著者
山科 典子 柴 喜崇 渡辺 修一郎 新野 直明 植木 章三 芳賀 博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1561, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】福祉用具はその使用により高齢者の日常生活動作の向上や介助量軽減,生活範囲の拡大を図ることができる。これまでに福祉用具の販売・貸与数は報告されているが,高齢者の福祉用具使用状況を報告したものはない。よって本研究は,一般高齢者(要支援・要介護認定を受けていない高齢者),要支援・要介護高齢者について,無作為標本抽出による実態調査を行い,高齢者の福祉用具使用状況を明らかにすることを目的とした。【方法】札幌市手稲区在住の65歳以上の一般高齢者,要支援・要介護高齢者から各2500名を無作為に抽出し,無記名の質問紙票による郵送調査を実施した。福祉用具使用に関する質問は,「あなたが普段使用している福祉用具すべてに○をつけてください」とし,杖,シルバーカー,歩行器,車いす,移動用リフト,補聴器,視覚補助具(拡大鏡など),ポータブルトイレ・尿器,食事介助器具,コルセット,上肢装具,下肢装具,その他,どれも使用していない,の中から回答を求めた(複数回答)。集計は介護度別に行い,統計解析として福祉用具使用率の性別比較についてχ2検定を行った。なお,5%未満を統計的有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】質問紙票の返送をもって同意とした。また,本研究は研究倫理委員会から承認を得た上で実施した。【結果】分析対象者は,一般高齢者1386名(男性715名,女性671名,平均年齢72.8±6.2歳),要支援・要介護高齢者998名(男性307名,女性691名,平均年齢82.7±7.4歳)であった。1.何らかの福祉用具を使用している人の割合何らかの福祉用具を使用している人の割合は,一般高齢者で22.4%(男性19.3%,女性25.6%),要支援・要介護高齢者全体で80.4%(男性75.6%,女性82.5%)であった。さらに,要支援1-2では80.2%(男性73.3%,女性83.2%),要介護1-2では76.7%(男性72.6%,女性78.5%),要介護3-5では87.6%(男性85.1%,女性88.7%)であった。なお,一般高齢者と要支援1-2では女性で福祉用具使用率が有意に高かった。2.使用率の高い福祉用具-要介護度・性別の検討-(1)一般高齢者男性では,コルセット6.2%,杖5.7%,補聴器5.2%,視覚補助具4.9%,下肢装具1.5%の順に,女性では,杖9.2%,コルセット7.6%,視覚補助具4.6%,補聴器4.3%,下肢装具2.2%の順に使用率が高く,杖・シルバーカーは女性で使用率が有意に高かった。(2)要支援1-2の高齢者男性では,杖51.7%,補聴器19.8%,視覚補助具19.8%,コルセット16.4%,下肢装具6.0%の順に,女性では,杖71.8%,コルセット26.7%,視覚補助具16.4%,補聴器10.7%,シルバーカー7.6%の順に使用率が高く,杖・シルバーカー・コルセットは女性で,補聴器は男性で使用率が有意に高かった。(3)要介護1-2の高齢者男性では,杖50.8%,視覚補助具16.9%,補聴器15.3%,車いす12.9%,ポータブルトイレ・尿器10.5%の順に,女性では,杖54.8%,車いす21.9%,コルセット16.5%,歩行器14.3%,補聴器13.3%の順に使用率が高く,車いす・コルセットは女性で,視覚補助具は男性で使用率が有意に高かった。(4)要介護3-5の高齢者男性では,車いす65.7%,杖20.9%,ポータブルトイレ・尿器19.4%,移動用リフト14.9%,食事介助器具13.4%の順に,女性では,車いす66.0%,杖31.3%,ポータブルトイレ・尿器20.7%,歩行器10.7%,補聴器8.0%の順に使用率が高く,移動用リフト・食事介助器具は男性で使用率が有意に高かった。【考察】一般高齢者の福祉用具使用率が2割以上であったことから,給付対象でなくとも何らかの支援が必要な対象が存在することが考えられた。また,福祉用具使用率には性差がみられ,介護度が低い高齢者において女性の使用率が有意に高かった。福祉用具の種類別では,使用率が高いものとして杖や車いす,コルセットが挙げられ,これらの福祉用具調整に関する知識・技能向上が求められると考えられた。また,補聴器や視覚補助具についても使用率が高く,高齢者の生活機能向上を考える上で理学療法士が使用方法等理解しておくことは必要であると考えられた。今後の研究発展として,使用率が高い福祉用具を中心に,需要と供給のバランスに関する調査や,使用方法・調整について適切か否かを調査する必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】これまでに高齢者の福祉用具使用状況を報告したものはない。本調査の結果は,理学療法分野において今後の福祉用具に関する教育・研究を行う上での一助となると考えられる。
著者
山科 典子
出版者
山形大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

1.目的本研究は、保育者が幼稚園児にどのように関わることで、文字への関心が生まれ、就学前の適切な発達が促されるのか、教師による意図的な環境構成を教育課程と絡めて考えることを目的とした。2.方法(1)年長1学期と3学期に個別に面接を行い、文字への関心と実態をはかる。(2)「おみせやさんごっこ」「お手紙ごっこ」「かるた・すごろく」など遊び場面と、「グループの名前を決めよう」「運動会のポスターをかこう」など生活場面における、子どもと文字のかかわりを観察し、援助する。(3)小学校1年生との交流を持ち、育ちの違いを意識しながら、文字とかかわる。3.結果と考察(1)面接により、年長中頃には、ほとんどの子どもが50音を読めることがわかった。書き方になると、その割合は減少。読み・書き両面において自分の名前に関する意識は高い。しかし、書ける子どもにおいても、鉛筆の持ち方や書き順には課題が多かった。ここから、読みが先行すること、関心が高く接する機会が多いものから習得すること、書くことにおいては指先の発達との関連が推測される。(2)遊園地ごっこにおいて、ホワイトボードの活用を提示。子どもが、どんな遊園地にしたいか、絵や文字で記す。仲間にイメージを分かりやすく伝えると共に、次の日の遊びへの橋渡しとしても有効だった。文字の持つ「伝える」「残す」という働きが、遊びの中でも大きな意味を持った。(3)1月にした1年生との給食試食会では、平仮名で書かれたカードをプレゼントされた。一緒の活動後、学校の楽しさを伝え、君を待っているよというメッセージをもらったことは、幼児にとって心動く体験であった。文字は書けないが読むことはできる子ども達にとって、文字に対する大きな刺激となった。楽しかった思いと共に、家庭にお土産としてカードを持ち帰るということは、入学への期待を膨らませる意味においても有効であった。