著者
橋本 昌司 松浦 俊也 仁科 一哉 大橋 伸太 金子 真司 小松 雅史
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、森林内の放射性セシウム動態のデータベースを構築すること、またそのデータを用いてマルチモデル(複数モデル)による将来予測を行うことを目的としている。今年度は、昨年度構築したデータベースのプロトタイプを改良しながら、データ入力を行った。Web of ScienceやJ-Stageを活用しながら、英語・日本語の学術誌から論文を収集し、データを抽出してデータ入力を行った。加えて、林野庁の調査と福島県によるモニタリングデータも入手し、データ入力を行った。現時点でレコード数は約10000となった。データベースからスギの葉および表層リターに関してデータを抽出し、初期の総沈着量で正規化した濃度をサンプリング年でプロットし時間変化を調べたところ、葉・リターともに初期の総沈着量によらず時間とともに確実に指数関数的に濃度が低減していた。しかし、事故当時に比べて非常に小さい値に収束している葉の濃度に比べ、リターの濃度は4分の1程度のところで定常しているように見受けられた。データベース構築の進捗状況を、国際原子力機関IAEAのMODAIRAIIプロジェクトの第2回専門家会合(ウィーンのIAEA本部で開催)、およびそのワーキンググループ4: Fukushima data groupの中間会合(筑波大学で開催)で報告し、海外の専門家のアドバイスを受けた。また、データベースに収録されている森林総合研究所のモニタリングデータと福島県のモニタリングデータを比較した。さらに国立環境研究所において開発されたFoRothCsモデルのパラメータを、森林総合研究所が行っているモニタリングデータを用いて決定する方法に関して、観測値を直に用いるのではなく、データに指数関数を適用し指数関数の定数を比較する方法を検討した。
著者
安田 雅俊 田村 典子 関 伸一 押田 龍夫 上田 明良
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

大分県の無人島(高島)において特定外来生物クリハラリスの個体群を対象として①いかに個体数を減少させるか、②いかに残存個体を発見しするか、③外来リス根絶後の生態系の回復過程をいかに把握するかを検討した。異なる防除オプション(生捕ワナ、捕殺ワナ、化学的防除)の組合せが迅速な根絶達成に必要と結論した。クリハラリスの化学的防除の試験を行い、生態系への負の影響を最小化する技術を開発した。ベイト法は低密度個体群において有効と結論した。防除開始直後の高島の生物群集(鳥類と昆虫類)に関するデータを得ることができた。これは高島におけるクリハラリス地域個体群の根絶後における生態系回復の理解において重要となる。
著者
高梨 琢磨 土原 和子 山崎 一夫 杉浦 真治
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

チョウ目の幼虫は、体表に存在する糸状の機械感覚子(以下、糸状感覚子)で音や気流を感知することが知られている。本課題において、この糸状感覚子の同定並びに比較を複数の分類群においておこなったところ、糸状感覚子を1)胸部にのみを持つ種、2)腹部にのみ持つ種、3)腹部と胸部の両方に持つ種、そして4)糸状感覚子を欠く種がみられた。感覚子の有無は、植物体内外での摂食(内部食や外部食)等の生活様式と捕食回避に関連していると考察した。
著者
岡部 貴美子 亘 悠哉 飯島 勇人 大澤 剛士 坂本 佳子 前田 健 五箇 公一
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

見えないウイルスが接近する脅威を、可視化することを目的とする。そのためにマダニが媒介するSFTS等をモデルとし、野生動物の個体群と移動分散、マダニの分散への貢献、マダニの増殖にかかる生物・非生物学的要因、個体群の空間スケールを明らかにし、セル・オートマトンモデルによる予測、フィールド調査による検証、細胞レベルの病理試験等を駆使して精度の高い動物リレーモデルを開発する。これにより、マダニと病原体が野生動物にリレーのバトンのように受け渡され、途上の環境変化によってリレーの方向等に変化が生じ、感染症の溢出・拡大が起こるという仮説を検証し、感染拡大メカニズム解明とそれに基づく対策手法開発に資する。
著者
小長谷 賢一 谷口 亨
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

植物ウイルスベクターは、植物へ感染するウイルスを遺伝子の運搬体(ベクター)として用い、目的遺伝子を植物体内で発現制御できる系として、遺伝子の機能解析や形質の改変等に利用されている。本ベクターの利点は組織培養技術を必要とせず、宿主植物のゲノムを遺伝子組換えすることなく形質を改変できる点にある。本研究では、リンゴ小球形潜在ウイルス(ALSV)ベクターを用いて花器官形成に関与する遺伝子を制御することで、スギを効率的かつ迅速に無花粉化させる技術の確立を目指す。スギにおける遺伝子発現抑制(ノックダウン)について、RNA二次構造アルゴリズムを用いて標的遺伝子RNAのトリガーに適した領域を推定し、その領域断片をベクターへ用いることで、ALSVベクターによる遺伝子ノックダウンの効率化に成功した。また、人工気象器内で長日条件下での培養を6ヶ月、段階的に低温にした短日条件下での培養を6ヶ月行うことで無菌的に雄花を成熟させることに成功し、季節によらず稔性調査可能な培養系を確立した。一方、スギ雄花のマイクロアレイ解析と雌花のRNA-seq解析から雄花で特異的に発現し、花粉形成に関与すると推定される遺伝子を17個単離した。これらを標的とするALSVベクターを感染させたスギの獲得と雄花の着生に成功し、また、一部の標的遺伝子で雄花における遺伝子ノックダウンを確認した。得られたノックダウン系統のうち、雄花が成熟した系統について花粉形成の調査を行なった結果、2つの標的遺伝子について正常な花粉粒が観察されず、異形な細胞が蓄積する傾向が確認された。しかしながら、着花の培養条件においては多くの系統で育成中にウイルスが脱落し、花粉形成までにノックダウンを維持させることが困難であった。今後はスギにおけるALSVベクターの安定性を考慮した培養条件を検討する必要がある。
著者
小田 龍聖
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2023-04-01

