著者
難波 陽介 中務 桂佑 説田 章平 大石 真也 藤井 信孝 若林 嘉浩 岡村 裕昭 上野山 賀久 束村 博子 前多 敬一郎 大蔵 聡
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第103回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.54, 2010 (Released:2010-08-25)

【目的】キスペプチンは,Kiss1遺伝子にコードされ,性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)分泌刺激因子として注目されている神経ペプチドである。我々はウシKiss1遺伝子のcDNA塩基配列を同定し,ウシ型キスペプチンが53アミノ酸残基からなると推定した(第101回日本繁殖生物学会大会)。また,黒毛和種成熟雌ウシにおいて,ウシ型キスペプチンC末端部分ペプチドの末梢投与が黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を刺激することを示した(第102回日本繁殖生物学会大会)。本研究では,ウシにおけるキスペプチンの生理作用についてさらなる知見を得るため,全長ウシ型キスペプチン(bKp-53)の末梢投与によるLHおよびFSH分泌に対する効果と,第1卵胞発育波における主席卵胞の発育刺激効果を検討した。【方法】動物は黒毛和種成熟雌ウシを供試した(n=5)。プロスタグランジンF2α投与により誘起した発情日をDay 0とした。Day 5に,bKp-53 (0.2 nmol/kg)またはGnRH (0.2 nmol/kg)を静脈内投与した。投与前4時間から投与後6時間まで10分間隔で採血し,血漿中LHおよびFSH分泌動態を調べた。また,実験期間を通じて毎日,主席卵胞の直径を超音波診断装置により測定した。【結果】bKp-53の静脈内投与により,LHおよびFSH分泌の一過性の亢進がみられたが、主席卵胞は排卵しなかった。一方,GnRHの静脈内投与により,LHおよびFSH分泌は顕著に亢進し、投与後30時間から42時間までに主席卵胞の排卵を確認した。以上より,GnRHによる強力な性腺刺激ホルモン分泌刺激効果とは異なり、ウシにおいてキスペプチンはLHおよびFSH分泌を緩やかに亢進させる可能性が示唆された。本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の一部として実施した。