著者
藤平 保茂 富樫 誠二 藤野 文崇 久利 彩子 小枩 武陛 村西 壽祥 岸本 眞 古井 透 酒井 桂太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.GbPI2458, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】臨床実習は、理学療法士(以下、PT)を目指す学生にとって臨床での理学療法を経験できる重要な学外授業であり、 810時間以上(18単位)を受けなければならない必須科目である。臨床実習に臨む学生(以下、実習生)は、臨床実習指導者(以下、指導者)の指導のもと、さまざまな経験を通して成長していく。その中で、実習生が、指導者から「積極性がない」との指摘を受けることがある。これは、臨床実習評価において、しばしば問題視される点である。しかし、実習生の積極性に対する先行研究では、「積極性とは、自ら進んで物事を行う性質」という概念は一致されているものの、実習生の積極的な行動とはどのような行動であるのかを具体的に示した研究は、我々が文献検索した限りでは見当たらなかった。筆者らは、第50回近畿理学療法学術大会にて、指導者が抱く実習生への「積極性がある」因子を報告した。今回の研究目的は、理学療法臨床実習評価において、指導者が抱く「積極性がない」因子とは何かを調査し、検討することである。【方法】<調査表>独自に作成した調査票で、質問内容は、「臨床実習において、『積極性がない実習生』とはどのような学生であるか」であった。自由記載にて回答を求めた。<対象>本学の臨床実習受け入れ施設に勤務する127名のPTであった。そのうち、指導者経験のある臨床経験2年目以上の90名(男性67名、女性23名、平均臨床経験年数9.7年)の調査表を分析の対象とした。<分析方法>得られた回答をキーワードにて細分化し、KJ法を用いてカテゴリーに分類した。 【説明と同意】本研究は、大阪河﨑リハビリテーション大学倫理委員会規則に従うもので、調査にあたっては、対象者に本研究の主旨を説明し、同意を得た。 【結果】細分化したキーワードは、181語であった。これらをカテゴリー別に分類し、さらに社団法人理学療法士協会による「臨床実習教育の手引き」第4・5版を参考に技術教育から生じる行動での分類を行ったところ、態度面を行動目標とする情意領域と、知識、問題解決面を行動目標とする認知領域にあることがわかった。情意領域に属するキーワードは129語で、全体の71.3%を占めた。これらを構成するカテゴリーには、「行動できない・しない」(35語、全体の19.3%)、「目的意識・意欲がない」(32語、17.7%)、「疑問を持たない・考えない」(20語、11.0%)、「質問しない」(17語、9.4%)、「コミュニケーションがとれない」(14語、7.7%)、「反応がない・乏しい」(7語、3.9%)、「その他」(4語、2.2%)があった。また認知領域に属するキーワードは52語で、全体の28.7%であった。これらを構成するカテゴリーには、「意見を言わない」(20語、11.0%)、「課題が遂行できない」(18語、9.9%)、「自主学習しない」(12語、6.6%)、「自己評価(分析)しない」(2語、1.1%)があった。【考察】PTは、対象者としっかりコミュニケーションをとり、十分な関心と責任を持って理学療法業務に取り組むことが必要不可欠かつ重要であることを認識している。そのため指導者は、実習生に対し、実習への目的意識や意欲・関心が低い、実習を受ける態度が悪い、問いかけに対する反応が悪い、対象者や関係スタッフ以外の方と関わらない、わからないことがあっても質問しない、自分の意見を述べない、自分の考えを基に行動できなく指導者からの指示待ち行動をとる、課題ができないことが、「積極性がない」行動と捉えているものと考えられる。今回の調査にて、指導者は、「積極性がない」とは情意領域に問題があること、つまり、実習への取り組み姿勢や態度が良くないことを重大な因子と捉えていることが明確となった。