手術を要する病態では時間的要素が重要であり,初療医から治療医への速やかな紹介が後遺障害の残存のリスクを減じる。各段階いずれが最適化されても,眼窩吹き抜け骨折の治療成績は向上しうる。本総説では最適な診療連携,最適な手術時期,手術アプローチ法について共有し,眼窩吹き抜け骨折診療を最適化したい。
著者
岩井 大 宇都宮 啓太 小西 将矢 安藤 奈央美 宇都宮 敏生 藤澤 琢郎 馬場 奨 友田 幸一
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.235-241, 2014 (Released:2015-02-11)
参考文献数
13

甲状腺全摘後の甲状腺分化癌高リスク症例に対するI-131の外来内用療法が認可され,われわれの施設でも本法の適応と考えられた22例中19例で実施できた。当初,東日本大震災の福島原発放射能汚染事故に関連し,本法に躊躇される例があった。甲状腺ホルモン休薬法に比しrhTSH(Recombinant human thyroid stimulation hormone,ヒト遺伝子組み換え甲状腺刺激ホルモン)法では合併症が少なかった。19例中3例に局所再発と1例に遠隔転移が認められた。これらの症例はいずれも頸部再発歴があり,再手術のあとにI-131内用療法を受けた症例であった。したがって,今回のI-131内用療法は,甲状腺癌再発症例の再々発予防に対する効果は十分でない印象であったが,さらに十分な症例数と観察期間をもって判断すべきと思われた。
著者
細川 清人 北山 一樹 猪原 秀典
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.207-216, 2023 (Released:2023-02-28)
参考文献数
20

片側声帯麻痺を呈する症例では,嗄声による会話・歌唱の困難により生活の質が低下する。声帯麻痺は,発症後半年を経過しても回復が得られない場合は治癒する可能性は低く,何らかの手術治療が必要となることがある。現在の医療では声帯可動性を回復させる治療は未だ実用化されていないため,嗄声の改善を目指すのであれば発声時の声帯位置を正中方向へ移動させる手術を行うことにより音声改善を目指すこととなる。片側声帯麻痺に対する手術治療は大きく分けて,披裂軟骨内転術あるいは声帯内方移動術があげられるが,本稿では治療の最適化に関連して,術後成績の評価方法,手術方法の選択基準,各手術方法の具体的な方法について説明する。
著者
家根 旦有
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.9-14, 2018 (Released:2018-07-31)
参考文献数
8
被引用文献数
2 1

2017年にTNM分類は改定され(UICC第8版),HPV関連中咽頭癌は独立した項目として分類されることになった。HPV感染の診断にはp16免疫染色が用いられ,中咽頭癌はp16陽性中咽頭癌とp16陰性中咽頭癌に分けられた。p16陽性中咽頭癌において,T分類はT4aとT4bがT4に集約され,N分類はN1からN2bまでがN1に集約された。病理学的N分類はリンパ節転移の個数で分類されることになり,pN1は1〜4個,pN2は5個以上のリンパ節転移と分類された。また原発不明頸部リンパ転移がp16陽性の場合,p16陽性中咽頭癌T0とみなすことになった。p16陰性中咽頭癌ではリンパ節転移に節外浸潤の概念が導入され,それ以外は第7版と大きな変更はない。
著者
松本 晃治 有方 雅彦 神前 英明 清水 猛史
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.155-159, 2014 (Released:2015-02-11)
参考文献数
12
被引用文献数
2

涙囊由来の腫瘍はまれであるが,その約70%が悪性腫瘍である。流涙や涙囊部腫脹を主訴として眼科を初診することが多い。今回,慢性涙囊炎を発生母地とした涙囊癌症例を経験し,眼窩内容摘出・皮膚を含めた上顎部分切除,耳下腺全摘術・頸部郭清術と術後放射線照射を行った。病理検査で唾液腺導管癌に相当する涙囊原発腺癌と診断された。涙囊癌の手術治療においては,涙囊,鼻涙管,涙囊周囲骨,眼窩内容,鼻副鼻腔を含めた切除術が必要であり,頭頸部の解剖に精通している耳鼻咽喉科医が担当する必要がある。
著者
松下 直樹 井口 広義 和田 匡史 大石 賢弥 岡本 幸美 寺西 裕一 神田 裕樹 山根 英雄
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.201-205, 2014 (Released:2015-02-11)
参考文献数
27

頰部に発生する腫瘍として耳下腺に付属するステノン管および副耳下腺を由来とするものが認められるがともに頻度は少ない。また原発がステノン管なのか副耳下腺なのかはっきりしないことも多い。しかし過去の報告からはステノン管を原発とするものは扁平上皮癌が多く,副耳下腺を原発とするものは粘表皮癌が多く扁平上皮癌は少ない。今回われわれはステノン管が原発と考えられた扁平上皮癌を1例経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。症例は71歳の男性。右頰部腫脹を主訴に受診され,画像所見から副耳下腺扁平上皮癌として手術を施行した。術後の病理所見などを含めて総合的に判断すると,ステノン管が原発の扁平上皮癌と考えられた。
著者
瀧澤 義徳 杉山 健一 岡村 純 石川 竜司 望月 大極 高橋 吾郎 三澤 清 大和谷 崇 細川 誠二 峯田 周幸
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.223-229, 2014 (Released:2015-02-11)
参考文献数
20

