著者
小林 博志
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.61-85, 2021-02-15 (Released:2022-03-10)
参考文献数
21

本稿では、農協婦人部の機関誌的存在である雑誌『家の光』を通し、第一次ベビーブームの親世代に着目して、高度経済成長期の農村社会における学歴アスピレーションの高まりについて考察する。一九五〇年代からの生活改善運動の展開と、一九六〇年代のテレビ普及を背景に、家族計画を一つの契機として教育への関心が高められ、その関心は子どもの成長と共に学歴取得へと向けられる。兼業化の加速による農外収入の増加と、テレビ普及による近代家族的価値観の浸透によって、工業製品の普及だけでなく、高卒という学歴も都市と同様に取得され、農村の都市化が進展する。これにより、消費財という「モノ」だけでなく、学歴という「経歴」も一般化していく。それは、都市と農村が共有しうる、「人並み」という生活水準意識の一端が形成されていく過程でもある。
著者
小林 博志
出版者
早稲田大学法学会
雑誌
早稲田法学会誌 (ISSN:05111951)
巻号頁・発行日
no.31, pp.p129-159, 1980
著者
小林 博志
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.57, 2018-08-30 (Released:2019-11-08)
参考文献数
5

本稿では,農協婦人部の機関誌的存在である雑誌『家の光』を通して,農村女性におけるモータリゼーションの展開を考察する.この展開は,1950年代後半から普及が進むテーラーの導入を契機に,稲作の機械化を背景として1970年代中頃から普及が進む軽トラックの導入により促進される.結果として生じる生活圏の広域化が家庭内に交通格差をもたらし,その相対的優位者となった嫁は,減反を背景とする家庭内分業の再編において姑からの干渉を減少させていく.農機具として導入されたテーラーは,生活の移動手段となり,軽トラックは移動手段の枠を超えて,私的空間の形成装置となることで,都市と農村が共有しうる近代家族的価値観を具現化する装置として機能する.これは,人と「モノ」との相互作用による「人並み」という生活水準意識の形成を意味するものである.
著者
小林 博志
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.123-146, 2018-12-28 (Released:2021-11-24)
参考文献数
11

本稿は、農協婦人部の機関誌的存在であった雑誌『家の光』を通して、農村での家事テクノロジーシステムの成立について考察する。家事テクノロジーシステムとは、工業製品で構成された家事労働のための道具集団を意味する。水道普及率の低さから農村に残存した「水汲み」という家事労働では、戦前からの農事電化を背景に普及した配電システムを前提に、一九五〇年代中頃から導入された電動ポンプが、新たな給水システムを成立させる。この成立を前提に一九六〇年代初めから普及が加速する洗濯機の導入により、新たな洗濯システムが成立する。既存のシステムを前提とした「モノ」の導入が新たなシステムを成立させることで、次の「モノ」の導入を促す。このシステム成立の連鎖により「モノ」が普及していく。規格化された工業製品が、都市と同様に農村にも普及することで、双方の生活者の中に「世間の標準」という共通の生活意識が形成される。それは、都市と農村が共有しうる「人並み」という生活水準意識の形成であり、今日の格差問題を「問題」として認識する原型となる。
著者
小林 博志
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.157-180, 2017-02-28 (Released:2021-12-18)
参考文献数
11

本稿では、高度経済成長期における農家の嫁の意識変化を、JAの家庭総合誌『家の光』から考察する。高度経済成長期には、営農の機械化・施設化による営農経費の増大と都市化による生活費の増大が、農村の消費社会化を進行させ、これにより兼業化が加速する。夫の兼業により、営農の中心的役割を嫁が担うことで営農での地位改善がなされ、農協婦人部と結びついた生活改善運動の展開を背景に、営農での地位改善は家庭生活での地位改善へと連動する。結果として、消費と教育への関心を高める。これは、嫁の意識が近代家族的価値観へと変化した表れである。テレビ普及というメディア環境の変化が、この意識変化を加速させ、テレビが示す「人並み」のモデルを追い求めることで、農村の平準化が進行する。そして、この変化を促す要因の一つが、農村に存在した旧来の気質である。農村の社会的弱者であった嫁の地位改善とそれに伴う意識変化は、近代化の浸透が農村の家庭レベルにまで及ぶことを意味し、このことが本稿を通して明らかとなる。