著者
亀田 弘之 波多野 誼余夫 小嶋 恵子
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. TL, 思考と言語
巻号頁・発行日
vol.95, no.30, pp.9-20, 1995-05-17
被引用文献数
1

情報科学の究極の目的の一つに、人間に匹敵する情報処理能力を有するシステムの実現があるが、人間が、自然言語の理解や生成をはじめとして、多くの面において優れた能力を発揮することのできる理由は、自己の内外に生起する様々な出来事や現象を、自己の経験として知識獲得・運用するからである。このような観点から、筆者らは、心理実験により人間の心的な言語処理過程を解明し、その知見に基づき新語(以下、未知語)の意味を推定する方法に関する研究を、思考過程解明の一貫として行っている。本稿では、心理実験により得られた知見に基づき、漢字2文字から構成される未知単語の意味を、用例からの類推により推定するシステムについて述べる。
著者
小嶋 恵子
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

談話理解に基づく知識の獲得と改定を調べるために、3系列の実験を行った。第1に、大学生による推理小説の読解過程を検討する実験を4つ行った。推理小説を読むのを途中4ヶ所で止めて、犯人や動機についての推理を述べさせた。解釈の構成と変更を規定する4つの要因に着いて次の事か明らかになった。(1)テキストが与える情報について、テキストを読み進むにつれて推論は正答に達し、あるいは近づいた。一部異なる情報を含むテキストを与えると解釈も異なることが確かめられた。(2)推理小説の筋の運びについての既有知識は正しい推論を促進する場合もあるが、深読みしすぎをまねくこともあった。(3)読み手は自分が一度構成した解釈にこだわれ、変更が困難であることが見られた。(4)解釈の共同見解を2人で作ることを求めると、相手の解釈を採用したり、話し合いによって新しい解釈を生み出したりすることがあった。第2に、多義語(漢字熟語)を含む文章の理解過程を観察し、次の特徴を明らかにした。文章全体についての表象は最新情報にもとづいて変更されたが、多義語の解釈の修正は困難で、生じた矛盾解消のために余分な推論をしていることがみられた。第3に、日本語における辞書的多義性低減の方略について検討し、次の結果を得た。大学生は辞書的多義性に気づいており、辞書的多義性をどうすれば低減できるかについての知識を持っていた。全体として、読み手は談話の中の情報と外の情報との両方を使って知識を構成している。