著者
束村 博子
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究は、味覚の雌雄差をもたらす脳の性分化メカニズムを明らかにすることを目的とて行われた。味覚のうち、特に甘味に対しメスがオスに比べて高い嗜好性を示すことが報告されていることから、ラットを用いて過去の報告と一致した結果が得られるかどうかを確かめた。カロリーとは関係なく、甘味のみに対する嗜好性を確かめるためにサッカリン水溶液を用いた。雌雄ラットに、0.25、0.5、あるいは0.75%サッカリン水溶液および対照として水道水を与え、その後2週間、水摂取に対するサッカリン摂取の割合を得た。その結果、ウィスター今道系のラットを用いた場合、メスがオスより有意に高い甘味嗜好性を示す日があることが確かめられた。この嗜好性の傾向は、卵巣除去メスと精巣除去オスとを比べた場合にも認められた。一方、Sprague-Dawley(SD)系ラットを用いて、同様の実験を行った結果、これまでの結果とは異なり、オスがメスに比べて有意に高い甘味嗜好性を示すことが明らかとなった。さらに、Long-Evans系ラットを用いて同様の実験を行ったところ、雌雄の間に明瞭な甘味嗜好性の違いは認められなかった。これらの結果より、ラットの系統によって雌雄の甘味嗜好性には違いがあり、メスあるいはオスが高い甘味嗜好性を示す場合、さらに雌雄に大きな違いがない場合があることが明らかとなった。すなわち、「メスは高い甘味嗜好性を示す」というこれまでの研究結果は普遍的でない可能性が高いことを示す結果となった。現在、過去の報告との違いの理由を検討するとともに、本研究結果を報告するための準備を行っている。
著者
前多 敬一郎 大倉 永也 内田 恵美 束村 博子 横山 昭
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
家畜繁殖学雑誌 (ISSN:03859932)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.153-158, 1988 (Released:2008-05-15)
参考文献数
17

乳子による吸乳刺激の代用としての乳腺神経の電気刺激の有用性を検討するため泌乳あるいは発情周期中の雌ラットの乳腺神経をウレタンあるいはチオペンタール麻酔下で電気刺激し,それぞれオキシトシン(OT)と黄体形成ホルモン(LH)の分泌に及ぼす影響を調べた。泌乳ラットにおける乳腺神経の電気刺激はOTの分泌を促進した。しかし,この電気刺激は発情周期中にあるラットにおいてもそのOTの分泌を増加させた。さらに,伏在ならびに正中神経の電気刺激も泌乳及び正常発情周期中のラットにおいて血中OT濃度を増加させた。これらの神経の電気刺激による血中OT濃度の変化はすべて類似していた。しかし,乳子による吸乳時にみられるような変化とは異なっていた。泌乳ラットにおけるチオペンタール麻酔下における乳腺神経の電気刺激は伏在神経の電気刺激に比較して平均血中LH濃度およびLHパルスの頻度並びに振幅を抑制した。以上の結果から,乳腺神経あるいは他の神経の電気刺激が非特異的に働いてオキシトシン分泌を促進したと考えられる。しかし,LH分泌に関しては伏在神経刺激対照群に比較して乳腺神経の電気刺激により強く抑制されたことから,乳腺神経刺激が吸乳刺激に変わる刺激として用いられる可能性は残されていると考えた。
著者
市原 学 那須 民江 上島 通浩 前多 敬一郎 束村 博子
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

18匹の雄F344ラットを6匹ずつの3群にわけ、それぞれに1-ブロモプロパン1000ppm、2-ブロモプロパン1000ppm、新鮮空気を8時間曝露した。16時間後に断頭し、精巣を取り出し、液体窒素で急速凍結した。液体窒素にて冷却しながら凍結精巣をハンマーにて粉砕し、凍結粉末からRNA抽出キットを用いてRNAを抽出した。電気泳動にてRNAの分解がないことを確認し、ラット精巣用DNAマイクロアレイ(DNAチップ研究所)を用いて遺伝子発現の変化を調べた。5082遺伝子中、263の遺伝子が1-ブロモプロパンと2-ブロモプロパンの曝露で共通して抑制されており、それには、S100,Creatinine kinase、glutathione S transferaseが含まれていた。37の遺伝子は1-ブロモプロパン曝露のみによって抑制され、119の遺伝子は2-ブロモプロパン曝露によってのみ抑制されていた。選択した遺伝子の遺伝子発現変化をリアルタイムPCRにより確認した。また、アロマターゼ遺伝子は1-ブロモプロパン,2-ブロモプロパンの曝露により発現が抑制されていた。1-ブロモプロパン曝露によって、ナトリウムチャンネル関連遺伝子の誘導、ATP結合、イオンチャンネル系の抑制、2-ブロモプロパン曝露により、DNA損傷関連遺伝子が誘導されており、1-ブロモプロパンが神経毒性が強く、2-ブロモプロパンが精租細胞アポトーシスを誘導するという過去の実験結果を説明するものであった。
著者
難波 陽介 中務 桂佑 説田 章平 大石 真也 藤井 信孝 若林 嘉浩 岡村 裕昭 上野山 賀久 束村 博子 前多 敬一郎 大蔵 聡
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第103回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.54, 2010 (Released:2010-08-25)

【目的】キスペプチンは,Kiss1遺伝子にコードされ,性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)分泌刺激因子として注目されている神経ペプチドである。我々はウシKiss1遺伝子のcDNA塩基配列を同定し,ウシ型キスペプチンが53アミノ酸残基からなると推定した(第101回日本繁殖生物学会大会)。また,黒毛和種成熟雌ウシにおいて,ウシ型キスペプチンC末端部分ペプチドの末梢投与が黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を刺激することを示した(第102回日本繁殖生物学会大会)。本研究では,ウシにおけるキスペプチンの生理作用についてさらなる知見を得るため,全長ウシ型キスペプチン(bKp-53)の末梢投与によるLHおよびFSH分泌に対する効果と,第1卵胞発育波における主席卵胞の発育刺激効果を検討した。【方法】動物は黒毛和種成熟雌ウシを供試した(n=5)。プロスタグランジンF2α投与により誘起した発情日をDay 0とした。Day 5に,bKp-53 (0.2 nmol/kg)またはGnRH (0.2 nmol/kg)を静脈内投与した。投与前4時間から投与後6時間まで10分間隔で採血し,血漿中LHおよびFSH分泌動態を調べた。また,実験期間を通じて毎日,主席卵胞の直径を超音波診断装置により測定した。【結果】bKp-53の静脈内投与により,LHおよびFSH分泌の一過性の亢進がみられたが、主席卵胞は排卵しなかった。一方,GnRHの静脈内投与により,LHおよびFSH分泌は顕著に亢進し、投与後30時間から42時間までに主席卵胞の排卵を確認した。以上より,GnRHによる強力な性腺刺激ホルモン分泌刺激効果とは異なり、ウシにおいてキスペプチンはLHおよびFSH分泌を緩やかに亢進させる可能性が示唆された。本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」の一部として実施した。