知識や問題解決能力を身につけることは当然重要であるが、実習生が臨床実習に入る前に十分な心構えが出来ているか、理学療法の専門性を理解したうえでどれだけ自ら進んで対象者のために考え行動するのか、といった実習態度への関心の高さを裏付けている結果となった。養成校の教員は、臨床実習において学生指導が円滑になされるよう、学生への学内教育を強化しなければならない。【理学療法学研究としての意義】臨床実習指導者が抱く実習生の積極性について、実習生の積極的な行動とはどのような行動であるのか、その具体的な行動因子を確認することができた。今回の結果は、臨床実習における学生指導において、積極性を評価する上で参考になるものと考える。さらに、臨床実習における客観的に積極性を測定するための積極性評価尺度の作成を試みようと考えているが、その基盤となる意義のある研究である。
著者
久利 彩子 勝山 隆 臼井 永男 吉田 正樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3011, 2009

【目的】<BR>立位姿勢で床面に接地しない状態の足趾を「浮き趾」と言う.近年,幼児における「浮き趾」の激増や健常成人における「浮き趾」の実態が報告されている.しかし,姿勢の変化や姿勢保持中の経時的な状況において「浮き趾」の床面接地が変化するか否かについて報告は少ない.本研究では,「浮き趾」の足趾が,両足・片脚立位姿勢保持中に,接地状態が変化するか否か明らかにすることを目的に,調査を行った.<BR><BR>【対象者と方法】<BR>対象者は,同意の得られた「浮き趾」のある健常成人9名中「浮き趾」が確認できた14足で,平均年齢28.9±7.7歳(男性5名,女性4名)であった.「浮き趾」有無の評価は,厚さ15mmのアクリル板の上で対象者の両足部を肩幅として前方直視で裸足にて立位保持させ,足底面画像をスキャナー(Canon社製CanoScanD1250U2F)を用いてパソコンに取り込んだ後,足底面の状況を視覚的に観察し確認を行った.さらに,両足部を肩幅として前方直視で裸足にて立位保持させた対象者の足趾と足底接地させたアクリル板との間に,市販の付箋紙1枚を抵抗なく差し込めるか否かで,「浮き趾」有無を再確認した.「浮き趾」の経時的な床面接地状況の測定肢位は,30秒間の開眼閉足両足立位および開眼片脚立位とした.両足立位の測定姿勢は,日本めまい平衡医学会の定めた方法とした.片脚立位の測定姿勢は,東京都立大学体力標準値研究会『新・日本人の体力標準値2000』による指標に基づいた.「浮き趾」の経時的な床面接地状況を確認するため,「浮き趾」が床面に接地するとスイッチが入り,LEDが発光する装置を自作した.様子を撮影した動画を30フレーム/秒ごとに確認し,LEDが発光した全フレーム数を時間に変換し,測定結果を得た.統計処理は,ウィルコクソン符号付順位和検定を用いた.<BR><BR>【結果】<BR>「浮き趾」が30秒間の姿勢保持で接地する時間の第1,第2,第3四分位数はそれぞれ,両足立位で0.0秒,4.2秒,23.8秒,片脚立位で5.6秒,26.2秒,27.7秒であった.片脚・両足立位とも,「浮き趾」の床面接地は経時的に変化していた.片脚立位と両足立位では「浮き趾」の接地時間に有意差が認められた(p<0.01).<BR><BR>【考察】<BR>立位姿勢を保持させ,「浮き趾」の経時的な床面接地状況を調査したところ,片脚立位姿勢保持では,閉足両足立位姿勢保持に比べて「浮き趾」の接地が増大していた.このことは,姿勢保持の難易度と「浮き趾」の接地状況に関係があることを意味すると考えられる.また,閉足両足立位において「浮き趾」の経時的床面接地の中央値は4.2秒であった.「浮き趾」有無の判定は,肩幅に足部を開いた両足立位で行っている.足底が肩幅に開いた立位姿勢と閉足立位の姿勢の違いが,「浮き趾」の経時的な接地に影響を及ぼすのではないかと考えられる.