著者
辛 英範 小川 紹文 片山 平
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.56-62, 1978-03-01

近年,耐病虫性など野生種のもつ有用な遺伝子を栽培植物に導入することを目的とした新しい育種技術の確立が試みられ,すでに実用品種の育成に成功した例もある。野生イネのもつ有用遺伝子を栽培イネに導入する試みは,これからのイネ育種を進める1方法として,充分考慮されるべき問題の1つである。本報告は異種染色体添加型植物を作出するための基礎として,まず栽培イネの人為同質4倍体を育成し,これに近縁野生2倍程を交雑して,えられた異質3倍体sativa(AA)-puncta(B),sativa(AA)-intermediate(C)およびsativa(AA)-officinalis(C)について行った細胞遺伝学的・形態学的研究の結果をまとめたものである。体細胞で2n=36の染色体が数えられ,いずれの個体も明らかに人質3倍体であることを確認した。減数分裂は,PF_126を除いて,各個体間で大体類似しており,MIでは大部分の細胞で12II+12Iを示す分裂像が,また,AIでは1価染色体による分裂異常が観察された。一方,PF_126はMIで1II+34Iまたは36Iを示し,明らかに相同染色体間の不対合現象が観察され,以後の分裂に種々の異常が認められた。この染色体不対合がasynapsisであるかdesynapsisであるかは不明であるが,供試した同質4倍体の細胞質とO.officinalis(W1281)の核との何れか一方,または両者に不対合を誘起する遺伝的要因がある可能性が考えられ,その解明は今後の検討に期待したい。
著者
松尾 光弘 坂本 美代 高砂 志織 本間 秀一朗 寺尾 寛行 小川 紹文
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.77-85, 2009 (Released:2009-07-08)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

ツユクサ科の一年生雑草であるマルバツユクサは,地上部および地下部にそれぞれ大きさの異なる大小2種類の種子を形成する。本研究では,南九州に発生した個体におけるそれら4種類の種子の発芽,出芽,生育およびそれらの種子から発生した個体の種子生産を比較した。  地上部あるいは地下部に形成された大型種子の発芽率は25°C∼40°Cで85%以上であり,発芽に要する平均日数は30°C∼40°Cで3日∼4日以内であった。また,斉一発芽係数は30°C∼35°Cで0.7∼1.1と最も大きな値を示した。小型種子の場合,地上部および地下部ともに発芽率は30°C∼35°Cで90%以上となり,発芽に要する平均日数は30°Cで約8日,35°C∼40°Cで約5日となって,大型種子よりも長くなる傾向にあった。また,小型種子の斉一発芽係数は35°Cで0.2∼0.5と最も大きな値となったが,数値は大型種子の半分以下であった。4種類の種子を自然条件下に播種した場合,地上部あるいは地下部に形成された大型種子から発生した個体の多くが3月∼5月に出芽したのに対して,小型種子の多くは4月∼9月に断続的に出芽した。また,それらの出芽深度は大型種子で0mm∼50mm,小型種子で0mm∼10mmであり,小型種子よりも大型種子由来の個体が土壌の深い場所から出芽した。完全展開した第1葉の葉長葉幅比は,いずれの種子から発生した個体においても約1.45であったが,葉幅は地下部大型種子>地上部大型種子>地下部小型種子>地上部小型種子由来の個体の順に有意に異なっていた。それぞれの種子から発生した個体の地上部における草丈,一次分枝数,葉数および生体重は同様の傾向に推移し,また地上部および地下部に形成された花序数あるいは大小の種子数についても,種子の形成位置と大きさによる有意差は認められなかった。以上の結果から,マルバツユクサに形成される4種類の種子,すなわち地上部あるいは地下部に形成された大型あるいは小型種子について,最適発芽温度,平均発芽日数,斉一発芽係数,出芽深度および出芽パターンは種子の大きさによって,また完全展開した第1葉の形態は種子の形成位置と大きさによって異なることが分かった。しかし,それら種子から発生した個体の生育,後の花芽形成あるいは種子生産については種子間に差異が認められなかった。
著者
小川 紹文 山元 剛 KHUSH Gurdev S. 苗 東花
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学雑誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.523-529, 1991-09-01
被引用文献数
5

イネ白葉枯病抵抗性に関する研究は主に日本と国際稲研究所(IRRI),フィリピンで行われてきたが,植物防疫上病菌の相互交換が行えなかったため,両国のみならず各国のイネ白菜枯病抵抗性に関する研究結果は相互に比較検討出来なかった.このため,日本農林水産省とIRRIはイネ白菜枯病抵抗性に関する研究の相互比較を行うと共にその共通基盤を作成するため,1982年に共同研究を開始した.すなわち,日本とIRRIの判別品種をフィリピン産及び日本産白菜枯病菌レースを用いて分析し,抵抗性遺伝子を一つずつもつ準同質遺伝子系統の育成をして,イネ白菜枯病菌レースの国際判別品種を確立することとした.その結果,1987年に準同質遺伝子系統の一組が育成され(OGAWA et al.1988),最近その準同質遺伝子系統を供試した研究結果も公表され始めた.このため,その準同質遺伝子系統の育成経過とその育成主体を明らかにするため本報告を行った.
著者
西村 実 梶 亮太 小川 紹文
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.17-22, 2000-03-01
被引用文献数
5

本研究は日本国内の多数の水稲新旧品種を用いて普通期栽培に加えて早期栽培を行うことにより高温環境を設定し, それによって登熟期の高温が玄米の品質に及ぼす影響の品種間差異について検討したものである.良質米率および千粒重はほとんどの品種において早期栽培(高温区)で普通期栽培(対照区)より低い値を示した.良質米率の低下要因の多くは乳白米, 背白米および基白米の多発であった.北陸地域で近年育成された品種のほとんどは, 早期の高温環境においても良質米率が低下しにくい傾向にあることが明らかとなった.これらの品種はコシヒカリ, 越路早生, フクヒカリ, フクホナミ, ゆきの精等であり, いずれもコシヒカリと類縁関係にあるものであった.これは北陸地域における品種の登熟期が7月後半から8月前半の高温期にあたり, その中で品種育成が行われ, 必然的に玄米品質に関して高温耐性の高い遺伝子型が選抜されてきたことによるものと考えられた.旧品種および北陸以外の地域で育成された新品種では, 高温環境で玄米品質が劣化し易いものと劣化し難いものが混在していた.以上のように, 出穂後の高温によって玄米品質が低下する傾向にあり, また, 玄米品質の高温ストレス耐性は, 遺伝的制御を受けているとみられ, コシヒカリの近縁品種で高いことが明らかとなった.