著者
山谷 立大 小泉 寛之 樫見 文枝 近藤 竜史 竹内 一郎 隈部 俊宏 浅利 靖
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.12, pp.892-896, 2014-12-15 (Released:2015-03-12)
参考文献数
14

顔面外傷は気道閉塞や出血性ショックなど,時に緊急度の高い病態を引き起こす。我々は顔面外傷による気道閉塞に対してドクターカーの出動により迅速かつ適切な気道確保を行い,出血性ショックに対して迅速かつ有効な血管内治療により救命した重症顔面外傷の1例を経験したので報告する。症例は53歳の女性。自動車で走行中, 路肩に停車していたトラックに後方から衝突し受傷した。トラック運転手により救急要請,高エネルギー外傷および気道閉塞の可能性があり同時に救急隊よりドクターカー要請となった。救急隊現着時意識レベルGlasgow coma scale(GCS)7[E1V1M5],SpO2 76%,血圧96/71mmHgであった。鼻腔および口腔内からの大量出血による気道閉塞に対し直ちにAirwayscope®を使用し気管挿管を行い, 出血性ショックに対し急速輸液開始し当院救命救急センターに搬送した。病着時には収縮期血圧60mmHgまで低下し輸血の急速投与を行った。頭部CT検査で多発顔面骨骨折, 外傷性クモ膜下出血, 急性硬膜下血腫,気脳症,頭蓋底骨折を認めた。体幹部CT検査で肺挫傷,気胸を認めたが出血性ショックの原因となる所見は存在しなかった。鼻腔および口腔内からの出血が持続していることから,原因として外頸動脈系からの出血を疑い血管造影検査を施行した。左顎動脈からの血管外漏出像を認めたため緊急に経カテーテル動脈塞栓術を施行,直後から血圧が上昇し循環動態の安定を得ることができた。
著者
小泉 寛之 北原 孝雄 北村 律 中原 邦晶 今野 慎吾 相馬 一亥 隈部 俊宏
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.63-68, 2014-02-15 (Released:2014-06-10)
参考文献数
16

補助人工心臓(ventricular assist device: VAD)は,末期心不全症例に対して心臓移植までの橋渡しとして臨床的に有用であることが知られている。我々はVAD装着中に脳出血を合併した1例を経験したので,その管理と問題点について報告する。症例は41歳の女性。当院循環器内科で拡張型心筋症と診断され,内科的治療を受けるも心不全の増悪を認めたため,心臓移植までの橋渡しとして心臓血管外科にて体外型両心VAD装着が行われた。装着から約3か月後,嘔吐,軽度意識障害を認めた。頭部CTを施行したところ,左前頭葉皮質下出血を認めた。当院のVAD 患者の脳出血時のプロトコールに従い,ビタミンK10mgを静注し,新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma: FFP)5U,遺伝子組換え血液凝固第IX因子製剤(ノナコグアルファ)1,000IUを投与してプロトロンビン時間(PT)の国際標準比(international normalized ratio: INR)の正常化を行った。 しかし意識障害の悪化と右片麻痺を認めたため,緊急開頭血腫除去術および外減圧術を施行した。術後創部出血,頭蓋形成時の硬膜外血腫を合併したが,神経学的脱落症状は改善(modified Rankin Scale 0)し,心臓移植待機となった。本邦ではVAD症例は増加傾向にあり,それに伴うVAD装着中の脳出血も増加することが予想される。そのため脳神経外科医もVAD治療やそれに関する諸問題について正確な知識を持ち,脳血管イベント発生時には治療および患者家族への対応など関連科と協力して速やかに応じられる体制作りが求められる。