小細胞癌は肺に好発する腫瘍である。頭頸部に発生する小細胞癌は比較的まれであるが一般に悪性度が高く,高率に遠隔転移を生じ予後不良とされる。頭頸部原発小細胞癌の治療は未だ確立されたものはないが,肺小細胞癌の治療に準じて行われることが多い。限局性で早期の症例や手術を組み合わせた集学的治療の報告もあるが,放射線・化学療法による治療が行われる。今回われわれは,喉頭と副鼻腔が原発と考えられた小細胞癌の2症例について報告する。
著者
八木 千裕 松山 洋 山本 裕 髙橋 姿
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.303-309, 2016-02-28 (Released:2016-04-06)
参考文献数
17

症例は,先天性下肢複雑奇形に対し頻回の手術が必要と診断され,麻酔科からの依頼により生後8か月時に気管切開術を施行した男児である。計7回の整形外科手術を終了し,4歳3か月時に気管支鏡にて声門下を確認したところ,カニューレ直上に気管内腔をほぼ閉塞する瘢痕組織を認めた。4歳7か月時に瘢痕除去術を施行したが,術後癒着による気管狭窄を認めたため,5歳4か月時に気管拡大術およびTチューブ留置術を施行した。2か月間Tチューブを留置後抜去し,5歳9か月時に気管孔閉鎖術を施行,その後の経過は良好であった。本症例を通して,気管カニューレ抜去困難症に至った反省点や同疾患への治療における工夫などを報告した。
著者
四宮 弘隆 岩江 信法 平山 裕次 小松 弘和
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.207-210, 2011-02-28 (Released:2011-03-18)
参考文献数
10

鼻に発生した痛風結節の1例を経験したので報告する。症例は53歳男性。鼻根部に徐々に増大する3cm大の腫瘤を認め,局所麻酔下に摘出術を施行した。摘出標本中に針状結晶とその周囲の異物炎が認められ,痛風結節と同様の病理組織所見であった。痛風結節は一般に急性関節炎の起きやすい足,膝,手指,肘関節に好発し,頭頸部領域では耳介にしばしば認められる。その他にも顎関節,胸鎖関節,脊椎,眼瞼,鼻,舌,喉頭,声帯などにまれに見出され,時には他の良・悪性腫瘍との鑑別診断に苦慮することもある。長期罹患中の高尿酸血症患者では,頭頸部腫瘤の鑑別診断として痛風結節を念頭に入れておく必要があるものと考えられた。
著者
岩江 信法 平山 裕次 四宮 弘隆 手島 直則 古川 竜也
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.99-102, 2012 (Released:2012-09-20)
参考文献数
6
被引用文献数
1

近年の頸部郭清術においては,胸鎖乳突筋や副神経を温存する保存的で機能的な郭清が普及してきている。今回われわれは胸鎖乳突筋背側面の副神経穿通部位を,レベルII,III,IVを含む郭清を施行した症例46例65側を対象として頸部郭清術中に観察した。穿通部位は胸鎖乳突筋の胸骨部背側0側(0%),胸骨部鎖骨部境界域4側(6.2%),鎖骨部筋体49側(75.3%),鎖骨部後縁付近12側(18.5%)であった。胸骨部の背側から副神経が穿通している症例はなく,鎖骨部前縁までの胸骨部背側面については頸部郭清時に副神経に特に留意する必要なく剥離操作が可能であると考えられた。
著者
小松﨑 敏光 江川 峻哉 池田 賢一郎 櫛橋 幸民 池谷 洋一 浜崎 泰佑 古川 傑 水吉 朋美 浅野 雅世 小林 一女 嶋根 俊和
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.247-251, 2016-10-30 (Released:2016-11-17)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

今回われわれは,原発性肺癌疑いの精査でCT検査を行ったところ甲状腺に腫瘍を認め,穿刺吸引細胞診の結果悪性腫瘍と診断し,摘出術を行った。病理組織学的結果は,肺癌からの転移性甲状腺癌と診断した症例を経験した。転移性甲状腺癌は進行すると,呼吸や摂食に関係し,その後患者のQOLを著しく低下させるため,原発腫瘍の治療状況,全身状態,PS,腫瘍を摘出してその症例のQOLが向上するかどうかを総合的に判断して治療にあたるべきと考えられた。本症例のように急激な増大を認める症例もあり摘出時期を逸しないことも重要と考えられた。
著者
砂金 美紀 山﨑 一樹 越塚 慶一 大木 雄示 飯沼 智久 木下 崇 鈴木 猛司 米倉 修二 花澤 豊行
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.401-408, 2020 (Released:2021-03-19)
参考文献数
20

