著者
西原 鈴子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.4-12, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
11

日本国内に留学生を受け入れることには,個々の留学生の知的達成目標と将来計画の充足を支援するという直接的目的のほかに,受け入れる日本社会の側からの期待が込められている。(1)日本の知的資源の国際的共有,(2)高等教育の活性化,(3)知日・親日人材の育成,(4)将来における生産年齢人口の質・量確保,などである。現行の計画の中で(1)の要因を満足させるには,英語力のある学生を優先的に獲得することが重要となるが,(4)のためには卒業までに日本社会で活躍できるだけの日本語能力を養成する責任を負うことを念頭に入れた,入学時の学生受け入れが肝要である。 日本留学の出発点においては,留学生としての資格を得るために「日本留学試験」などの関門が設けられており,各高等教育機関は,それらの大規模テストを主体的に活用することが求められている。しかし,大規模テスト自体にも制約が多く,留学生受け入れに果たす役割と持つべき性格に関して,現時点では関係各方面に認識が共有されているとはいえない。むしろ留学生に対する期待の違いに起因して錯綜する要因の存在が浮き彫りになる。留学生受け入れのためには,テスト制度の改善と共に,留学生受け入れに関して,日本の高等教育および日本社会の将来を視野に入れた議論が必須である。 さらに,受け入れた留学生が卒業・修了後に日本社会に定着し,中核的な人材として活躍することも見据えた,長期的展望に立った総合的留学生政策の策定が必須である。そのための産学官の連携,地域社会の行動計画を含めたさらなる議論を展開することが必要である。
著者
西原 鈴子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.172, pp.62-72, 2019 (Released:2021-04-26)
参考文献数
15

日本国内外の日本語学習・教育は,様々な要因を反映しつつ多様な展開を見せている。その流れは,日本語教育人材の在り方についての課題とそれに対応する取り組みに直結している。文化庁審議会国語分科会が2018年に刊行した報告書「日本語教育人材の養成・研修の在り方について」は,日本語教育人材の養成・研修について,課題を整理したうえで,各段階の教育内容のモデルカリキュラムを提示している。 本稿では,それらの指針に基づいて養成される人材の職業的成長を段階別に認証する方法について検討する。結論として,教育人材の認証に関わる組織・機構の設立が必要であること,日本語教師の職業的成長を評価する公的認証のためには,教育内容に関する知識・技能・態度のみならず,実践現場を取り巻く環境への対応,社会的責任のあり方など,複眼的要因による総合的評価基準の策定が必要であることを提案する。
著者
中島 和子 西原 鈴子 石井 恵理子 岡崎 眸
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

当該研究期間の研究成果を次の4点にまとめることができる。(1)複数言語環境で育つ言語形成期の幼児・児童・生徒が、どの言語の接触量も不十分な生育・家庭・学校環境に置かれたときに一時的に生じる言語性発達遅滞をセミリンガル現象と言う。幼児の場合は言語全体の発達遅滞、学齢期の場合は認知力を必要とする特定の言語領域(読解力、作文力、抽象語彙など)の発達遅滞につながる。現象面では子どもの生得の機能障害と共通するところが多いため誤解されることが多い。愛知県の外国人児童生徒調査と東京のNew International Schoolの会話力・読解力調査を通して、マジョリティー言語を母語とする子どもよりも、マイノリティー言語を母語とする子どもがセミリンガル現象に陥る可能性が高いことが確認された。(2)主な要因は、親の国を越えての移動による教育の断絶、突如強要される使用言語・学習言語の切り替え、劣悪な言語・文字環境から来る第一言語(母語)の未発達などである。(3)教育的処置としては、日本語と英語、日本語とポルトガル語、日本語と中国語のように言語体系が異なる2言語間でもL1→L2、L2→L1の双方向の転移があることから、幼児の場合は第1言語を強め、文字環境を改善すること。学齢期の場合は、a)心理的セミリンガル現象から自ら抜け出せるように、心のケア(=アイデンティティー育成)をすること、b)最大限の認知活動を促進する学校環境を整えることなどである。(4)国内の外国人児童生徒教育では、セミリンガル状況で入学する小学1年生が急増しており、また学習言語能力の発達遅滞のために中学1,2年で中退する生徒が増えていることに鑑み、セミリンガル現象に対する行政、学校当局、教師、保護者の認識を高める必要がある。本研究で立ち上げた「母語・継承語・バイリンガル教育研究会」がその面で大きな貢献をしてきている。