著者
小泉 寛之 北原 孝雄 北村 律 中原 邦晶 今野 慎吾 相馬 一亥 隈部 俊宏
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.63-68, 2014-02-15 (Released:2014-06-10)
参考文献数
16

補助人工心臓(ventricular assist device: VAD)は,末期心不全症例に対して心臓移植までの橋渡しとして臨床的に有用であることが知られている。我々はVAD装着中に脳出血を合併した1例を経験したので,その管理と問題点について報告する。症例は41歳の女性。当院循環器内科で拡張型心筋症と診断され,内科的治療を受けるも心不全の増悪を認めたため,心臓移植までの橋渡しとして心臓血管外科にて体外型両心VAD装着が行われた。装着から約3か月後,嘔吐,軽度意識障害を認めた。頭部CTを施行したところ,左前頭葉皮質下出血を認めた。当院のVAD 患者の脳出血時のプロトコールに従い,ビタミンK10mgを静注し,新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma: FFP)5U,遺伝子組換え血液凝固第IX因子製剤(ノナコグアルファ)1,000IUを投与してプロトロンビン時間(PT)の国際標準比(international normalized ratio: INR)の正常化を行った。 しかし意識障害の悪化と右片麻痺を認めたため,緊急開頭血腫除去術および外減圧術を施行した。術後創部出血,頭蓋形成時の硬膜外血腫を合併したが,神経学的脱落症状は改善(modified Rankin Scale 0)し,心臓移植待機となった。本邦ではVAD症例は増加傾向にあり,それに伴うVAD装着中の脳出血も増加することが予想される。そのため脳神経外科医もVAD治療やそれに関する諸問題について正確な知識を持ち,脳血管イベント発生時には治療および患者家族への対応など関連科と協力して速やかに応じられる体制作りが求められる。
著者
石川 尚子 庭野 慎一 今木 隆太 竹内 一郎 桐生 典郎 入江 渉 豊岡 照彦 栗原 克由 相馬 一亥 和泉 徹
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.SUPPL.2, pp.S2_97-S2_104, 2011 (Released:2012-12-05)
参考文献数
11

背景と目的: わが国では, 年間10万人を超える院外心肺停止(cardiopulmonary arrest; CPA)患者が報告されているが, その救命率は6.3%程度といまだに低い. CPA症例の救命率を規定する因子を検討するため, 当院における院外CPA患者データを解析し予後予測因子を検討した.方法: 対象は2009年1月1日から2010年6月30日の間に当院3次救命救急センターへ搬送された18歳以上の内因性CPA患者. 1カ月後の予後で生存群, および死亡群の2群に分類し, 虚脱から病着までの経過(プレホスピタル因子)および病着後の所見(インホスピタル因子)を両群間で比較検討した.結果: 観察期間中に789症例のCPA患者が搬送され, 外因死を除く連続581症例(平均年齢71±1歳, 男: 女 352人: 229人)について検討を行った. 各評価項目を多変量解析した結果, 以下の8つの項目が独立予後予測因子として統計学的に有意であった. (1)目撃あり(オッズ比12.8, 95%信頼区間1.6-185.0), (2)バイスタンダーCPR(cardiopulmonary resuscitation)あり(オッズ比10.9, 95%CI 1.9-107.6), (3)初回心電図が脈なし心室頻拍/心室細動(ventricular tachycardia; VT/ventricular fibrillation; VF) (オッズ比12.6, 95%信頼区間2.3-86.0), (4)病着前自己心拍再開あり(オッズ比60.6, 95%信頼区間7.8-524.0), (5)心原性CPA(オッズ比 17.5, 95%信頼区間4.4-119.4), (6)血中pH≥7.0(オッズ比14.5, 95%信頼区間5.1-49.3), (7)血中K+≤5.0mEq/L(オッズ比36.0, 95%信頼区間9.6-235.3), (8)血中CRP≤0.5mg/dL(オッズ比6.6, 95%信頼区間1.9-31.5). これらの8因子を各1点ずつで加算したものを予後予測スコアと定義すると, 生存のためには5点以上を要し, さらに6点以上のスコアは神経学的に良好な予後を得るための優れた指標となった(感度92.3%, 特異度88.8%).結語: 予後予測スコアは, 院外内因性CPA患者の予後予測に有用であり, 救命率向上に役立つ可能性が示唆された.
著者
盛 虹明 増田 卓 北原 孝雄 相馬 一亥 大和田 隆
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.17-22, 1993-02-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
28
被引用文献数
2