良性対称性脂肪腫症(Madelung病)は頸部や躯幹,四肢などに対称性,多発性に脂肪が蓄積する疾患である。Madelung病の3例を経験したので考察を加えて報告する。症例1は76歳男性で,嗄声や嚥下障害,喉頭周囲の脂肪沈着を認めた。手術後の嚥下機能の悪化を懸念して経過観察の方針とした。症例2は61歳男性で,咽頭後間隙に脂肪組織を認め腫瘍摘出術を行った。症例3は72歳男性で,咽頭後および傍咽頭間隙に脂肪沈着を認め,腫瘍摘出術を行い整容的に高い満足度が得られた。本疾患では患者に整容的な改善の希望がある場合や気道閉塞,嚥下障害などの機能異常を認めた際には積極的に外科的治療を検討することが重要である。
著者
友田 智哲 杉野 公則 伊藤 公一
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.5-9, 2020 (Released:2020-07-17)
参考文献数
20

近年甲状腺癌に関する様々なガイドラインが改訂された。特に,国内のガイドラインで,転移や浸潤徴候のない微小乳頭癌患者に対して,非手術経過観察を希望される場合には,“経過観察を行うこと”が推奨された点は,他癌種の治療ストラテジーである早期発見,早期治療とは相反しており注目すべきである。この背景には,微小癌の増大頻度や遠隔転移の頻度は低いこと,増大後手術施行しても術後成績が変わらないことが前向き研究で示された為である。海外のガイドラインでは,次世代シーケンサーの普及に伴い,遺伝子検査が細胞診の鑑別困難時の診断補助として推奨されている。国内でも,髄様癌のRET遺伝子検査は,治療法決定に不可欠な検査である。
著者
鬼塚 哲郎
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.307-310, 2017-02-28 (Released:2017-03-07)
参考文献数
10
被引用文献数
1

頸部郭清術後のリハビリテーションの目的は,肩関節可動域の維持と肩周囲の関節痛,筋肉痛の予防である。肩関節可動域訓練の要点は,なるべく早期に開始し,最初は上肢の重力負荷が軽減されるような仰臥位で開始すると安全である。過負荷による関節痛や筋肉痛を生じないように留意する。近年多く行われている副神経を保存した頸部郭清術においても高率に副神経障害をきたしているためリハビリテーションが必要である。副神経を切除した頸部郭清術においても,リハビリテーションにより日常生活に支障のない上肢可動域が得られるようになる。
著者
小針 健大 鹿野 真人 佐藤 廣仁 髙取 隆
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.227-233, 2016-10-30 (Released:2016-11-17)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

輪状軟骨切開術は,輪状軟骨前方部分の鉗除を行う気道確保術であり,皮膚から気管までの距離が短く甲状腺の操作も必要としないため,安全性の高い術式である。われわれは,前頸部膿瘍,出血傾向,短頸および上気道狭窄の緊急度が高く通常の気管切開術が困難な4症例に対し輪状軟骨切開術を施行し,術後に切開孔を閉鎖しえた。これまで輪状軟骨の損傷は肉芽形成の可能性があり推奨されていなかったが,全例で声門下の肉芽増生はなく経過している。輪状軟骨切開術は,手術リスクの高い症例に対しても安全に行える術式であり,また術後に切開孔を閉鎖する場合でも必ずしも肉芽形成による気道狭窄などの理由とはならず,有効な術式であると考えられた。
著者
鳥山 満由 毛利 光宏 天津 睦郎
出版者
JAPAN SOCIETY FOR HEAD AND NECK SURGERY
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.155-159, 2000-12-30 (Released:2010-07-27)
参考文献数
13

我が国においては,遭遇することがまれである銃創症例を経験したので報告した。症例は31歳の男性。顔面を拳銃で撃たれ,約25分後当院救急部へ搬入された。左耳下部皮膚に射入口を認め,顔面単純X線及び頸部CTで,左下顎骨骨折と,右顎下部皮下に銃弾が停留している所見が認められた。顔面から頸部にかけての盲管銃創と診断し,同日緊急手術を施行した。銃弾を摘出し,血腫の除去,挫滅汚染組織のdebridementを行った。この症例では,下顎骨を貫通した時点で銃弾のエネルギーの大半が消費されたために,頸部の血管系に大きな損傷を与えることなく対側の皮下へ到達したものと考えられた。
著者
真栄田 裕行 杉田 早知子 山城 拓也 崎浜 教之 鈴木 幹男
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.53-58, 2019

副咽頭間隙原発の腺様囊胞癌の報告は少なく,本邦の過去の報告は 8例のみであった。今回われわれは副咽頭間隙発生の早期腺様囊胞癌を経験した。患者は63歳の女性。左副咽頭間隙に発生した腫瘤は画像所見からは多形腺腫も考慮されたが,形状や耳下腺との非連続性から神経鞘腫と診断した。経頸部アプローチにより腫瘤が摘出され,術後に腺様囊胞癌と判明した。副咽頭間隙に腺様囊胞癌が生ずる認識があれば,術前に細胞診やFDG-PET検査を施行して正確な診断がついた可能性もある。また治療に関しても腫瘍を明視下に置いた種々の術式により,完全切除も可能であったと思われた。再発時には拡大切除および術後照射が現実的な治療方針ではないかと考える。