著者
小島 郷子
出版者
高知大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

学校教育における金銭教育の実態を把握するための、中学校・高等学校の教員を対象としたアンケート調査結果の分析をとおして、学校教育における金銭教育の今日的課題と家庭科教育の役割を明らかにするために研究を行った。その結果、中学校・高校の7割の教員が金銭教育の実践経験を持っており、中学校においては、道徳や特別活動での実践が多く、高校では家庭と社会での実践が多くみられた。さらに、実践経験がない教員の理由の分析からも、中学校教員は金銭教育を教科指導と捉えていないことがわかった。目標の分析からは、全体的に情意的な目標が重視される傾向がみられた。教育内容については、情意的な内容は家庭教育の役割で、認知的な内容は学校教育の課題であるとの認識を持っていた。金銭や金融への関心では、関連書物の購読状況は悪く、研究会や講演会などの研修の機会もほとんどなかった。このことは、教員の意識面の改革のみならず、講座や講演会、さらには研究会を増やすなどのハード面の改革も重要な課題である。自由記述による子どもの金銭感覚・金銭教育観については、物が豊富にある社会背景と親から金銭を自由に与えられ、金銭を得るための労働経験がないことが当然になっている生活環境の中で、望ましい金銭感覚を身につけることが困難な状況にあることが浮き彫りになった。高校生については、自由に個人の価値観を優先させ、その欲求を満たすためには手段を選ばない、自己中心的な消費行動があらわれていた。以上の結果から、学校教育における金銭教育の在り方を探るためには、まず、金銭教育を担う教育主体が、各主体ごとの役割を明確化することが必要である。本来家庭教育の役割である情意的領域の教育を学校教育が担っている現状を少しでも改善するために、家庭教育における情意的な教育の充実を保護者に対して働きかけることが必要である。そして、学校教育においては、金銭に関わる認知的な学習を実践しなければならない。金銭教育研究指定校における、金銭教育プロジェクト研究などにおいても教科指導の時間、特に家庭科と社会科の時間数を確保し、両教科で金銭に関わる認知的な学習を保証していかなければならない。2002年度からの新教育課程においては、小学校家庭科から「金銭の記録」が、中学校家庭科から「契約」の内容がそれぞれ削除されることになっている。現行と比較して、さらに認知的な学習の機会が減少することになる。今日のようなカード社会、キャッシュレス社会に必要な教育は金銭に関わる認知的学習であり、金銭を管理する能力の育成である。義務教育の早い時期から始め、発達段階に応じた系統的な教育を行うことが金銭教育の今日的課題であり、家庭科は一教科としてその役割を果たすためにも、家庭経済の中での金銭に関する教育を、金銭の機能や働きといった金銭知識、金銭管理能力という視点から見直し、認知的領域の学習を取り入れていかなければならない。
著者
刈谷 三郎 上野 行一 小島 郷子 笹野 恵理子
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、「遊び」の活動に着目して、日本と韓国の子どもの日常生活や「遊び」の現状を調査し、子どもの置かれている実態を把握する。そして、いわゆる「実技教科」と呼ばれる、音楽科、図画工作科、体育科、家庭の学校での教科カリキュラムと子どもの日常生活における「遊び」の経験がどのように関連しているかを分析し、「遊び」と実技教科カリキュラムとの関係を考察することを目的とした。これまで私たちが行ってきた「教科教育における授業評価システムに関する教科横断的研究」(平成13-15年科学研究費助成)及び、戦後の教育課程比較や学習指導方法の比較をまとめた「日韓教科教育入門」(平成17年)の研究において比較的似通った教育課程を持つ両国で、子どもたちの「遊び」と実技系教科がどのように関わり、結びついているかの比較を行った。これまでの研究成果を元に、まず、子どもの「遊び」の日韓比較を、合計約2000名の児童を対象として都市部と地方に分け調査を行い、当該調査の分析と考察を行った。これについては「日本・韓国の子どもの遊び比較研究」と題し、刈谷三郎が2007年12月2007International Leisure Recreation Seminar(ソウル)において、その成果を発表した。韓国における高学歴志向、少子化、受験といった社会的背景が、子どもの「遊び」に深く投影されていることを指摘した。質疑の中で東北アジアでの研究への発展が示唆された。引き続き、子どもの「遊び」の実態把握からよみとれる日常生活経験を軸に、実技教科カリキュラムとの関連において考察を行い、遊びを自発的な自己完結的な子どもの日常生活文化として考えると、日本の子どもは実技教科が形成する学校教科文化と子どもの日常生活文化の乖離を強く意識し、韓国の子どもの方が、日常生活文化と学校の実技教科文化との接続を認識し、融合的に把握していること論証した。これらの研究成果は韓国・日本教育学会誌(韓国・日本教育学研究)において「実技系教科と遊びの日韓比較研究」として掲載予定(2008年8月)である。しかしながら、現時点では当初の目的の一つであった、新たな実技教科カリキュラムモデルの提案には至らなかったことが課題として残された。