著者
藤平 保茂 古井 透 岡 健司 小枩 武陛 酒井 桂太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】大学生を対象とした豊田(2012)の研究では,「自分に対して要求される援助的指導や友好的指導に対し,相手の性に対する好意帰属には性差がある」としている。ところで,臨床実習(以下,実習)における学生への効果的な教育には,Active learning(能動的学習)習慣を引き出すことが推奨されている。しかし,実際の実習場面では,常に臨床実習指導者(以下,SV)から援助的指導や友好的指導を受ける場面ばかりではない。むしろ叱責されることも少なくないだろう。指導の受け止め方次第では不安感が学生の自主的な取り組みを阻害し,実習をさらに辛いものにすることもあるだろう。われわれ教員の願いは,学生が「実習は辛いかもしれないが実りのある楽しいもの」と感じてくれていることだが,SVとの性差が学生の心理状況に影響があるとすれば,実習指導時に配慮する必要があるだろう。そこで,本研究では,学生とSVとの性差関係における同性,異性の観点から,実習に対する学生の心理状況を調査・分析し,その特徴を比較することを目的とする。【方法】対象は,平成24~26年度に8週間実習を終えた大阪河﨑リハビリテーション大学(以下,本学)理学療法学専攻の204名の学生(男子144名,女子60名)であった。調査には,筆者らの臨床教育経験から予想される項目を選び本研究用に作成した調査票を用いた。属性は,学生自身の性,SVの性を問うた。質問は7項目(不安感,緊張感,辛さ,楽しさ,やり甲斐,SVへの苦手意識,我慢(とにかく我慢しなければと言いきかせた))で,「非常によくあてはまる:7」から「全くあてはまらない:1」までの7件法で評定させた。調査は,実習終了後の第一登校日に実施した。分析は,学生の性(男,女)とSVの性(男,女)の組合せにて4群に分類し,Spearmanの順位相関検定にて,質問項目間の相関関係をみた。なお,有意水準を5%未満とした。【結果】4群間の比較では,同性同士の2群に共通する相関関係では,不安感と楽しさ・やり甲斐間,辛さと楽しさ・やり甲斐間,楽しさと我慢間の関係にそれぞれ有意な負の相関(r=-0.30~-0.40)が認められた。しかし,これらの関係は異性間の2群では一切認められなかった。一方,同性間で有意な相関関係が認められたにも関わらず,女子学生と男性SV群では,不安感・辛さと苦手意識の関係,やり甲斐・苦手意識と我慢間での関係が認められず,男子学生と女性SV群において,やり甲斐と苦手意識間での有意な関係が認められなかった。【考察】学生の心理状況には,学生の性とSVの性の組合せによって相違が生じることが示唆された。つまり,男性同士,女性同士の組合せでは,不安感・辛さが強いと楽しさ・やり甲斐が低く,楽しさが高いと我慢する気持ちが低くなった。一方,男性SVと女子学生の組合せでは,不安感が強いと苦手意識が強いこと,辛さが強いと苦手意識が強いこと,やり甲斐が高いととにかく我慢する気持ちが低いこと,苦手意識が強いと我慢する気持ちが強いことが,それぞれ認められなかった。また,女性SVと男子学生の組合せでは,やり甲斐が高いと苦手意識が低いことはなかった。豊田(2012)は,「男子では,自分が援助的行動を要求された場合,同性よりも異性に対してより快な感情が生じ,女子では,自分に対して友好的行動を要求してきた場合,異性より同性に対してより快な感情が喚起される」と報告した。すなわち,例えば,担当学生が失敗を繰り返したならば,性を問わずSVはその学生への感情評定を下げるが,男性SVの場合は男子学生より女子学生に対しより援助的となり,女性SVの場合は男子学生より女子学生に対し非好意な感情を強めたと考えられる。そして,このようなSVから感じ取れる学生の思いが,異性よりも同性のSVにより強く持たれ,不安感や辛さをより強め,楽しくない実習,とにかく我慢しなければいけない実習と感じたのではないだろうか。しかし,男性SVに対し女子学生が苦手意識を高めながらも我慢しなくてはならないと感じなかったのは,男性SVが女子学生を快く指導できることが彼女らの自尊感情を高めることに繋がったからではないかと考えられる。一方,女性SVに対し男子学生がやり甲斐が高まるにも関わらず苦手意識が下がらなかったのは,男子学生の女性SVに対する非友好的感情がSVの快な感情を下げることに繋がったからかも知れない。【理学療法学研究としての意義】学生とSVとの性差に視点をおいた今回の研究は,学生の能動的な学習習慣を引き出す手がかりになり得る研究と考える。
著者
