著者
小潟 昭夫
出版者
慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会
雑誌
慶応義塾大学日吉紀要 フランス語フランス文学 (ISSN:09117199)
巻号頁・発行日
no.38, pp.11-45, 2004

2003年3月2日(日)に山形県鶴岡市慶応義塾大学鶴岡タウンキャンパスで「雷サミットII」が開催され、そのときに「ヴィクトル・ユゴーと雷の詩学」という題で発表しました。それを基にしてその後の研究成果を踏まえて本論を作成しました。フランス語でfoudre(雷)が(1)雷、雷電 (2)威力、激怒、制裁、懲罰を、特にcoup de foudre一目惚れを、残lair(稲妻)が、(1)稲妻、電光、(2)閃光 (3)輝き (4)瞬間的なひらめき、天啓 (5)エクレアを、 tonnerre(雷鳴)が(1)雷鳴、轟音 (2)雷のような (3)雷霆(らいてい) (4)雷鳴器を意味しております。foudreは雷の総称を指し、 残lairが光を、 tonnerreが音を指し示していることは明らかですが、もともとギリシア神話やラテン文学にそれらの淵源があると思われます。ギリシア神話において、ゼウス(ユーピテル)は気象学的現象、特に雨、あられ、雪、雷など天候の神でした。雷はゼウスが常に用いた武器でした。宇宙のあらゆる出来事は、ゼウスの管轄下にあると言っても過言でありません。ゼウスは前兆を与える者とみなされ、雷や電光もまた前兆とみなされていました。ゼウスは翼のある槍の形をした雷を携えていました。プロメテウスは自分の創造物を慰めるために、神々から火を盗み人間に与えました。ゼウスは、プロメテウスをオケアノス川のほとり近くにある高い岩につなぎ、毎日鷲にプロメテウスの肝臓を食べさせることで、彼を罰していた。こうした神話が、ヨーロッパの文学作品における参照の役割を演じていたことは想像に難くありません。もう少し詳しく検討してみますと、ギリシア・ラテン文学だけでなく、旧約聖書や新約聖書が、ヨーロッパの文学における雷のイメージ形成に大きく寄与していることが理解されます。