肺水腫を伴うクモ膜下出血患者の肺水腫液と血清の膠質浸透圧を測定し,神経原性肺水腫の成因としての肺血管透過性亢進の関与を検討した。発症24時間以内のクモ膜下出血のうち,呼吸管理を必要とした肺水腫8例を対象とし,肺水腫を有しない33症例を非肺水腫群として比較した。肺水腫群はWFNS分類でgrade Vが75%, Fisher分類では全例group 3と4であった。来院時に血圧,脈拍,意識状態,胸部レントゲン写真,動脈血液ガス分析,血漿カテコールアミン濃度を測定した。さらに肺水腫例では,肺水腫液と血清の膠質浸透圧を測定した。来院時肺水腫群では非肺水腫群に比べ収縮期血圧の低下と心拍数の増加を認めた。肺水腫群の心胸郭比は平均48±4%と心拡大は認められなかった。動脈血液ガス所見では,PaO2が非肺水腫群78±16mmHgであるのに対し肺水腫群47±12mmHgと,肺水腫群で著しい低酸素血症を呈していた。血漿ノルアドレナリン,アドレナリン濃度は,肺水腫群でそれぞれ1,800±1,300pg/ml, 1,400±630pg/ml,非肺水腫群740±690pg/ml, 340±400pg/mlであり,非肺水腫群に比べ肺水腫群で有意に高値を示した。肺水腫液の膠質浸透圧は12.4から25.0,平均16.7±4.1mmHgと肺水腫群の全例で高値を示し,血清に対する肺水腫液の膠質浸透圧比は平均0.94と血管透過性亢進を示唆する結果であった。以上により,クモ膜下出血に伴う肺水腫の発生機序のひとつとして肺血管の透過性亢進が示された。
著者
上條 吉人 増田 卓 堤 邦彦 西川 隆 相馬 一亥 大和田 隆
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.7, pp.297-305, 1997-07-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
27

常用量のベンゾジアゼピン系薬剤によって,血中濃度が中毒域となった68歳から72歳の高齢者の3症例を経験した。各症例のベンゾジアゼピン系薬剤の体内薬物動態を分析し,高齢者の薬物動態の特徴と投薬上の問題点について検討した。症例1と症例3は食物誤飲による窒息で搬送され,症例2はうっ血性心不全の治療中に意識障害を生じて入院となった。ベンゾジアゼピン系薬剤として,症例1はロフラゼプ酸エチル(Lof) 2mg錠を1日1回とエチゾラム0.5mg錠を発症前に1回のみ服用,症例2はLof 2mg錠を1日1回,症例3はLof 1mg錠を1日3回服用していた。3症例のベンゾジアゼピン系薬剤の血中濃度は,ガスクロマトグラフィおよびベンゾジアゼピンレセプターアッセイを用いて経時的に測定した。来院時のLofの血中濃度は,症例1は256ng/ml,症例2は363ng/ml,症例3は425ng/ml,血清ベンゾジアゼピン受容体結合活性はジアゼパム当量で,症例1は1,800ng/ml,症例2は1,400ng/ml,症例3は2,200ng/mlであり,いずれも血中濃度は中毒域であった。Lofの消失半減期(T1/2)は,症例1は124時間,症例2は212時間,症例3は121時間であり,症例2においてT1/2の著明な延長を認めた。3症例はいずれも高齢者で,青壮年と比較して肝腎機能の低下から薬物クリアランス(CL)が低下し,症例2では心不全のためCLがより低下していたことが考えられる。さらに,脂肪組織の減量による分布容積(Vd)の減少も加わって,ベンゾジアゼピン系薬剤の血中濃度が上昇したものと思われた。また,多剤の服用は遊離型ベンゾジアゼピン系薬剤の濃度を上昇させるため,中毒症状が出現しやすかったものと考えられる。以上から,高齢者へのベンゾジアゼピン系薬剤の投与に際し,肝腎機能,血清蛋白濃度,体重変動,併用薬剤に注意して,ベンゾジアゼピン中毒を未然に防ぐ必要がある。
著者
相馬 一亥
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.81, no.6, pp.840-845, 1992-06-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
5

気管支喘息の重積発作の死亡率は0~38%と決して低いものではない.臨床症状,理学所見から重症度を的確に判断し,検査として動脈血ガス分析は不可欠である.重積発作の症例は集中治療室,あるいはそれに準じる管理ができる体制が必要である.治療の目標は喘息死の予防,患者の臨床症状を改善し,可及的速やかに肺機能を改善し,そして改善された状態を維持して,再燃を防止することである.そのための的確な気管支拡張薬投与と,人工呼吸管理を中心に述べた.
著者
箸方 紘子 島田 謙 山本 公一 朝隈 禎隆 片岡 祐一 相馬 一亥
出版者
Japanese Society for Abdominal Emergency Medicine
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.1251-1254, 2012

