- 著者
-
岡崎 眸
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, no.1, pp.19-34, 2010-08-31
「外国人」年少者教育が直面している課題「日本語ができても教科学習に参加できない」に対して,二つのアプローチが提起されている.〈易しい日本語で教科を学ぶ「日本語・教科相互育成」〉と〈母語で教科の内容を学び,それを梃子に日本語で学ぶ「教科・母語・日本語相互育成」〉である.本稿では,この二つのアプローチを取り上げ, (1)子どもにとって,何がどのように実現されることなのか, (2)それは当の子ども,親,教員や学習支援者ひいては「外国人」受けいれの途上にある日本社会の今後のあり方にどのような未来を切り拓くものか,という視点から,バイリンガル教育研究の知見なども援用して検討した.検討素材としては,それぞれのアプローチに基づく実践現場の「学習場面における子どもと教師(支援者)のやりとりの談話」,「子どもの声」などを使用した.結果,在籍級の授業の予習としてなされる「母語訳された教材文を,母語で学ぶ」場面において,子どもは,自由に操ることのできる母語で,認知面・文化面・社会面などに関わる既有能力を駆使し,過去の母国での経験や母国で学んだ知識を統合しながら学習に参加していることが示された.他方,「日本語・教科相互育成」アプローチの下では早期の授業参加が可能となる一方で,制限のある日本語で参加する学習場面では,教師の指導に依存することが多く,既有能力を活かした学習が難しいことが推察された.また,「教科・母語・日本語相互育成」アプローチでは,「外国人」に,「日本語の教材文を母語に翻訳する」,「授業に支援者として関わる」などの役割が期待されていることから,「外国人」は,「外国人」年少者教育の推進主体となり,多言語社会の構築に向けて道を開くものであることが示された.