著者
仲野 達 山浦 弦平 横山 睦美 田中 章景 小山 主夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.47-49, 2015 (Released:2015-01-23)
参考文献数
10

要旨:症例は39 歳男性.サーフィン後に他人の自転車を乗っていこうとする異常行動のあとに意識障害が進行したため救急搬送された.MRI では両側小脳,両側視床に新規脳梗塞を認め,MR angiography(MRA)では頭蓋外から頭蓋内への移行部に両側で椎骨動脈解離を認めた.MRA で経時的に観察を行い,両側で同様な解離腔の信号変化を呈したことから両側同時に解離が生じたものと判断した.保存的治療で意識状態は改善したが,見当識障害,記銘力障害が残存した.外的要因で椎骨動脈解離が生じることは知られているが,サーフィンも例外ではない.また,両側椎骨動脈解離を認める症例は少なく,発症機序を考察する上でも貴重な症例と考えた.
著者
東山 雄一 田中 章景
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.45-62, 2018-03-25 (Released:2018-04-28)
参考文献数
56
被引用文献数
1

外国語様アクセント症候群(foreign accent syndrome:FAS)とは,同じ母国語を使用する第三者が“外国語のようだ”という違和感を持つような発話障害を特徴とした症候群である.比較的稀な症候ではあるが,これまで100例以上の報告がなされており,発話障害の特徴として,音の高低や強弱,リズム,音調などのイントネーションの異常といった超分節素の障害や,母音・子音変化などの分節素の障害が報告されている.脳卒中以外にも様々な原因疾患で生じることが知られており,その責任病巣については左中心前回など左半球による報告が多いが,右半球や脳幹,小脳病巣での報告もあり多様である.このように,FASは原因も病巣も様々であることから,そもそも“症候群”として扱うほどの一貫性や普遍性があるのか,発語失行(apraxia of speech:AOS)との異同についてなど未解決の問題が山積している.今回,FASを呈した自験例の紹介と既報告例を振り返ることで,FASの特徴や発現機序などについて考察を行った.特に日本人FAS例は,英語アクセント型と中国・韓国語アクセント型の2つに分類されることが多く,AOSの特徴が目立つ例では,母音や子音の長さの変化を特徴とした英語アクセント型に,AOSの特徴が目立たずピッチの障害が目立つ例は中国・韓国語アクセント型になる可能性が考えられた.また,失語症を伴わないFAS既報告例の病巣を用いたlesion network mapping解析を行った結果,喉頭の運動野(Larynx/Phonation area)として報告されている中心前回中部が,FASの神経基盤として重要である可能性が示唆された.
著者
東山 雄一 田中 章景
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.392-401, 2016-09-30 (Released:2017-10-05)
参考文献数
29
被引用文献数
3 1

コンピュータの急速な普及により, 脳損傷によるタイピング障害が社会生活に与える影響は深刻となりつつある。そこで我々は, 失タイプを呈した自験例の検討と, 健常者 fMRI 研究の結果から, タイピングの神経基盤, 失タイプの責任病巣について検討した。  【症例】78 歳の右利き男性。失語や失行, 半側無視, 運動感覚障害は認めなかったが, 選択的タイプ障害が明らかであった。病歴と脳 MRI, 各種検討課題の結果から, 本例は左中下前頭回後部の脳梗塞により, 音素-書記素変換と書記素バッファに障害を認め, 特に後者が失タイプの原因になっていると考察した。  【fMRI 検討】健常タッチタイピスト16 名を対象に fMRI による, タイプ・書字の神経基盤の検討を行った。その結果, 左上頭頂小葉前部~縁上回, 左上中前頭回後部にタイプ・書字の両課題で有意な賦活を認め, さらに左頭頂間溝 (IPS) 後部内側にタイピングでより強い賦活を認めた。  【考察】タイピングは書字中枢として知られる多くの脳領域や, 左 IPS 後部内側皮質など複数の脳領域が関与する複雑な認知プロセスであり, 障害部位に応じて質の異なる障害が生じる可能性がある。本例のように個々の症例の障害機序を検討していくことで, 失タイプの症候学の確立やリハビリテーションへの発展が今後期待される。
著者
浜田 智哉 田中 果南 今井 友城 東山 雄一 田中 章景
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.228-235, 2017-06-30 (Released:2018-07-02)
参考文献数
23

失語症臨床において保続を観察する機会は多いが, 保続は失語症評価訓練の阻害要因の 1 つとしても知られている。今回, 発症から 6 ヵ月経過し, 保続が主症状の 1 つであった失語症者に対して TAP (Treatment of Aphasic Perseveration) を参考に保続の減少を目的とした訓練を約 1 ヵ月間施行した。訓練手続きは TAP のエラーコントロールメソッドを取り入れ, さらに訓練中に表出された保続の種類の質的な分析を行うことで, 保続に対する TAP の作用機序を明らかにしようと試みた。結果として, TAP による保続の減少は訓練語以外へも汎化し, さらに実生活での言語表出能力をも向上させたことがわかった。 一方, 保続の質的分析の結果からは, TAP は主に直後型保続の減少に寄与していることが明らかとなった。
著者
窪田 瞬 平田 順一 小島 麻里 國井 美紗子 冨田 敦子 釘本 千春 土井 宏 上田 直久 田中 章景
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.370-373, 2014 (Released:2014-09-25)
参考文献数
10