藤平 保茂 富樫 誠二 藤野 文崇 久利 彩子 小枩 武陛 村西 壽祥 岸本 眞 古井 透 酒井 桂太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.GbPI2458, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】臨床実習は、理学療法士(以下、PT)を目指す学生にとって臨床での理学療法を経験できる重要な学外授業であり、 810時間以上(18単位)を受けなければならない必須科目である。臨床実習に臨む学生(以下、実習生)は、臨床実習指導者(以下、指導者)の指導のもと、さまざまな経験を通して成長していく。その中で、実習生が、指導者から「積極性がない」との指摘を受けることがある。これは、臨床実習評価において、しばしば問題視される点である。しかし、実習生の積極性に対する先行研究では、「積極性とは、自ら進んで物事を行う性質」という概念は一致されているものの、実習生の積極的な行動とはどのような行動であるのかを具体的に示した研究は、我々が文献検索した限りでは見当たらなかった。筆者らは、第50回近畿理学療法学術大会にて、指導者が抱く実習生への「積極性がある」因子を報告した。今回の研究目的は、理学療法臨床実習評価において、指導者が抱く「積極性がない」因子とは何かを調査し、検討することである。【方法】<調査表>独自に作成した調査票で、質問内容は、「臨床実習において、『積極性がない実習生』とはどのような学生であるか」であった。自由記載にて回答を求めた。<対象>本学の臨床実習受け入れ施設に勤務する127名のPTであった。そのうち、指導者経験のある臨床経験2年目以上の90名(男性67名、女性23名、平均臨床経験年数9.7年)の調査表を分析の対象とした。<分析方法>得られた回答をキーワードにて細分化し、KJ法を用いてカテゴリーに分類した。 【説明と同意】本研究は、大阪河﨑リハビリテーション大学倫理委員会規則に従うもので、調査にあたっては、対象者に本研究の主旨を説明し、同意を得た。 【結果】細分化したキーワードは、181語であった。これらをカテゴリー別に分類し、さらに社団法人理学療法士協会による「臨床実習教育の手引き」第4・5版を参考に技術教育から生じる行動での分類を行ったところ、態度面を行動目標とする情意領域と、知識、問題解決面を行動目標とする認知領域にあることがわかった。情意領域に属するキーワードは129語で、全体の71.3%を占めた。これらを構成するカテゴリーには、「行動できない・しない」(35語、全体の19.3%)、「目的意識・意欲がない」(32語、17.7%)、「疑問を持たない・考えない」(20語、11.0%)、「質問しない」(17語、9.4%)、「コミュニケーションがとれない」(14語、7.7%)、「反応がない・乏しい」(7語、3.9%)、「その他」(4語、2.2%)があった。また認知領域に属するキーワードは52語で、全体の28.7%であった。これらを構成するカテゴリーには、「意見を言わない」(20語、11.0%)、「課題が遂行できない」(18語、9.9%)、「自主学習しない」(12語、6.6%)、「自己評価(分析)しない」(2語、1.1%)があった。【考察】PTは、対象者としっかりコミュニケーションをとり、十分な関心と責任を持って理学療法業務に取り組むことが必要不可欠かつ重要であることを認識している。そのため指導者は、実習生に対し、実習への目的意識や意欲・関心が低い、実習を受ける態度が悪い、問いかけに対する反応が悪い、対象者や関係スタッフ以外の方と関わらない、わからないことがあっても質問しない、自分の意見を述べない、自分の考えを基に行動できなく指導者からの指示待ち行動をとる、課題ができないことが、「積極性がない」行動と捉えているものと考えられる。今回の調査にて、指導者は、「積極性がない」とは情意領域に問題があること、つまり、実習への取り組み姿勢や態度が良くないことを重大な因子と捉えていることが明確となった。知識や問題解決能力を身につけることは当然重要であるが、実習生が臨床実習に入る前に十分な心構えが出来ているか、理学療法の専門性を理解したうえでどれだけ自ら進んで対象者のために考え行動するのか、といった実習態度への関心の高さを裏付けている結果となった。養成校の教員は、臨床実習において学生指導が円滑になされるよう、学生への学内教育を強化しなければならない。【理学療法学研究としての意義】臨床実習指導者が抱く実習生の積極性について、実習生の積極的な行動とはどのような行動であるのか、その具体的な行動因子を確認することができた。今回の結果は、臨床実習における学生指導において、積極性を評価する上で参考になるものと考える。さらに、臨床実習における客観的に積極性を測定するための積極性評価尺度の作成を試みようと考えているが、その基盤となる意義のある研究である。
著者
細井 匠 小枩 武陛 石橋 雄介
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11679, (Released:2020-05-27)
参考文献数
56

【目的】我が国の統合失調症患者に対する運動介入の効果に関して,身体機能の向上,精神症状の改善,ADL の向上,これら3 点についてこれまでの知見を検証すること。【方法】4 種類の電子データベースを用いて,2017 年までの全年代を対象に複数の検索式で検索した。検索結果を統合し,2 回のスクリーニングを実施して採択文献を決定した。【結果】38 編が対象となり,身体機能の向上について記述した30 編,精神症状の改善について記述した24 編,ADL の改善について記述した9 編の内容を検討した。【結論】対応の工夫や精神科治療と併用する必要はあるが,運動介入は統合失調症患者の身体機能の向上,精神症状の改善,ADL の向上に寄与し得ることが示唆された。