著者
小嶋 誠司 本間 道夫
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

細菌のべん毛モーターは、細胞表層に自己集合し、エネルギー変換を担う超分子複合体である。モーターの回転力は、エネルギー源となる共役イオンが固定子中を流れる際に生じる、固定子-回転子間相互作用により発生すると考えられている。回転力発生のメカニズムを明らかにするためには、モーターの心臓部である固定子の構造情報が不可欠である。本研究では、ビブリオ菌Na^+駆動型モーターの固定子PomA/PomB複合体の結晶化を試みた。今年度は、これまで困難であった複合体の膜からの抽出の際に、界面活性剤Cymal-5を用いることで可溶化と精製度の向上が見られたので、大量精製し結晶化のスクリーニングを行ったが、現在のところ結晶はまだ得られていない。我々は部分構造の結晶化も同時に行い、H^+駆動型のサルモネラ菌固定子蛋白質MotBのC末端ペリプラズム側断片(MotB_C)の結晶構造を分解能1.75Aで決定することが出来た。固定子はこの領域に存在する推定ペプチドグリカン結合(PGB)ドメインを介してPG層に固定されていると考えられている。またイオンの透過は固定子がモーターに設置されて始めて活性化される。本研究で用いたMotB_CにはPGBドメインだけでなく、ペリプラズム側において運動に必須な部分がすべて含まれている。MotB_Cは1つのドメインで構成され、二量体を形成していた。MotB_Cが予想以上にコンパクトな構造であるため、ペプチドグリカン層に作用し固定するためには、MotB_Cにおいて大きな構造変化が起こらなければならない。構造情報をもとに行った機能解析により、PGBドメインでの二量体形成が固定子のチャネル部分を形成する膜貫通ヘリックスの適切な配置に重要であること、MotB_CのN末端部分の大きな構造変化がPG結合とプロトンチャネルの活性化に必要であることが明らかとなった。
著者
本間 道夫 小嶋 誠司 柿沼 喜己 村田 武士 滝口 金吾
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

細菌べん毛モーター回転のエネルギー源は、電気化学的ポテンシャル差によるイオンの流入である。海洋性ビブリオ菌Vibrio alginolyticusは、ナトリウムイオンで動く極べん毛を持つ。これまでに固定子内のイオン透過経路については、ほとんど研究が進んでいなかったが、ATR-FTIRを用いた測定によりNa^+結合部位をはじめて実験的に明らかにした。また、固定子タンパク質膜貫通部位への変異導入により、イオン透過経路を推測した。固定子構成タンパク質にGFPを融合させて、それらの局在の条件を調べたところ、Na^+依存的な局在を明らかにした。固定子のダイナミックな集合解離の重要性を示唆した。固定子タンパク質のペリプラズム側断片の結晶構造を解明しすることにより、大きな構造変化がイオンチャネルの活性化に必要であることを示唆することができた。