著者
治田 将 難波 陽介 内山 京子 伊藤 昌彦 佐々木 慎二 絹川 将史
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.114, pp.P-14-P-14, 2021

<p>【目的】精巣に微小石灰化が起こり,精液性状が不良になる黒毛和種種雄牛が確認されている。これらの種雄牛は,近い血縁にあり,精巣の造精機能に遺伝的な異常を抱える可能性がある。本研究では,精巣微小石灰化に関する遺伝的な要因を明らかにするため,精液性状,精巣組織の形態学的解析,RNA-seqによる精巣内遺伝子発現の網羅的解析を行った。【方法】精液および精巣は,家畜改良事業団繋養の黒毛和種種雄牛8頭(正常牛6頭,精巣微小石灰化発症牛2頭)から採取した。射出精液は,繋養開始時(0歳または1歳)から精巣採取時まで断続的に採取した。精巣の採取時年齢は,正常牛は5~14歳,発症牛は8歳および10歳であった。精液性状は,射出精液の精液量,精子濃度,総精子数,精子活力,凍結精液の融解後の精子活力で確認した。精巣組織の形態は,ブアン固定後にパラフィン包埋切片を作製し,HE染色で確認した。RNA-seqは,シーケンスリードを牛リファレンスゲノム(ARS-UCD1.2)にマッピングした後,RSEMおよびedgeRを用いて相対量の解析および統計処理を行った。【結果】2頭の発症牛は,6歳または8歳で精子濃度および総精子数が低下し,続いて精子活力が急激に低下する経過を辿った。精巣採取時点におけるこれらの種雄牛の精巣の精細管内腔には精細胞が少なく,2頭とも同様な精巣内構造の異常所見が確認された。2頭の発症牛は半兄弟であり,ほぼ同様の経過を辿っていることから,同一の遺伝的な要因の影響が示唆された。発症牛の精巣mRNA相対発現量は,1324種に有意な変動が確認された(FDR<0.01)。そのうち発現量が増加した遺伝子は1087種であり,TRH,AMDHD1,CLCC1等があった。低下した遺伝子は237種であり,PSMD1,AKAP11,SSR1等があった。また,スプライシングバリアント間の発現変動も検出された。これらの遺伝子は,精巣微小石灰化への関与が示唆された。本研究はJRA畜産振興事業による助成を受けて実施した。</p>
著者
難波 陽介 中務 桂佑 説田 章平 大石 真也 藤井 信孝 若林 嘉浩 岡村 裕昭 上野山 賀久 束村 博子 前多 敬一郎 大蔵 聡
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第103回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.54, 2010 (Released:2010-08-25)

【目的】キスペプチンは,Kiss1遺伝子にコードされ,性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)分泌刺激因子として注目されている神経ペプチドである。我々はウシKiss1遺伝子のcDNA塩基配列を同定し,ウシ型キスペプチンが53アミノ酸残基からなると推定した(第101回日本繁殖生物学会大会)。また,黒毛和種成熟雌ウシにおいて,ウシ型キスペプチンC末端部分ペプチドの末梢投与が黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を刺激することを示した(第102回日本繁殖生物学会大会)。本研究では,ウシにおけるキスペプチンの生理作用についてさらなる知見を得るため,全長ウシ型キスペプチン(bKp-53)の末梢投与によるLHおよびFSH分泌に対する効果と,第1卵胞発育波における主席卵胞の発育刺激効果を検討した。【方法】動物は黒毛和種成熟雌ウシを供試した(n=5)。プロスタグランジンF2α投与により誘起した発情日をDay 0とした。Day 5に,bKp-53 (0.2 nmol/kg)またはGnRH (0.2 nmol/kg)を静脈内投与した。投与前4時間から投与後6時間まで10分間隔で採血し,血漿中LHおよびFSH分泌動態を調べた。また,実験期間を通じて毎日,主席卵胞の直径を超音波診断装置により測定した。【結果】bKp-53の静脈内投与により,LHおよびFSH分泌の一過性の亢進がみられたが、主席卵胞は排卵しなかった。一方,GnRHの静脈内投与により,LHおよびFSH分泌は顕著に亢進し、投与後30時間から42時間までに主席卵胞の排卵を確認した。以上より,GnRHによる強力な性腺刺激ホルモン分泌刺激効果とは異なり、ウシにおいてキスペプチンはLHおよびFSH分泌を緩やかに亢進させる可能性が示唆された。本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の一部として実施した。