著者
阿部 結奈 松沢 祐介 鄭 漢忠
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.98-109, 2016-03

【目的】歯の移植は咬合再建の選択肢の1つである.歯の移植の治療成績に関する報告は多いが,第三大臼歯の大臼歯部への移植に限定した報告は極めて少ない.本研究の目的は日常臨床で最も頻度の高い大臼歯部への第三大臼歯の移植の治療成績と予後に影響する因子を分析し,受容部と移植歯の関係と治療成績について検討を行い,その結果を日常臨床に反映させることである. 【対象と方法】1997年7月から2015年3月までに当科で歯の移植を行った症例のうち大臼歯部に第三大臼歯を移植した症例を対象1とした.そのうち経過観察期間が6か月以上の症例を対象2とした.手術は通法に従い,移植後1,2,3,6,9か月,1,1.5,2年,以後は年1回の間隔で口腔内診査およびX線学的検査を行い,結果を判定した.抜歯あるいは脱落に至った症例を抜歯群,それ以外を生着群とした.生着群のうち,臨床所見およびX線学的所見に問題がない症例を良好群,一部問題がある症例を非良好群とした.対象1に対し,全体の生存率を算出し,種々の因子(年齢,性別,移植法,移植歯の歯種,歯根完成度,萌出状態,受容部の部位,欠損の状態)における 生存率の違いを比較した.また,対象2に対し,移植歯の種類と受容部の部位の関係を検討した. 【結果】対象1は552例615歯,対象2は341例390歯であった.全体の1年生存率は97.7%,5年生存率は86.2%であった.統計学的に生存率は単変量解析では性別,移植法,移植歯の種類,受容部の部位に,多変量解析では移植歯の種類,受容部の部位,欠損の状態に有意差を認めた.移植歯の種類と受容部の部位の関係では下顎の第三大臼歯を同顎同側に移植した場合が最も良好群の割合が高かった. 【結論】移植歯は下顎第三大臼歯が,移植歯と受容部の関係では同顎同側あるいは対顎対側への移植が望ましかった.第一大臼歯部が最後方歯になると予知性は低かった.
著者
山口 響子 森口 徹生 山下 大介 大西 丘倫 金子 貞男 的場 亮 鄭 漢忠 近藤 亨
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.94-103, 2019-03

最も悪性度の高い脳腫瘍の1つであるグリオブラストーマ(GBM)は,標準治療(外科手術および化学放射線療法)を施しても平均生存期間中間値(約15か月)が極めて短い難治性疾患である.この難治性の原因の1つは,腫瘍細胞の強い組織浸潤能と増殖能により神経症状発症時には摘出不可能な範囲に腫瘍細胞が拡散しているためである.つまり,簡便かつ検出感度の高いGBM診断用バイオマーカーがあれば,早期腫瘍摘出が可能となり,予後の改善が期待できる.分泌小胞体エクソソームは,その産生細胞が発現しているmRNA,microRNA (miR),タンパクなどを含み,様々な体液中に安定に存在することから,新たなバイオマーカー探索の標的としてその解析と利用が注目されている.今回,私たちはGBM患者と健常人の血漿中のエクソソームに含まれるmiRを比較分析することで,診断マーカーとなりうるmiRの同定を目的として解析を行った.GBM患者6人の凍結血漿8検体(同一患者の再発術前1検体と術後1検体を含む)と健常人2人の凍結血漿を用いて解析を行った.凍結血漿から調整したエクソソーム内miRについて,RNA-seqを用いた網羅的な解析を行い,GBM患者血漿エクソソームに多く含まれる34種のmiRと健常人血漿エクソソームに多く含まれる47種のmiRを同定した.GBM患者血漿エクソソームに多く含まれていたmiRの中で,エクソソームバイオマーカーとして報告のないmiR-186とmiR-20aについて,定量PCRを用いてGBM患者と健常人血漿エクソソーム内miR量を検討した.その結果,miR-20aはGBM患者と健常人間で有意な差は認められなかったが,GBM患者5人中4人の血漿エクソソームにmiR-186が豊富に含まれていることを確認した.加えて,術後患者ではmiR-186量が健常人レベルまで減少していることを発見した.さらに,標準治療を行った再発例においても,術前血漿エクソソーム内miR-186の上昇を認めた.これらの結果は,血漿エクソソーム内miR-186がGBMの病状に即した新規バイオマーカーである可能性を示唆している.