- 著者
-
二宮 洸三
- 出版者
- 公益社団法人 日本気象学会
- 雑誌
- 天気 (ISSN:05460921)
- 巻号頁・発行日
- vol.67, no.6, pp.331-342, 2020 (Released:2020-07-31)
- 参考文献数
- 13
梅雨前線帯における中規模現象と総観規模場の関係を明らかにするため,1982年7月の日本近傍の梅雨前線低気圧とそれに伴う雲・降水システムを観測データに基づいて調べた. 梅雨前線帯北側(〜43°N)の500hPa気温変化は大きく,7月中旬の低温・強い傾圧性の期間に顕著な500hPa面トラフが日本を通過し,これに伴って幾つかの梅雨前線帯低気圧が発達した.なお,低温期間後の23-24日には九州に記録的な大雨が発現した.顕著な2-3日周期の雲・降水システムの変動は7月5-20日の期間に見られた.500hPa面トラフの通過に伴って梅雨前線帯の湿潤スタティックエネルギーの南北傾度,成層安定度が変化し,梅雨前線低気圧の状況も変化した.主要な850hPa面トラフは500hPa面トラフに伴って発現したが,17日の850hPa面トラフは500hPa面トラフに伴わなわなかった.多くの梅雨前線低気圧,雲・降水システムは850hPa面トラフに伴って発現したが,23-24日の北九州豪雨をもたらした低気圧は顕著な500hPa面トラフに付随していないことが分かった. 本事例に見られた様相が,梅雨期の共通的様相なのか,この期間特有の状況なのかを他期間の先行報告と比較して調べた.大規模場の様相は他期間にも共通して見られるが,その状況は期間により異なり,大規模場の差異が梅雨前線における差異をもたらしていることが明らかになった.「トラフ—梅雨前線低気圧—雲・降水システムからなる多種スケール階層構造」は共通して見られるが,雲・降水システムの様相については事例間の差異が大きい.