著者
谷内 一彦 櫻井 映子 岡村 信行 倉増 敦朗
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.112, no.3, pp.99-103, 2009 (Released:2010-06-03)
参考文献数
6
被引用文献数
1

アレルギー疾患に対して抗ヒスタミン薬 (ヒスタミンH1受容体拮抗薬) は即効性のある標準的な治療法である. 日本では抗アレルギー薬として分類されている薬に強力なH1拮抗作用を持つものが多く, 注意を要する. 第一世代抗ヒスタミン薬はイタリアの薬理学者Daniel Bovetにより1930-40年代に最初に開発され, 多くの中枢神経系作用薬 (抗精神病薬や抗うつ薬など) の原型になった. 1957年にBovetはその薬理学的業績によりノーベル医学生理学賞を受賞している. さらにヒスタミン研究領域ではH2受容体アンタゴニスト (胃・十二指腸潰瘍治療薬) を開発したJames Blackがその30年後 (1988年) にノーベル医学生理学賞を受賞している.初期に開発された抗ヒスタミン薬は強力な中枢抑制作用があるために, 1980年代から非鎮静性抗ヒスタミン薬の開発が開始されてきた. 花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患にも中枢移行性の少ない第二世代抗ヒスタミン薬が推奨されているが, 日本では特に欧米と比較して第一世代鎮静性抗ヒスタミン薬やステロイド含有鎮静性抗ヒスタミン薬が使用されることが多く, 欧米人から大変奇異に見られている. ちなみに日本では現在でも成人で20-40%, 小児で80-95%が第一世代鎮静性抗ヒスタミン薬を医師により処方されている. さらに日本ではOTC薬として花粉症薬やかぜ薬に多くの抗ヒスタミン薬が含まれており, しかもテレビや新聞などマスコミでの宣伝が自由で, 一般の方にその危険性を知らせないために事故などに関係することも知られている. 医師や薬剤師は鎮静性抗ヒスタミン薬の危険性を十分に患者などに啓蒙する必要性があり, また処方する場合にはその鎮静作用の有無を十分に検討してから薬剤を選択することが重要である. できるかぎり中枢神経抑制作用が少ない非鎮静性抗ヒスタミン薬を第一選択薬とすべきである. なぜならその効果は第二世代抗ヒスタミン薬の間ではほぼ同じであるからである. 本総説ではヒスタミンの薬理学について最新の考え方を紹介する.
著者
岡村 信行 谷内 一彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:13478397)
巻号頁・発行日
vol.131, no.5, pp.333-337, 2008-05-01

生体内分子の非侵襲的画像化をめざした分子イメージング法が様々な分野に応用されているが,アルツハイマー病(AD)研究においては特徴的病理像である老人斑を描出するアミロイドイメージング技術が近年,大いに発展を遂げている.アミロイドイメージングは,人口の高齢化とともに急増するADを早期発見する検査として,さらには脳内Aβの沈着過程をモニタリングする新たな薬効評価系として,診断・治療評価の両面から強く期待されている.アミロイドの検出法としては,PET,SPECT,MRI,近赤外光イメージングなどを用いた手法が提案されているが,PETを用いた方法が現在の主流である.PETを用いたイメージングでは,老人斑への結合選択性に優れたプローブ開発が成功のカギを握る.プローブはアミロイドβタンパクへの高い結合親和性に加えて,高い脳血液関門透過性と正常組織からの速やかなクリアランスが要求される.これまでにプローブの候補化合物が数多く開発され,Thioflavin-T誘導体である[<sup>11</sup>C]PIBや[<sup>18</sup>F]FDDNP,[<sup>11</sup>C]BF-227などのプローブが実用化されている.これらのPETプローブを用いたアミロイドイメージングでは,ADの臨床診断を受けた大多数の患者の大脳皮質で集積異常を示す.またADの病前段階に相当する軽度認知障害(MCI)の過半数の症例も異常集積がみられ,将来のADへの進行を予測する指標となる.また健康成人の中にも異常所見を認める者が一定数存在する.これらは無症候段階でのアミロイド沈着を検出している可能性が高く,発症前診断へ向けたエビデンスの蓄積が求められる.本検査のさらなる普及をめざし,<sup>18</sup>F標識PETプローブやSPECT用プローブの開発が進められている.<br>
著者
岡村 信行 原田 龍一 工藤 幸司 谷内 一彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.3, pp.144-149, 2015 (Released:2015-09-10)
参考文献数
20
被引用文献数
2

ミスフォールディングタンパク質の脳内蓄積は,血液脳関門透過性を有するβシート結合プローブを放射性標識し,これを生体に投与することによって計測可能である.PET(陽電子断層撮像法)を用いたアミロイドβタンパク質および微小管結合タンパク質(タウ)のin vivo計測法が近年実用化され,アルツハイマー病に代表される神経変性疾患の診断補助マーカーとして活用されている.またアルツハイマー病における中核的病理像の存在を直接的に反映するバイオマーカーとして,新規治療薬の概念実証や治療対象者の絞り込みにも利用される.アミロイドイメージングでは標準的なPETプローブである[11C]PiBのほか,デリバリー供給も可能な18F標識薬剤が複数実用化されている.近年のアミロイドPET研究では,認知機能の障害されていない高齢者でも高頻度にアミロイドβタンパク質の脳内蓄積が観察されている.プレクリニカル・アルツハイマー病と呼称されるこうした高齢者の一群は,認知症発症のハイリスク群とみなされ,予防的介入研究の対象とされている.一方,脳内に蓄積したタウを画像化する技術はまだ確立されていないが,複数の有力なPETプローブが開発され,その臨床応用報告が近年相次いでいる.タウPETプローブの脳内集積量は疾患重症度とよく相関し,神経変性との密接な関わりを持つ新たな画像バイオマーカーとして注目されている.本技術は疾患モデル動物を用いた小動物イメージングにも応用可能である.これまで死後にしか知り得なかった線維化タンパク質の脳内蓄積を経時的に追跡することで,病初期におけるミスフォールディングタンパク質の形成プロセスを明らかにし,また治療前後での変化をモニタリングすることが可能である.