著者
山下 大介 丹生 健一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.679-683, 2010-09-20

Ⅰ.はじめに 線維素性唾液管炎とは,1879年,Kussmaul1)によって初めて報告された発作性反復性に唾液腺腫脹をきたす疾患である。末梢腺組織ではなく主に導管系が閉塞し,唾液管開口部からは白色の索状分泌物が排出されるのが特徴的である。この線維素塊の中には多数の好酸球が認められる。唾液腺造影では,主導管の高度な拡張像を呈する。これまで国内外からの報告は約40例と決して多くはないが,Pearson2)は耳下腺の反復性腫脹を伴う患者104名中16例(15.4%)に本疾患を認めたと報告している。このように本疾患に対する認識の低さから臨床上,見逃されている可能性もあると考えられる。そこで反復する唾液腺腫脹を主訴とする場合には,本疾患を念頭に入れておくことが重要であると思われる。
著者
山口 響子 森口 徹生 山下 大介 大西 丘倫 金子 貞男 的場 亮 鄭 漢忠 近藤 亨
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.94-103, 2019-03

最も悪性度の高い脳腫瘍の1つであるグリオブラストーマ(GBM)は,標準治療(外科手術および化学放射線療法)を施しても平均生存期間中間値(約15か月)が極めて短い難治性疾患である.この難治性の原因の1つは,腫瘍細胞の強い組織浸潤能と増殖能により神経症状発症時には摘出不可能な範囲に腫瘍細胞が拡散しているためである.つまり,簡便かつ検出感度の高いGBM診断用バイオマーカーがあれば,早期腫瘍摘出が可能となり,予後の改善が期待できる.分泌小胞体エクソソームは,その産生細胞が発現しているmRNA,microRNA (miR),タンパクなどを含み,様々な体液中に安定に存在することから,新たなバイオマーカー探索の標的としてその解析と利用が注目されている.今回,私たちはGBM患者と健常人の血漿中のエクソソームに含まれるmiRを比較分析することで,診断マーカーとなりうるmiRの同定を目的として解析を行った.GBM患者6人の凍結血漿8検体(同一患者の再発術前1検体と術後1検体を含む)と健常人2人の凍結血漿を用いて解析を行った.凍結血漿から調整したエクソソーム内miRについて,RNA-seqを用いた網羅的な解析を行い,GBM患者血漿エクソソームに多く含まれる34種のmiRと健常人血漿エクソソームに多く含まれる47種のmiRを同定した.GBM患者血漿エクソソームに多く含まれていたmiRの中で,エクソソームバイオマーカーとして報告のないmiR-186とmiR-20aについて,定量PCRを用いてGBM患者と健常人血漿エクソソーム内miR量を検討した.その結果,miR-20aはGBM患者と健常人間で有意な差は認められなかったが,GBM患者5人中4人の血漿エクソソームにmiR-186が豊富に含まれていることを確認した.加えて,術後患者ではmiR-186量が健常人レベルまで減少していることを発見した.さらに,標準治療を行った再発例においても,術前血漿エクソソーム内miR-186の上昇を認めた.これらの結果は,血漿エクソソーム内miR-186がGBMの病状に即した新規バイオマーカーである可能性を示唆している.