著者
小田 和正
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.39-57, 2020-02-01 (Released:2022-04-07)
参考文献数
33

本稿では、U. Beckに代表されるような時代診断的研究の基本構図と諸機能、社会学理論としての諸特徴を理論的 に整理することを通して、時代診断学が社会学的研究のなかに固有の位置価をもつこと、すなわち社会学の一研究ジャ ンルとして独自の地位を占めることを示す。そのために本稿ではまず、社会学的時代診断学というK. Mannheimの 先駆的な構想に着目し、彼の構想を批判的に再検討するという方法を採る。彼の構想に見出される不備を修正することで、時代診断学における「時代」や「社会」の概念を明確化し、「診断」や「処方」の概念もまた理論的に再規定することができるからである。その上で、時代診断学について近年なされている議論の一部を参照しつつ、時代診断学が果たす独自の諸機能、および社会学理論としての諸特徴について考察している。 本稿が提示する時代診断学における時代/社会概念とは、そのときどきに人々が抱く社会像>=包括的な状況の定義であり、時代診断学はその診断において、そのときどきの社会状況に基づいてそうした状況の定義を解釈し、社会状況に非適合的な状況の定義やその定義が依拠する解釈図式を批判する。そしてその処方において、社会状況に適合的な状況の定義や解釈図式を提案する。これが本稿が提示する時代診断学の基本構図である。こうした診断・処方によって時代診断学は、直示的機能、パラダイムの刷新機能、公共的機能という三つの機能を果たしうる。これらは通常の社会記述や社会理論が担う機能とは異なると同時に社会学的研究に不可欠の機能であるがゆえに、社会学的時代診断学は社会学的研究のなかで固有の位置価をもつと言える。