著者
小島 泰友
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

比較静学モデルによる価格伝達分析を行い,硬質小麦の政府売渡価格やふすまの市場動向,製粉・製パン業の非農業部門など,これらの外生変数による小麦製品の価格変化率に対する寄与率を計測し,小麦政府売渡制度の相対的影響度を明らかにした.高度経済成長期を終え,非農業部門からのコスト上昇圧力が緩和した1980年代半ば以降,小麦の政策価格は,食パン価格の変化に対して,それ以前よりも相対的に強い影響を与えている.1980年代後半以降の小麦価格の引き下げ期に,小麦粉価格の低下が不十分であった要因について,定量分析を行った.製粉大手企業は原料費削減による残余資金を原資に,製販統合・経営多角化を推進し,食品販売部門の強化を図っている.よって,硬質小麦の政府売渡価格の引き下げは,強力粉価格の低下に十分反映されていない.価格支持政策から直接支払政策への農政転換は,必ずしも消費者利益の増加につながるとは限らない.強力粉価格が低下した1980年代後半以降,食パン卸売価格が下方硬直的であった要因を推測的変動モデルで定量分析を行った.製パン大手企業の販路拡大競争と製パン小売業の台頭によって70年代後半,低価格戦略が取られたが,その後,企業合併等で市場集中度が高まると,価格は下方硬直的となった.食品製造業全体を上回る製パン業の人件費の伸びも影響した.70年代後半の市場競争性があれば,90年代末の価格水準は,約6〜12%低いと推定される.規模の経済性をもつ不完全競争下の食品産業を想定し,農業効率化と輸入関税削減が,農産物から加工食品への価格伝達性に対してどのような効果をもたらし,農業生産者と最終消費者にどのような影響を与えるのか,McCorristonらのモデルをもとに理論的考察を行った.農業効率化と関税削減をいかに進めるかだけでなく,加工食品市場の競争性をいかに高めるかという論点も,最終消費者だけでなく農業生産者の利益の確保のために,重要である.
著者
小島 泰友
出版者
東京農業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

2007-08 年の食料危機における EU や NAFTA 加盟国の主要農産物の需給や貿易動向をみる限り、地域経済統合や自由貿易協定は、地域内の食料安全保障を確保する意味で、加盟国間では有効に機能していたと考えられる。しかし、地域経済統合や自由貿易協定は、EU のトウモロコシの域外輸入の急増や小麦の域外輸出の減少、米国のメキシコへのトウモロコシ輸出の増加とそれに伴うアフリカへの同輸出の減少など、食料危機において域外の農産物輸入国へ負の影響を与える可能性がある。