要旨:症例は79 歳男性.糖尿病で内服加療を行っていたが,突然発症の右不全片麻痺を来し当院に救急搬送された.頭部MRI 拡散強調画像で左内包後脚に高信号を認めた.血糖が30 mg/dl と著明に低下しており50%グルコースを静注したところ症状は速やかに消失し,片麻痺の原因は低血糖によるものと考えられた.患者は過去にも低血糖による内包後脚のMRI 異常信号を呈し,右不全片麻痺を発症していた.低血糖発作による脳卒中様の片麻痺は過去にも報告がみられるが,同一部位に繰り返しMRI 異常信号を認めた例はこれまでにない.内包後脚が低血糖への脆弱性が高い脳組織の一つであることが示された.
著者
東山 雄一 田中 章景
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.272-290, 2021-12-25 (Released:2022-01-12)
参考文献数
108

Broca野,Wernicke野,角回そして弓状束で構成されるWernicke-Geschwindのモデルは,脳の言語モデルとして広く知られている.しかし,詳細な画像検査に裏打ちされた症例の蓄積と,脳機能画像研究を中心とした脳神経科学の進歩を背景に,Broca野やWernicke野以外の様々な脳領域がヒトの言語活動に関与していることが明らかになっている.さらに近年では拡散MRIを用いた数々の物理モデルの登場により,ヒトの白質線維の走行を詳細に評価することが可能となり,多数の機能領域とそれらを橋渡しする複雑な白質線維から構成されるネットワークとして脳を捉える考え方が主流になりつつある.本章では,こうした古典モデルに代わる新たな言語モデルと,その展望について概説を行う.
著者
中江 啓晴 小菅 孝明 熊谷 由紀絵 田中 章景
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.131-136, 2016 (Released:2016-08-18)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

パーキンソン病患者の便秘に対する麻子仁丸の有効性を検討した。対象は便秘のあるパーキンソン病患者23例。 麻子仁丸を投与し1ヵ月後に効果の有無を確認した。効果判定は排便の頻度で行い,排便の頻度が増加したものを有効,変化がなかったものを無効,低下したものを悪化とした。以前から下剤を内服していたものについては麻子仁丸に切り替え,同様に判定した。有効率は全体では78.3%,悪化例はなかった。副作用を認めたものは13.0%でいずれも下痢であった。以前に下剤を内服していなかった15例では有効率86.7%,以前から下剤を内服していた8例では有効率62.5%であった。麻子仁丸は下剤を内服していなかった患者に対して高い有効率を示し,また以前から下剤を内服しているが効果が不十分な患者に対して便秘を悪化させることなく切り替えることが可能であった。 麻子仁丸はパーキンソン病の便秘に対して適切な処方の一つと考えられた。
著者
橋口 俊太 川本 裕子 城村 裕司 岡田 雅仁 田中 章景
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.272-275, 2016 (Released:2016-07-25)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

症例は41 歳男性.亜急性に進行した頭痛と行動異常が認められ緊急入院となった.入院時は,意識清明だが高揚感があり,軽度認知機能障害と項部硬直を認めた.脳MRI で硬膜が肥厚しており,上矢状静脈洞にdelta sign も認めていたため,MRV を追加したところ上矢状静脈洞と右横静脈洞が描出不良であった.肥厚性硬膜炎に脳静脈洞血栓症を合併した病態と考え,ヘパリンを併用しながら大量ステロイド療法を施行した.臨床症状が改善したため,ステロイド剤と抗凝固薬の内服に切り替え,自宅退院となった.肥厚性硬膜炎の原因として明らかなものは認められず,特発性と診断した.脳静脈洞血栓症については,凝固亢進状態を来しうる先天性もしくは後天性の素因も認めず,硬膜肥厚により二次的な静脈洞の閉塞と還流障害が生じたものと考えた.両者の合併は稀であるが,脳静脈洞血栓症の原因として肥厚性硬膜炎も鑑別に挙げておく必要がある.
著者
東山 雄一 田中 章景
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.45-62, 2018

<p>外国語様アクセント症候群(foreign accent syndrome:FAS)とは,同じ母国語を使用する第三者が"外国語のようだ"という違和感を持つような発話障害を特徴とした症候群である.比較的稀な症候ではあるが,これまで100例以上の報告がなされており,発話障害の特徴として,音の高低や強弱,リズム,音調などのイントネーションの異常といった超分節素の障害や,母音・子音変化などの分節素の障害が報告されている.脳卒中以外にも様々な原因疾患で生じることが知られており,その責任病巣については左中心前回など左半球による報告が多いが,右半球や脳幹,小脳病巣での報告もあり多様である.このように,FASは原因も病巣も様々であることから,そもそも"症候群"として扱うほどの一貫性や普遍性があるのか,発語失行(apraxia of speech:AOS)との異同についてなど未解決の問題が山積している.</p><p>今回,FASを呈した自験例の紹介と既報告例を振り返ることで,FASの特徴や発現機序などについて考察を行った.特に日本人FAS例は,英語アクセント型と中国・韓国語アクセント型の2つに分類されることが多く,AOSの特徴が目立つ例では,母音や子音の長さの変化を特徴とした英語アクセント型に,AOSの特徴が目立たずピッチの障害が目立つ例は中国・韓国語アクセント型になる可能性が考えられた.</p><p>また,失語症を伴わないFAS既報告例の病巣を用いたlesion network mapping解析を行った結果,喉頭の運動野(Larynx/Phonation area)として報告されている中心前回中部が,FASの神経基盤として重要である可能性が示唆された.</p>