- 著者
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小長谷 賢一
谷口 亨
- 出版者
- 国立研究開発法人森林研究・整備機構
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2016-04-01
植物ウイルスベクターは、植物へ感染するウイルスを遺伝子の運搬体(ベクター)として用い、目的遺伝子を植物体内で発現制御できる系として、遺伝子の機能解析や形質の改変等に利用されている。本ベクターの利点は組織培養技術を必要とせず、宿主植物のゲノムを遺伝子組換えすることなく形質を改変できる点にある。本研究では、リンゴ小球形潜在ウイルス(ALSV)ベクターを用いて花器官形成に関与する遺伝子を制御することで、スギを効率的かつ迅速に無花粉化させる技術の確立を目指す。スギにおける遺伝子発現抑制(ノックダウン)について、RNA二次構造アルゴリズムを用いて標的遺伝子RNAのトリガーに適した領域を推定し、その領域断片をベクターへ用いることで、ALSVベクターによる遺伝子ノックダウンの効率化に成功した。また、人工気象器内で長日条件下での培養を6ヶ月、段階的に低温にした短日条件下での培養を6ヶ月行うことで無菌的に雄花を成熟させることに成功し、季節によらず稔性調査可能な培養系を確立した。一方、スギ雄花のマイクロアレイ解析と雌花のRNA-seq解析から雄花で特異的に発現し、花粉形成に関与すると推定される遺伝子を17個単離した。これらを標的とするALSVベクターを感染させたスギの獲得と雄花の着生に成功し、また、一部の標的遺伝子で雄花における遺伝子ノックダウンを確認した。得られたノックダウン系統のうち、雄花が成熟した系統について花粉形成の調査を行なった結果、2つの標的遺伝子について正常な花粉粒が観察されず、異形な細胞が蓄積する傾向が確認された。しかしながら、着花の培養条件においては多くの系統で育成中にウイルスが脱落し、花粉形成までにノックダウンを維持させることが困難であった。今後はスギにおけるALSVベクターの安定性を考慮した培養条件を検討する必要がある。