- 著者
-
渡辺 行雄
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
- 巻号頁・発行日
- vol.116, no.7, pp.808-817, 2013-07-20 (Released:2013-09-14)
- 参考文献数
- 14
私は1971年に新潟大学耳鼻咽喉科学教室に入局, 1979年に富山医科薬科大学 (現富山大学) に移動, 1993年に前任の水越鉄理名誉教授 (故人) の後任として耳鼻咽喉科学教室教授に就任, 2012年3月に退任した. この間, 耳鼻咽喉科診療全般に従事するとともに, めまい・平衡障害の研究と臨床に専念した.私のこの領域との関係は, 眼振分析の情報処理から始まった. PDP12という当時としては画期的な実験室用分析コンピュータを使用し, アセンブリ言語で分析プログラムを開発した. 私は, コンピュータプログラミングが性に合って, 初期はめまい臨床ではなくソフト開発に没頭した. また, 眼振などのアナログ情報処理ばかりではなく, 当時の厚生省メニエール病研究班の疫学調査データ解析を担当した. これらの研究は, 富山医科薬科大学にて, より上位機のPDP11を使用して大きく発展した. 具体的には, 平衡機能検査の自動分析システムの構築と眼振・眼球運動の分析 (温度刺激, 回転刺激検査 (VOR), 視標追跡, 視運動眼振, およびこれらの刺激との関連), 重心動揺記録の各種分析, 電気性身体動揺検査システムの開発等々である. これらの研究活動とともにめまい臨床に携わっていたが, 当初はあまり興味を持つことができなかった. これは, めまい, 特に難治例に対する治療方法が明確でなかったことによる. しかし, メニエール病に対する浸透圧利尿剤, BPPVへの頭位治療, めまいの漢方治療, 前庭機能障害後遺症の平衡訓練, 難治性メニエール病に対する中耳加圧治療などを経験, 開発して治療選択肢が広がるにつれ, ライフワークとしてめまい診療に取り組むようになった. 特に中耳加圧治療は, 私が本邦で初めて導入し, また, 米国製の医療機器に対し本邦独自の変法を考案, 開発したもので, 私の退任直前の仕事として充実感をもって当たることができた. 本稿では, 私がめまいとともに歩んだ40年についての退任記念講演会の講演内容を概説した.