著者
中野 秀樹 岡崎 誠 岡本 浩明
出版者
遠洋水産研究所
雑誌
遠洋水産研究所研究報告 (ISSN:03867285)
巻号頁・発行日
no.34, pp.43-62, 1997-03
被引用文献数
4

まぐろはえなわ漁業で漁獲される魚類の漁獲深度は,漁具の漁獲効率,魚類の生息深度を評価するために有効である。特に日本のまぐろはえなわ漁業は歴史的にその漁具深度を深くしているので,浅縄および深縄の漁獲効率を比較することは,魚種に対する歴史的な漁獲効率の変化を定量的に評価するための基礎的な資料となる。本研究では,まぐろはえなわの枝縄別漁獲資料から,魚種の漁獲水深を推定し,あわせて敷設水深の異なる漁具の漁獲効率についても比較した。まぐろはえなわ操業の枝縄別漁獲資料は1992年から1995年までの間に太平洋の3つの海域から収集された。魚類の深度別釣獲率を懸垂曲線の当てはめにより推定し,魚類を水深が深くなるほど釣獲率が増加するもの,水深が増すと釣獲率が減少するもの,釣獲率が深度で変化しないものの3つのグループに大別した。ビンナガ(Thunnus alalunga),メバチ(T. obesus),アカマンボウ(Lampris guttatus),ミズウオ(Alepisaurus ferox),ヒレジロマンザイウオ(Taractichthys steindachneri)は釣獲率が深度とともに増加した。一方,カツオ(Katsuwonus pelamis),マカジキ(Tetrapturus audax),クロカジキ(Makaira mazara),バショウカジキ(Istiophorus platypterus),フウライカジキ(T. angustirostris),シイラ(Coryphaena hippurus),カマスサワラ(Acanthocybium solandri),クロタチカマス(Gempylus serpens),ヨゴレ(Carcharhinus longimanus)は水深が深くなると釣獲率が減少した。キハダ(T. albacares),メカジキ(Xiphiasgladius),アブラソコムツ(Lepidocybium flavobrunneum),アオザメ(Isurus oxyrinchus),ヨシキリザメ(Prionace glauca)は釣獲率に水深に伴う顕著な変化が認められなかった。また,東太平洋の調査海域と他の海域間で釣獲率が高くなる深度に違いがみられ,ビンナガ,メバチ,サワラ,アカマンボウ,アオザメなどで釣獲率の高い深度が他の海域より浅くなる傾向が観察された。まぐろはえなわの浅縄と深縄の操業ごとの釣獲率の平均値を魚種ごとに比較した結果,22種のうち13種で平均値間に統計的に有意な差が認められた。深い水深で釣獲率が高い種類の浅い枝縄との釣獲率の比は,1.51~20.6の値を示した(ビンナガ1.51-2.15,メバチ2.14-3.14,アカマンボウ20.6,ミズウオ1.63,ヒレジロマンザイウオ6.76,ハチワレ2.67)。一方,浅い深度で釣獲率の高い種類の比の値は0.4~0.92の範囲であった(マカジキ0.4-0.64,クロカジキ0.75,バショウカジキ0.92,フウライカジキ0.42-0.74,シイラ0.46,クロタチカマス0.72)。