- 著者
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桜井 弘
安井 裕之
吉川 豊
廣村 信
小嶋 良種
- 出版者
- 京都薬科大学
- 雑誌
- 特別推進研究
- 巻号頁・発行日
- 2004
糖尿病(DM)は、インスリンの絶対的または相対的不足による疾患であり、それぞれインスリン依存性の1型およびインスリン抵抗性による2型DMとよばれている。前者は、1日に数回のインスリンの皮下注射が唯一の治療法であるため、患者に精神的・肉体的負担を与えるのみならず、自己抗体を産生してインスリンの作用が表れなくなることがある。後者の治療には、いくつかの経口合成薬剤が開発されているが、それらを長期に服用すると強い副作用が現れるのみならず、体がインスリン合成を不要と判断するため、やがてはインスリン注射に頼らざるを得なくなることも知られている。このような状況の下で、インスリン注射や合成薬剤に代わりうる新しい薬剤の開発が世界的に要望されている。本研究は、金属錯体による1型および2型糖尿病の治療を目指して行われた。脂肪細胞および実験動物を用いて得られた主な成果は、以下の通りである。(1)細胞を用いるインスリン様作用の評価系(グルコースの取り込み促進と脂肪酸放出抑制)を確立した。(2)バナジル(VO^<2+>)-ピコリネートをリード化合物として11種類の錯体を合成して、構造活性相関性(SAR)を研究し、配位子の置換基の位置が重要であることを明らかにした。(3)バナジル-およびジンク(Zn)-3-ヒドロキシピロネートをリード化合物としてそれぞれ5〜8種類の錯体を合成し、SARを研究し、アリキシン関連配位子の錯体は1および2型DMを治療できるのみならず、メタボリックシンドロームを改善できる新事実を見出した。(4)これらの錯体の作用機構を研究し、バナジルおよびジンク錯体は主としてインスリンシグナル伝達系に存在する各種の酵素のリン酸化を促進し、最終的にグルコース輸送体を細胞膜表面に移動させる新知見を得た。(5)バナジウム化合物や錯体の新しいドラックデリバリーシステムを考案した。(6)以上の結果にもとづいて、臨床応用を目指すいくつかの錯体の構造式を提案した。