著者
近藤 崇 水谷 瑞希 肘井 直樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第130回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.679, 2019-05-27 (Released:2019-05-13)

森林生態系において樹洞は鳥類、哺乳類、昆虫類などの多様な生物に利用される環境であるが、針葉樹人工林は一般に広葉樹林と比較して樹洞が少ない森林である。そこで樹洞営巣性であるシジュウカラ科鳥類(カラ類)を対象に人工林において樹洞の代替環境として巣箱を設置した結果、カラ類に加えて、様々な森林生物による巣箱の利用がみられた。本発表では、巣箱の利用状況から、人工林における樹洞代替環境の提供が人工林内の生物相に与える影響について検討した。愛知県豊田市にある名古屋大学稲武フィールドの55年生スギ人工林において、2011年に20個、2012年~2016年に約60個の木製巣箱(底面15×16 cm、高さ20 cm、巣穴直径3 cm)を、長さ1.5 mのポールに取り付けて地面に固定した。各年の4月から8月上旬ごろまで週に2、3回、すべての巣箱の見回りを行った。その結果、カラ類のほか、ネズミ類やヤマネによる休息場所としての利用や、アオダイショウやテンによる捕食場所としての利用、ハチ類による営巣場所としての利用等がみられた。人工林における巣箱の提供は、様々な樹洞利用生物に対して生息地としての質を向上させることが示唆された。
著者
山口 浩和 猪俣 雄太 伊藤 崇之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第130回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.416, 2019-05-27 (Released:2019-05-13)

ショックレスハンマーは打撃時の反動が少なく、また打撃力を効果的に伝達する特性から、クサビ打ち作業における作業者への身体的負担の低減と作業能率の向上が期待される。そこで、一般的に伐倒作業時に用いられているヨキと、ほぼ同じ長さのショックレスハンマーを用いて、クサビ打ち作業を模した打撃試験を行い、それぞれの器具の作業者への衝撃緩和効果と打ち込み効率を比較した。その結果、それぞれの道具を使って同じ仕事をした時に手元に伝わる振動加速度は、ヨキの方がショックレスハンマーよりも1.4倍程度大きく、持ち手が受ける反力は2倍程度大きかった。一方、同じ仕事をした時に加えた運動エネルギーの大きさは、ヨキの方がショックレスハンマーよりも1.7倍程度大きかった。これらの結果から、クサビ打ち込み作業において作業者がショックレスハンマーを使用することにより、腕への衝撃を和らげつつ、打ち込み回数を減少させることができる可能性があることが明らかとなった。
著者
西口 満 二村 典宏 大宮 泰徳 遠藤 真咲 三上 雅史 土岐 精一 小長谷 賢一 七里 吉彦 谷口 亨 丸山 E. 毅
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第130回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.131, 2019-05-27 (Released:2019-05-13)

スギ(Cryptomeria japonica)花粉症は、日本国民の約3割に広がっているとの報告もあり、深刻な社会問題となっている。花粉症対策の一つとして、花粉の形成機構を解明し阻害することができれば、花粉の飛散量を減らすことが可能となる。本研究では、ゲノム編集技術の一つであるCRISPR/Cas9法を用いて、スギの花粉形成に関わる遺伝子に変異を導入し、花粉形成への影響を調べた。スギの花粉形成関連遺伝子を標的とするCRISPR/Cas9ベクターを構築し、アグロバクテリウム法により遺伝子組換えスギを作出した。遺伝子組換えスギのゲノムDNA中の標的遺伝子には欠失変異が見つかり、スギでもゲノム編集による遺伝子変異が生じることが分かった。夏季にジベレリンを散布し、遺伝子組換えスギの花芽形成を誘導した。標的遺伝子の両対立遺伝子に欠失変異が生じた遺伝子組換えスギでは雄花中に花粉が検出されなかったが、非組換えスギでは花粉が作られていた。従って、スギの花粉形成関連遺伝子に変異が起こることにより、無花粉になることが示された。本研究は、内閣府SIP次世代農林水産業創造技術により実施されました。
著者
片山 瑠衣 松尾 歩 廣田 峻 陶山 佳久 阿部 晴恵
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第130回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.277, 2019-05-27 (Released:2019-05-13)

