著者
小川 竹一
出版者
沖縄大学
雑誌
地域研究 (ISSN:18812082)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.9-30, 2005-06-30

本件は、金武町金武区において、入会権を有していた者の女子孫が入会団体(金武部落民会)から入会権を認められないことに対して、入会権の確認を求めると同時に入会地が米軍用地になっていることから生じている賃貸料の配分を求めて訴訟を提起した事件である。金武区の部落住民は、琉球王府時代から杣山を維持管理し、山林の利用権が認められていた。明治32年に沖縄県土地整理法によって、これらの山林が官有とされたが、明治39年に地元部落に30年年賦で払い下げられた。一旦、部落所有山林となったが、大正時代から国策として進められた「部落有林野統一事業」により、昭和8年ころ無償で金武村有となった。そのとき村と区の統一条件として、林野の収益を区6村4で配分するほか、部落が従来通り山林を利用するなど、部落が地役的入会権を留保することになった。 入会権は、民法において共有の性質を有する入会権(294条)と地役権の性質を有する入会権(263条)が規定されているが、相違は、土地の所有権が入会集団に帰属するか否かであり、土地の用益内容については違いはない。権利内容は基本的に「地方の慣習に従う」とされている。入会権は、部落に基礎を置く入会集団の統制のもとに一定の土地を共同で管理し利用する権利である。入会集団が土地所有権を有しない場合が地役権的入会権である。入会地の利用方法は、入会集団の決定によって定まる。入会集団の統制の元に共同で利用したり、その決定によって、構成員が分割して利用したりすることもある。また、第三者に賃貸して収益を得ることもあり、また利用を行わずに保全を行うことも含まれる。 入会権者の範囲は慣習によって定まるが、本件部落民会は、会則で女子孫排除原則を定めている。このような慣習が存在したのか、あるいは存在したとしても公序良俗に反する慣習であって無効であるということが法律上の争点である。第1審では、入会慣習に触れることなく会則が男女差別を行っていることから公序良俗違反として原告女子孫の請求を認めたが、第2審では、女子孫を排除する慣習が存在し慣習を尊重するとして原告が敗訴し、原告女子孫側が上告した。 会則が定める資格基準は、沖縄の門中集団に見られる祭祀継承の慣行であるトートーメー継承の禁忌に基づいている。しかし、ある世帯が部落の構成員として認められるか、すなわち入会集団権者資格に関わる慣習とは次元が異なる問題から生じたのであり、沖縄社会に根深くある女性差別と新たな社会問題である軍用地料問題が、複合して現れている問題である。不労所得である軍用地料が勤労意欲の低下を引き起こしたり、地域の中で不公平感を生じさせたりするなどの地域問題を引き起こしている。本件訴訟の原告女性らが提起した問題は、巨額の軍用地料の配分のあり方や米軍用地からの開放された後の利用の仕方という長期的な展望に立って、地域資源の管理のあり方を考えなければならないことを明らかにした。
著者
小川 竹一
出版者
沖縄大学地域研究所
雑誌
地域研究 = Regional Studies (ISSN:18812082)
巻号頁・発行日
no.1, pp.9-30, 2005-06-30

本件は、金武町金武区において、入会権を有していた者の女子孫が入会団体(金武部落民会)から入会権を認められないことに対して、入会権の確認を求めると同時に入会地が米軍用地になっていることから生じている賃貸料の配分を求めて訴訟を提起した事件である。金武区の部落住民は、琉球王府時代から杣山を維持管理し、山林の利用権が認められていた。明治32年に沖縄県土地整理法によって、これらの山林が官有とされたが、明治39年に地元部落に30年年賦で払い下げられた。一旦、部落所有山林となったが、大正時代から国策として進められた「部落有林野統一事業」により、昭和8年ころ無償で金武村有となった。そのとき村と区の統一条件として、林野の収益を区6村4で配分するほか、部落が従来通り山林を利用するなど、部落が地役的入会権を留保することになった。入会権は、民法において共有の性質を有する入会権(294条)と地役権の性質を有する入会権(263条)が規定されているが、相違は、土地の所有権が入会集団に帰属するか否かであり、土地の用益内容については違いはない。権利内容は基本的に「地方の慣習に従う」とされている。入会権は、部落に基礎を置く入会集団の統制のもとに一定の土地を共同で管理し利用する権利である。入会集団が土地所有権を有しない場合が地役権的入会権である。入会地の利用方法は、入会集団の決定によって定まる。入会集団の統制の元に共同で利用したり、その決定によって、構成員が分割して利用したりすることもある。また、第三者に賃貸して収益を得ることもあり、また利用を行わずに保全を行うことも含まれる。入会権者の範囲は慣習によって定まるが、本件部落民会は、会則で女子孫排除原則を定めている。このような慣習が存在したのか、あるいは存在したとしても公序良俗に反する慣習であって無効であるということが法律上の争点である。第1審では、入会慣習に触れることなく会則が男女差別を行っていることから公序良俗違反として原告女子孫の請求を認めたが、第2審では、女子孫を排除する慣習が存在し慣習を尊重するとして原告が敗訴し、原告女子孫側が上告した。会則が定める資格基準は、沖縄の門中集団に見られる祭祀継承の慣行であるトートーメー継承の禁忌に基づいている。しかし、ある世帯が部落の構成員として認められるか、すなわち入会集団権者資格に関わる慣習とは次元が異なる問題である。本件は、入会権慣習とは関係の無いトートーメー慣行が軍用地料配分をめぐって再編されて利用されたことから生じたのであり、沖縄社会に根深くある女性差別と新たな社会問題である軍用地料問題が、複合して現れている問題である。不労所得である軍用地料が勤労意欲の低下を引き起こしたり、地域の中で不公平感を生じさせたりするなどの地域問題を引き起こしている。本件訴訟の原告女性らが提起した問題は、巨額の軍用地料の配分のあり方や米軍用地からの開放された後の利用の仕方という長期的な展望に立って、地域資源の管理のあり方を考えなければならないことを明らかにした。
著者
小川 竹一 おがわ たけかず Ogawa Takekazu 沖縄大学地域研究所特別研究員・愛媛大学名誉教授
出版者
沖縄大学地域研究所
雑誌
地域研究 = Regional Studies (ISSN:18812082)
巻号頁・発行日
no.22, pp.21-37, 2018-10

沖縄県読谷村の集落(字)は、強い共同性を有し、高い自治能力を有している。沖縄戦と米軍統治下の基地接収により、集落の壊滅の危機に面した。各集落は、僅かに返還された土地で、集落の再建を行っていった。この集落の再建を可能にしたのは、歴史的に形成されてきた集落の共同性である。集落領域の土地は、集落の共同資源(コモンズ)として存在してきた。さらに、米軍から解放された土地を分け合って集落を再建したこと、村と集落とが、土地の返還を求めて団結してきた。基地接収された土地を回復されるべきコモンズとして認識してきた。また、集落が得る高額の軍用地料が住民の行事、福利に用いられていることも、コモンズの側面として捉えられる。米軍から返還され、国から払下げをうけ村有地となった読谷補助飛行場跡地の利用は、関係集落ごとに作られた農業生産法人が利用主体となった上で、法人の所有権取得が計画されている。この事業が集落再生の萌芽となるのかを検討する。
著者
小川 竹一
出版者
早稲田大学法学会
雑誌
早稲田法学会誌 (ISSN:05111951)
巻号頁・発行日
no.37, pp.p1-27, 1987