著者
山内 惟介
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.1-54, 2018

国連諸機関は,第二次世界大戦後,特にアジア,アフリカ諸国で顕著になった恒常的人口増加の問題性を繰り返し指摘してきた。約76億人の世界人口は毎年8千万人を超える規模で今後も増加することが高い確率で予測されている。概して,食糧の増産や資源の新規開発が行われるようになっても,このような人口増加は先進諸国における食糧,資源等の配分量に深刻な影響を及ぼすと考えられてきた。その前提には,利便性や効率性を追求する生活様式を維持しようとする先進諸国の欲望肯定型の政策がある。この現象は,政治や経済が機能していない国際社会の現実を示すだけでなく,現行の政治制度や経済体制を基礎付けてきた伝統的法律学の在り方(法学教育,実定法解釈学,司法実務等を含む)にも根本的な反省を迫っている。国際社会の現実をみると,一方で,戦禍や貧困に喘ぐ大多数の弱者は見捨てられ,他方で,強者に都合のよい自由主義,名ばかりの民主主義,少数の富裕層に有利な金融資本主義が優遇されている。その根底には,地球社会全体への目配りを拒否し,自分さえ良ければ他人の幸せはどうでもよいという偏った見方がある。小稿の意図は,伝統的法律学が抱える致命的弱点とこれに代わる地球社会法学の必要性を訴えることにある。
著者
山内 惟介
出版者
中央大学法学会 ; 1891-
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.855-910, 2015-08

伝統的な理解によれば、国際私法は、国家私法間の牴触を解決する法体系であると考えられている。行為規範という視点からみると、法の内容が明確である限り、法の適用結果について予見可能であるところから紛争の予防が十分可能であると説明されてきた。しかしながら、立法の内容が明確であるというにしても、その解釈の仕方に幅があり得るため、法の適用結果について予見不能な事態が頻出している。一国内でさえこのような不安定な状況がみられることに加え、渉外事件では解決機関としての裁判所も適用可能な国家私法も複数登場するためにこの種の不安定性がいやが上にも倍増する。しかも、ある国では解決済みとされる紛争が別の国では未解決のまま残されることも稀ではない。さらに、世界共通の全地球的課題となると、どの国でも未解決のまま放置され続けている。このような状況に対して、国際私法は、いかなる現実的解決策を提供できるか。国際私法のパラダイムを根本的に転換する必要性を指摘するとともに、ひとつの可能性を提案したのがこの小稿である。