日本に自生するヤブツバキ(Camellia japonica)とユキツバキ(C. rusticana)は、ツバキ属ツバキ節(sect. Camellia)に属する。ヤブツバキは赤く大きな花弁を持つ鳥媒介植物であり、ユキツバキの花弁色や大きさは同様に鳥媒シンドロームに属するものである。しかし、先行研究によると、ユキツバキは昆虫が主要な花粉媒介者であることが報告されている。また、これらの在来種と比較して、アジア大陸に自生するツバキ属は、色や大きさにおいて、より多様な花形態を示す。これらの背景から、ツバキ節における系統解析は、花の進化過程の解明に大きく貢献できると考えられる。そこで本研究では、選択圧が大きく影響すると考えられる花形態に着目し、花形態の比較およびMIG-seq法を用いた分子系統解析を行うことで、日本産ツバキ節の種分化の要因と系統的な位置づけを探ることを目的とした。花形態の比較では、東アジアから東南アジアにかけて自生するCamellia属のうち、27種を対象に各3花ずつ採取して花形態の測定および解析を行った。その結果、花形態は節ごとに異なった傾向を示した。この結果をMIG-seqを用いた分子系統解析と合わせて考察する予定である。
著者
寺下 太郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第130回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.59, 2019-05-27 (Released:2019-05-13)

オーストリアで林業に従事する際には、それぞれの業務に応じていくつかの資格があり、そのための研修・学習のルートも細分化されている。現場で林業作業に従事するための基本的な資格はForstfacharbeiter(林業専門作業者)というものであり、その上にForstwirtschaftsmeister(林業マイスター)という資格がある。研修機関は主にOrt, Ossiach, Pichlの3カ所が担っている。他方、林業経営に関わる場合、その経営規模に応じて取得すべき資格が複数ある。それは、森林法上で一定の規模以上の事業体は有資格者を雇用しなければならないことが明確に規定されているためであり、規模の小さい順にForstwart(1,000ha以上)・Förster(3,600ha以下)・Forstwirt(3,600ha以上)となる。これらの資格は認定機関が異なり、対応する学校そのものが各地に分かれている。すなわち、ForstwartのためにはForstfachschule (Waidhofen)、FörsterのためにはFörsterschule (Bruck)、ForstwirtのためにはUniversität für Bodenkultur (Wien)である。
著者
小林 郁奈 松尾 歩 廣田 峻 陶山 佳久 阿部 晴恵
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第130回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.425, 2019-05-27 (Released:2019-05-13)

堅い殻に包まれたオニグルミ種子は、一般にアカネズミには採食されるが、より小型のヒメネズミには採食されない。しかし、アカネズミの分布しない新潟県粟島ではオニグルミ種子がヒメネズミに採食されると言われている(林ら、私信)。私たちの予備的観察では、佐渡島や粟島で小型のオニグルミ核果が多く観察されたため、オニグルミとヒメネズミの共進化が起こっているのではないかと予測した。そこで本研究では、島嶼3集団(粟島、佐渡島、金華山)および本州の7集団でオニグルミ核果を採取してサイズを計測し、さらに各集団から採取したオニグルミ計80個体を対象として、MIG-seq法を用いた集団遺伝学的解析を行うことで、島嶼と本州間での遺伝的分化と核果サイズ変異との関係を調査した。その結果、島嶼ではオニグルミの核果サイズが多様で、本州集団と比較すると小型だった。一方で島嶼と本州のオニグルミは遺伝的に分化しておらず、核果サイズ変異と遺伝的変異との関係は確認できなかった。また、野外にセンサーカメラを設置しヒメネズミがオニグルミ核果を持ち去るかどうかを撮影したところ、粟島では持ち去りが確認されたが、佐渡島では確認できなかった。
著者
宮坂 隆文 Oyunchimeg Mongolkhatan Batsukh Siilegmaa Jamsran Undarmaa
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第130回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.41, 2019-05-27 (Released:2019-05-13)

モンゴルでは、近年の家畜頭数の急増により、草原の劣化が問題となっている。モンゴルにおいて牧畜は、文化・経済両面で重要な産業であり、行政による一方的な規制は現実的でなく、牧民と連携した施策が必要となる。本研究では、今後の対策立案に向け実践的な指針を得るため、モンゴルの国立公園におけるバッファーゾーン管理に着目した。モンゴルの国立公園は、周辺地域をバッファーゾーンと定め、ゾーン内の牧民生計を支援し、適切な草原利用を促しながら、彼らと協力して管理を行うよう法律で定められている。一方で、モンゴル政府の予算・人手不足により、実際はほとんどの国立公園が上記管理を行えていない。その中で、フスタイ国立公園は唯一NGOが管理を担い、長年バッファーゾーン管理にも取り組んでいる。本研究はフスタイ国立公園を対象に、NGOが行政や牧民といかに協力して公園管理を行っているのか、そしてその管理が牧民生計にどのような変化をもたらしているのか、を明らかにすることを目的とした。本発表では、管理を担うNGOの主要スタッフと、周辺牧民121名への聞き取り調査結果をもとに、フスタイ国立公園の協働型自然資源管理の現状と課題を報告する。