都市住民による観光を中心とした森林の活用への期待は大きく、特に森林のキャンプ場としての活用に期待が集まっている。多様化するキャンプ場の需要に合わせ効率的に施設整備を進めるためには、利用者ニーズを把握し、キャンプ場が人々に提供するコンテンツを評価する必要がある。そもそも都市の人々のキャンプ場の利用ニーズはどこにあるのだろうか。本研究は、アンケート調査やインタビュー調査に加えてSNSビックデータを活用し、森林キャンプ場の利用実態や利用者ニーズを経時的、広域的に把握、分析し、今後の森林キャンプ場整備の方向性を示すとともに、SNSによる調査手法の妥当性、有用性について検討する。
著者
神原 広平
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

細胞の水の通り道を形成するタンパク質アクアポリンに着目し、シロアリの水代謝システムの解明を試みた。2種のシロアリから新たにアクアポリン遺伝子を獲得し、そのうちイエシロアリでは唾液腺に2タイプのアクアポリンが共発現することを明らかにした。唾液腺を低張液や高張液に浸漬すると速やかに膨潤収縮したことから、これらのアクアポリンは水透過の役割を担うと考えられた。また、銅や亜鉛の存在下では膨潤収縮が認められず、水透過能が金属イオンで阻害される可能性が示唆された。RNA干渉法でアクアポリンの機能を阻害したところ職蟻の排泄に変調が生じたことから、シロアリアクアポリンは消化排泄系に寄与すると考えられた。
著者
中下 留美子
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

近年,野生動物と人との軋轢が顕在化し,農林水産被害や人身被害等が頻発し,多数の個体が捕獲されている.しかし,駆除個体の詳細な加害実態は把握されておらず,根本的な被害対策は遅れている.そこで,本研究では捕獲個体の加害実態履歴を明らかにするために,野生動物の一生の食性履歴を明らかにする手法を開発した.ツキノワグマについて,代謝速度の早い組織(血液,肝臓,体毛など)と遅い組織(骨,歯)を組み合わせることで,個体毎に亜成獣~捕獲前までの食性が推定可能となった.本研究は,入手可能な様々な組織を組み合わせて個体レベルの詳細な食性履歴と加害実態を明らかにし,科学的根拠に基づく保護管理策に貢献する.
著者
升屋 勇人 戸田 武 市原 優 森山 裕充 景山 幸二 古屋 廣光
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

全国の天然林、人工林において樹木疫病菌の調査を行った。特に渓流のリターを中心に調査を行うとともに、枯死木があればその根圏土壌からの分離を行った。その結果、現時点で約1000菌株以上を確立した。これらの中にはP. cinnamomiなどの重要病害も含まれている。これらの菌株の詳細については、現在DNA解析と形態観察を継続して行っている。これまでに国内では約20種程度の種数が確認されていたが、そのほとんどは畑地であり、森林において多くの種類が検出される点は新規性が高く、日本における本病害のリスクを正確に把握するための一助となる。また、当年度は関西においてヒノキ幼木の枯死に樹木疫病菌が関係している可能性が考えられ、今後詳細な接種試験が必要である。さらにイチョウの集団的な枯損にも樹木疫病菌が関与しているか可能性があり、より詳細な現地調査を行っているところである。本年度はP. cinnamomi、P. cambivora、P. castaneaeを各種ブナ科樹木苗木の樹皮に有傷での接種試験を行った。その結果、クリではP. castaneaeが特に強い病原力を有すると考えられた。またその他の樹種に対してもそれぞれ病原性を有することが確認され、感染すれば十分に各樹種に損害を与えることが明らかとなった。特にコナラ、ミズナラ、クリは本病害に対して感受性が高い可能性がある。これらの成果は、これまで原因不明であった枯死のいくつかに本病原菌が関与する可能性を示すものである。
著者
田端 雅進 高野 麻理子 渡辺 敦史 福田 健二 井城 泰一 本多 貴之 小谷 二郎 黒田 克史
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

我々の研究グループは国産漆の増産に向けたDNAマーカーなどに関する研究を行い,ウルシクローン間で漆滲出量やウルシオールの成分組成等に違いがあり,漆の硬化時間に影響を与えることを明らかにした。本研究では,これまでの成果を発展させ,傷とシグナル物質による樹体反応のウルシクローン間の相違性,及び漆滲出量に関与する組織構造と遺伝子の解析を行い,漆滲出量増加に対するシグナル物質の作用機序を明らかにする。さらに,漆の硬化時間に直接影響するラッカーゼの構造と生合成に関する遺伝子発現をクローン間で解析し,漆成分の生化学的特性の多様性が漆の品質に与える影響を明らかにする。