著者
反町 百花 小川 孔幸 松本 彬 惣宇利 正善 小板橋 るみ子 梶田 樹矢 明石 直樹 内藤 千晶 石川 哲也 小林 宣彦 宮澤 悠里 一瀬 白帝 半田 寛
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.60-65, 2023 (Released:2023-02-11)
参考文献数
15

症例は86歳男性。COVID-19に対するBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン2回目接種の35日後に左下肢,左上肢の腫脹と疼痛が出現し,近医を受診した。APTT延長を認め,当科に紹介緊急入院となり,FVIII: C 1.7%,FVIII inhibitor 152.3 BU/ml,ELISA法でFVIII結合抗体を検出し,後天性血友病A(AHA)と診断した。高齢でADLも低下していたため感染リスクの懸念から,PSL 0.5 mg/kg/日で治療を開始した。入院期間中に筋肉内出血,膝関節出血などの出血事象を認めたが,都度バイパス止血製剤(rFVIIa,FVIIa/FX)による止血治療を実施し,良好な止血効果を得た。PSL治療で第69病日に凝固能的完全寛解(cCR)を達成したが,PSL漸減とともにFVIII活性が低下し,3回目のワクチン接種後に腹直筋血腫を伴うAHAの再燃を認めた。本症例は,日本人初のCOVID-19ワクチン接種後のAHA報告例で,かつ抗FVIII結合抗体の存在が証明された世界初の症例である。
著者
小川 孔幸
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.799-808, 2020 (Released:2020-08-05)
参考文献数
21

凝固第XIII/13因子(FXIII)は,タンパク質を架橋結合させる酵素であるトランスグルタミナーゼの一種で,止血と創傷治癒に寄与する。FXIIIは,酵素活性を有するAサブユニット(FXIII-A)とそれを安定化するBサブユニット(FXIII-B)からなる異種四量体を形成する。自己免疫性後天性凝固第XIII/13因子欠乏症(AiF13D)は,抗FXIII自己抗体によりFXIII活性が著減し,主に高齢者に突発的で重篤な出血症状を呈する難治性出血性疾患である。AiF13Dは超希少疾病で,世界中で約100例(うち60例以上を日本から)が報告されているのみである。本症は日常臨床検査で異常が検出されないため,多くの症例が見逃されている可能性がある。AiF13Dの自己抗体は,Aa型,Ab型とB型の3様式が存在する。当院ではこれまでに4例(Aa型:3例,B型:1例)の診療経験がある。本総説では当院の診療経験を交えてAiF13Dの診断と治療の要点について概説する。