著者
中江 啓晴 熊谷 由紀絵 小菅 孝明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1-4, 2014 (Released:2014-07-22)
参考文献数
16

【緒言】眼瞼痙攣(眼瞼攣縮)は眼輪筋,皺眉筋など眼瞼運動に関与する筋肉の不随意の収縮により開瞼が困難となる状態で,局所性ジストニアに分類される。【症例】患者は61歳女性,半年前から出現した眼の違和感を主訴に当科受診。眼瞼痙攣と診断,柴胡加竜骨牡蠣湯の内服を開始したところ改善傾向となり,少量の芍薬甘草湯を追加したところ更なる改善が得られた。患者の希望により芍薬甘草湯を増量し芍薬甘草湯単剤投与に変更したところ症状が悪化,以前の処方に戻したところ改善が得られた。【考察】眼瞼痙攣を含む頭部ジストニアの発症機序として中枢神経系にある基底核運動ループの障害が提唱されている。柴胡加竜骨牡蠣湯は中枢神経系に作用すると推測されることから眼瞼痙攣を改善した可能性がある。【結語】柴胡加竜骨牡蠣湯の眼瞼痙攣に対する有効性が示唆された。
著者
大平 征宏 齋木 厚人 山口 崇 今村 榛樹 佐藤 悠太 番 典子 川名 秀俊 南雲 彩子 龍野 一郎 小菅 孝明 秋葉 哲生
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.191-196, 2015 (Released:2015-11-05)
参考文献数
19
被引用文献数
1

以前我々は減量手術後に易怒性から過食,リバウンドした症例を抑肝散が改善させたことを報告し,肥満症患者の精神面に対する漢方治療が有用である可能性を提唱した。今回,頻用されている減量治療薬および抑肝散の減量治療に対する効果を比較した。当院で減量治療目的にマジンドール,防風通聖散または易怒性を指標に抑肝散を投与された肥満症患者107例を後ろ向きに検討した。投与3ヵ月後,マジンドールおよび抑肝散で有意な体重減少を認めた。糖代謝への影響を糖尿病患者のみで検討した。HbA1c の改善はいずれの群においても有意差は認めなかった。肥満症の減量治療にはメンタルヘルスの問題が重要であり,患者の精神面を意識した漢方治療は有効であることが示唆された。
著者
三浦 於菟 松岡 尚則 河野 吉成 板倉 英俊 田中 耕一郎 植松 海雲 奈良 和彦 芹沢 敬子 中山 あすか 橋口 亮 福島 厚 小菅 孝明 斉藤 輝夫
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.1-14, 2012 (Released:2012-08-24)
参考文献数
53

盗汗病態理論の史的変遷を中国医書に基づいて検討した。隋代まで,盗汗と自汗の病態は同様であり,主に体表の気虚によって出現すると考えられていた。唐代には,盗汗と自汗の病態の相違性が指摘され,盗汗は熱によって出現するとされた。宋金代には,血虚や陰虚の熱が盗汗を出現させるとされた。金代には,寒邪などの外邪によっても盗汗は起こるとの実証盗汗理論が提唱された。元代と明代の初期には,盗汗は陰虚,自汗は陽虚という学説の完成をみた。明代中期には,盗汗は陽虚でも出現する事があり,病態によって盗汗と自汗を把握すべきだという新学説が登場した。清代には,外邪のみならず湿熱,食積,瘀血によっても盗汗は出現するという実証の盗汗,部位別盗汗病態などの新しい学説が登場した。また温病盗汗は傷寒とは異なり陰虚によるとの学説もみられた。盗汗学説は古きに知恵を求めながら発展したといえる。
著者
中江 啓晴 熊谷 由紀絵 小菅 孝明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.104-107, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
12

アルツハイマー型認知症は認知症の半数を占め,認知機能障害が徐々に進行する。半夏白朮天麻湯をアルツハイマー型認知症患者に投与し,その有効性を検討したので報告する。対象はアルツハイマー型認知症患者72例。初診時に全例に改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)を実施した。同日から半夏白朮天麻湯エキスの内服を開始し,4週間後にHDS-R で再評価を行なった。評価可能であった患者は72例中64例であった。64例の内訳は年齢79.9±6.0歳(63-89歳),性別は男性33例,女性31例であった。半夏白朮天麻湯エキス投与前のHDS-R は15.5±5.2点であり,投与4週間後のHDS-R は16.9±6.2点と有意に改善を認めた(p < 0.01)。家族の目から見て認知機能が改善したものは13例(20.3%)であった。半夏白朮天麻湯のアルツハイマー型認知症の認知機能障害に対する有効性が示唆された。
著者
中江 啓晴 小菅 孝明 熊谷 由紀絵 田中 章景
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.131-136, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

パーキンソン病患者の便秘に対する麻子仁丸の有効性を検討した。対象は便秘のあるパーキンソン病患者23例。 麻子仁丸を投与し1ヵ月後に効果の有無を確認した。効果判定は排便の頻度で行い,排便の頻度が増加したものを有効,変化がなかったものを無効,低下したものを悪化とした。以前から下剤を内服していたものについては麻子仁丸に切り替え,同様に判定した。有効率は全体では78.3%,悪化例はなかった。副作用を認めたものは13.0%でいずれも下痢であった。以前に下剤を内服していなかった15例では有効率86.7%,以前から下剤を内服していた8例では有効率62.5%であった。麻子仁丸は下剤を内服していなかった患者に対して高い有効率を示し,また以前から下剤を内服しているが効果が不十分な患者に対して便秘を悪化させることなく切り替えることが可能であった。 麻子仁丸はパーキンソン病の便秘に対して適切な処方の一つと考えられた。
著者
三浦 於菟 河野 吉成 板倉 英俊 田中 耕一郎 植松 海雲 奈良 和彦 橋口 亮 吉田 和裕 桑名 一央 塚田 心平 土屋 喬 福島 厚 小菅 孝明 斉藤 輝夫
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.740-745, 2010 (Released:2010-10-30)
参考文献数
24
被引用文献数
1

盗汗治療代表的方剤の当帰六黄湯(李東垣『蘭室秘蔵』)の成立過程を構成生薬と各時代の盗汗病態理論より検討した。黄耆の配合は主に陽虚で出現という漢隋代盗汗理論,補血滋陰薬の生地黄・熟地黄・当帰の配合は陰虚という宋代盗汗理論,清熱薬の黄連・黄芩・黄柏の配合は陰虚の熱により津液が押し出されるという宋代盗汗理論に基く。後者は特に劉完素『黄帝素問宣明論方』中の盗汗治療方剤大金花丸の影響が大きい。本剤は各時代の盗汗学説の集大成のために高い有用性を備えたのであろう。医書の諸説より,本剤の適応病態や問題点を検討した。弱い熱証(『丹渓心法』),強い気虚証(『張氏医通』『丹渓心法』),強い陰虚証(『医学心悟』)を呈する盗汗病態には不適当との説。脾胃を損傷しやすい(『医方切用』)との指摘。自汗への応用も可能との説(『医学正伝』『景岳全書』)などがある。これらより本剤の適応は陰虚証と熱証がほぼ同様程度,気虚証はより軽度な病態であり,このような病態では自汗にも使用可能といえる。