患者は61歳,男性。大量飲酒後自宅屋外階段から転落し近医に搬送された。同院での腹部CTで腹腔内出血が疑われ,当院救命救急センターに転送された。検査上,胆嚢損傷,contusionと診断,保存的治療を選択した。第5病日に腹膜刺激症状が出現し,腹部造影CTで遅発性胆嚢穿孔(laceration)を疑い緊急開腹手術を施行した。開腹所見では胆汁性腹水がみられ胆嚢摘出術と術中胆道造影を施行したが胆嚢穿孔や胆管損傷はみられずいわゆるtraumatic BPWORと診断した。胆汁性腹膜炎は胆嚢粘膜剥離による胆汁の浸み出しが原因と考えられた。胆嚢は解剖学的位置関係から損傷を受け難いとされている。本症例では泥酔状態による腹壁緊張の低下に加え,転落時に十分な防御姿勢がとられなかったことが推測され,さらに飲酒後で胆嚢の緊満やOddi括約筋緊張亢進により胆嚢・胆管内圧上昇が胆嚢損傷に影響したものと考えられた。
著者
片岡 祐一 相馬 一亥 大和田 隆
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.329-336, 1995-08-10
被引用文献数
1 1

近年,増加傾向にある気管支喘息発作による発作死患者の病態を知る目的で,気管支喘息により来院時心肺停止状態であった患者26人(心肺停止群)を,重症気管支喘息のため人工呼吸管理を必要とした患者25人(対照群)と比較し,背景因子や臨床経過,病態生理などの差異について検討した。両群間で性比,年齢,通院治療歴,大発作入院歴,24時間以内の緩解発作の既往などの背景因子に差は認められなかった。来院までの経過は,心肺停止群では通報時12人(46.2%)が意識清明であったにもかかわらず,救急隊現場到着時20人(76.9%)の患者が心肺停止状態となっていた。一方対照群では,来院時22人(88.0%)に意識障害を認めたが,全例血圧は維持されていた。気管内挿管時の動脈血ガス所見では,心肺停止群は高度の混合性アシドーシスであったのに対し,対照群は呼吸性アシドーシスのみであった。症状出現から人工呼吸開始までの時間および治療開始後,気管内挿管時のPaCO<sub>2</sub>が半減するまでの時間は,心肺停止群でそれぞれ106±31min, 132±34minで,対照群の322±62min, 591±173minに比べ,ともに有意に短時間であった(p<0.01)。また症状出現から人工呼吸開始までの時間の分布も,心肺停止群は1時間以内が17人(65.4%)を占めていたが,対照群は1時間以上が17人(68.0%)占めていた。以上より心肺停止群は症状出現後急速に増悪し,きわめて短時間のうちに心肺停止に陥っているが,治療開始後の換気の改善もきわめて速い。心肺停止となる気管支喘息発作は,病態生理学的に発症機序が異なることが考えられ,わが国において急速に心肺停止に至る気管支喘息発作患者を減少させるためには,発症機序の解明とともに病院に来院するまでの対策が重要と考えられる。
著者
秋山 久尚 黒澤 利郎 相馬 一亥 大和田 隆
出版者
北里大学
雑誌
北里医学 (ISSN:03855449)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.279-283, 1995-06-30

われわれは,急性興奮覚醒薬(メタンフェタミン)中毒が来院時心肺停止(CPA)の原因と考えられた1症例を経験したので若干の考察を加えて報告する。症例は,39歳男性。平成3年6月9日,心肺停止で北里大学病院救命救急センターに搬送された。心肺蘇生術後,著明な高血圧と発汗が持続し,眼瞼および体幹の痙攣,40℃を越える高熱も認められた。蘇生後の胸部レントゲンは心拡大,両側肺うっ血以外に異常は認めなかった。頭部CTは異常を認めなかったが,脳波は平坦であった。また,心電図,心エコー図からは高血圧心が示唆された。一般検査では原因不明であったが,著しい交感神経刺激症状から薬物中毒を疑い,各種薬物の検索を行った。光学異性体カラム法にて,血中に9.17μmol/100 mlと致死量のメタンフェタミンが検出され急性覚醒剤中毒と診断した。今後,一般検索で原因不明のCPA症例では覚醒剤などの特殊な薬物中毒についても血中の濃度測定が重要であると考えられた。