- 著者
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小島 慧一
柳川 正隆
山下 高廣
- 出版者
- 日本比較生理生化学会
- 雑誌
- 比較生理生化学 (ISSN:09163786)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, no.3, pp.122-131, 2022-12-07 (Released:2022-12-21)
- 参考文献数
- 34
ヒトを含む多くの脊椎動物は,明所では色を識別できるものの,暗がりでは色を識別できない。これは,明所で働く視細胞・錐体を複数種類持つ一方で,暗がりで働く視細胞・桿体を1種類しか持たないことに起因する。しかし,多くの種が夜行性であるカエルやヤモリは,「暗がりで色を識別できる」特殊な能力を持つことが古くより知られていた。これは,カエルには通常の桿体に加えて特殊なもう1つの桿体(緑桿体)が存在し,また,夜行性ヤモリには3種類の桿体が存在することに起因すると考えられていた。そして通常,桿体には光受容タンパク質・ロドプシンが含まれるが,カエルの緑桿体や夜行性ヤモリの桿体にはロドプシンは含まれず,本来は錐体の中で明所での視覚を担う錐体視物質が含まれる。しかし,錐体視物質に比べてロドプシンは,光がない時の熱活性化頻度を低下させることで暗がりでの視覚に貢献しているため,「桿体に含まれる錐体視物質は暗がりでの視覚に利用できるのか?」という課題があった。そこで私たちの研究グループは,独自に開発した生化学的解析法を駆使することで,カエルと夜行性ヤモリの錐体視物質が,ロドプシンのように熱活性化頻度を低下させていることを明らかにした。カエルと夜行性ヤモリは,収斂進化によってロドプシン様の性質を持つ特別な錐体視物質を生み出したことで,夜にカラーで周囲の状況を認識することが可能となり,自身の生活に役立てていると考えられる。